16:50 〜 17:00
[S20-13] [招待講演]海底掘削孔内観測のこれまでと今後の展望
海域は陸域と比べ観測網が乏しい一方で、海洋プレートの生成・沈み込みといった地球のダイナミクスが進行する最前線でもある。そのような場の観測ギャップを埋めるとともに、近接ないし、その場観測を行おうとする試みは、1980年代末のODP時代より、CORKと呼ばれる米加主導の観測の取り組みだけでなく、南海トラフへの温度計、日本海への広帯域地震計設置など日本がリードするチームのチャレンジを経て、90~2000年代には、日本海溝域の沈み込むプレート境界域の孔内観測アレイ、太平洋・フィリピン海プレートの長期孔内広帯域地震観測網の展開につながった。
これら初期の取り組みでは、孔内に観測センサーを設置し、ケーブルで海底のレコーダーまで接続を行い、海底のレコーダーを観測後無人探査機で回収するなどでデータを得ていたが、電池電源による長期間の連続観測と、シームレスなデータ取得に大きな課題があった。また、孔内へのセンサー固定は、国内外で様々な方法が試みられたが、安定な観測を念頭に、センサー設置区間にセメントを注入固定する方法を試み良い成果が得られたため、以来標準的な設置法として用いられるようになった。
2006年から開始した日本が建造した地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP南海掘削計画では、南海トラフでの巨大地震発生のプロセスの研究のため、沈み込むプレートの地震断層を構造のサンプリングと、その断層のダイナミクスの長期観測を目指した。計画では。海底下数km 以深の固着する断層をまたぐ近傍観測を最終目標としたが、着実なステップを踏むために、南海トラフの沈み込みプレート境界域での地殻変動~地震ダイナミクスのモードの沈みこみに伴う変遷を観測するために3基の海底孔内観測点によるアレイ観測を計画した。計画にあたっては過去の経験から、当時開発が開始されていた海底ケーブル観測網DONETの拡張機能を使って、海底孔内観測点をDONETに接続することで、連続・長期的な観測をねらった。また、孔内センサーをセメントで恒久的に固定するためセンサーの故障時交換ができないことを考え、複数種の孔内センサー(孔内歪計・広帯域地震計・地震計および傾斜計・温度計アレイ・孔内間隙水圧ポート)をそれぞれ独立に海底まで接続する冗長性を持たせた。
このような長期孔内観測点の設置は、現地の速い黒潮によって最大1km 長にもなる孔内センサーシステムが大きな渦振動を励起して破損する問題の解決など、掘削技術者とともに問題解決を必要としたが、最初の観測点C0010が2010年にかけて設置観測開始したのを皮切りに、2018年設置のC0006点まで、順次孔内設置、DONETへの接続開発、接続・長期観測の開始と進んだ。最初のDONETの接続は、DONETの2010年の海底観測点稼働開始後に開発を開始し、2013年であった。
これらの海底孔内観測点の安定な観測環境で長期・連続観測を分布する複数点で行えたことで、陸上・海底面の観測では観測が困難な「浅部ゆっくり滑り」が繰り返す様子をとらえることができた(Araki et al., 2017他)。観測された「浅部ゆっくり滑り」は、同様なイベントが繰り返すなか、沈み込み先端部まで滑るものなど多様性もあり、現在、地震調査委員会等に観測報告を定例で行っているが、近接・多点・広域での観測が重要だと深く認識するに至った。
そこで広域の「浅部ゆっくり滑り」の発生状況を把握するため、南海トラフ広域への海底孔内観測点の展開とリアルタイム観測を企図した開発を行った。新しい開発では、安定な環境でゆっくり滑りが観測できることだけでなく、来るべき巨大地震も含め超広帯域・高ダイナミックレンジの観測を長期の確実に行うことを目指し、交換できない孔内に故障の要素を排し、孔内間隙水圧ポートと光ファイバによる歪センサシステムを構成した。新しい海底長期孔内観測システムは、2023年に紀伊水道沖に1基目を設置し、2024年から観測を開始したばかりであるが、安定した観測を行うことができている。今後四国沖・日向灘にも海底孔内観測点を展開し、海底ケーブル観測網にリンクしたリアルタイムの地殻変動観測を実現すべく、準備を進めている。
