11:45 AM - 12:00 PM
[S21-09] Physics-Informed Deep Learning for Forward and Inverse Modeling of Inplane Crustal Deformation
プレート運動や地震に起因する地殻変動は、断層の変位食い違いモデル(dislocation model)により記述され、解析解や差分法・有限要素法などの数値解法によるモデリング手法が発展してきた。一方で、機械学習分野においてneural network (NN)により偏微分方程式系を順・逆解法するphysics-informed neural network (PINN)が提案され(Raissi et al., 2019)、自然科学・工学の各分野に応用されている。Okazaki et al. (2022)はPINNを横ずれ断層のモデルである「反平面(antiplane)歪み」における地震時地殻変動の「順解析」に適用し、同手法による3次元構造や様々なレオロジーにおける時間発展モデリング、逆解析やデータ同化への発展可能性を示した。
本研究では、PINNによる地殻変動の解析対象を以下の2点において拡張する:
・平面(inplane)歪み
・逆解析
正・逆断層のモデルである平面歪み問題は沈み込み帯のモデリング研究等で用いられており、これらの拡張はPINNの実用化に向けて重要なステップと考えられる。
Okazaki et al. (2022)は極座標を用いることで断層端部(dislocation line)における特異性を解消し、断層近傍を含め精確な解を得た。この方法は平面歪み問題にも適用できるが、一般の3次元構造には直接応用できない。そこで本研究では直交座標による解法も実施する。断層両側で変位不連続が生じるため、直交座標では単一のNNで解を近似することができない。そこで断層面に沿って領域を二分割し、各領域の変位場を異なるNNにより近似し、二領域の(断層面以外の)接触面において変位とその微分が連続である条件を課す。この方法では、断層端部で応力発散する一様すべりの変位場は解けないが、物理的に妥当な有限応力を生じるすべり分布の変位場を解くことができる。以下では順・逆解析それぞれについて直交・極座標による解析結果を比較する。
順解析においては、直交・極座標ともにほぼ精確な変形場が得られたが、変位場に定数シフト(剛体運動)の差異が見られた。定数シフトは断層が傾斜しているほど、また直交座標のほうが一貫して大きく、順解析においては極座標