広域の展開を進める一方、南海掘削計画で企図した「地震断層のその場計測」は、付加体の掘削の困難などがあり、未完である。プレート境界域の海底掘削孔内での観測は安定した環境での観測もさることながら、地震断層近傍の非弾性的・水理的なプロセスなど、地震の発生過程を理解するために重要な観測を実現できる唯一の方法であり、海域プレート境界の掘削とその場孔内計測の実現に向け、さらなる努力が必要である。
これら初期の取り組みでは、孔内に観測センサーを設置し、ケーブルで海底のレコーダーまで接続を行い、海底のレコーダーを観測後無人探査機で回収するなどでデータを得ていたが、電池電源による長期間の連続観測と、シームレスなデータ取得に大きな課題があった。また、孔内へのセンサー固定は、国内外で様々な方法が試みられたが、安定な観測を念頭に、センサー設置区間にセメントを注入固定する方法を試み良い成果が得られたため、以来標準的な設置法として用いられるようになった。
2006年から開始した日本が建造した地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP南海掘削計画では、南海トラフでの巨大地震発生のプロセスの研究のため、沈み込むプレートの地震断層を構造のサンプリングと、その断層のダイナミクスの長期観測を目指した。計画では。海底下数km 以深の固着する断層をまたぐ近傍観測を最終目標としたが、着実なステップを踏むために、南海トラフの沈み込みプレート境界域での地殻変動~地震ダイナミクスのモードの沈みこみに伴う変遷を観測するために3基の海底孔内観測点によるアレイ観測を計画した。計画にあたっては過去の経験から、当時開発が開始されていた海底ケーブル観測網DONETの拡張機能を使って、海底孔内観測点をDONETに接続することで、連続・長期的な観測をねらった。また、孔内センサーをセメントで恒久的に固定するためセンサーの故障時交換ができないことを考え、複数種の孔内センサー(孔内歪計・広帯域地震計・地震計および傾斜計・温度計アレイ・孔内間隙水圧ポート)をそれぞれ独立に海底まで接続する冗長性を持たせた。
このような長期孔内観測点の設置は、現地の速い黒潮によって最大1km 長にもなる孔内センサーシステムが大きな渦振動を励起して破損する問題の解決など、掘削技術者とともに問題解決を必要としたが、最初の観測点C0010が2010年にかけて設置観測開始したのを皮切りに、2018年設置のC0006点まで、順次孔内設置、DONETへの接続開発、接続・長期観測の開始と進んだ。最初のDONETの接続は、DONETの2010年の海底観測点稼働開始後に開発を開始し、2013年であった。
これらの海底孔内観測点の安定な観測環境で長期・連続観測を分布する複数点で行えたことで、陸上・海底面の観測では観測が困難な「浅部ゆっくり滑り」が繰り返す様子をとらえることができた(Araki et al., 2017他)。観測された「浅部ゆっくり滑り」は、同様なイベントが繰り返すなか、沈み込み先端部まで滑るものなど多様性もあり、現在、地震調査委員会等に観測報告を定例で行っているが、近接・多点・広域での観測が重要だと深く認識するに至った。
そこで広域の「浅部ゆっくり滑り」の発生状況を把握するため、南海トラフ広域への海底孔内観測点の展開とリアルタイム観測を企図した開発を行った。新しい開発では、安定な環境でゆっくり滑りが観測できることだけでなく、来るべき巨大地震も含め超広帯域・高ダイナミックレンジの観測を長期の確実に行うことを目指し、交換できない孔内に故障の要素を排し、孔内間隙水圧ポートと光ファイバによる歪センサシステムを構成した。新しい海底長期孔内観測システムは、2023年に紀伊水道沖に1基目を設置し、2024年から観測を開始したばかりであるが、安定した観測を行うことができている。今後四国沖・日向灘にも海底孔内観測点を展開し、海底ケーブル観測網にリンクしたリアルタイムの地殻変動観測を実現すべく、準備を進めている。
広域の展開を進める一方、南海掘削計画で企図した「地震断層のその場計測」は、付加体の掘削の困難などがあり、未完である。プレート境界域の海底掘削孔内での観測は安定した環境での観測もさることながら、地震断層近傍の非弾性的・水理的なプロセスなど、地震の発生過程を理解するために重要な観測を実現できる唯一の方法であり、海域プレート境界の掘削とその場孔内計測の実現に向け、さらなる努力が必要である。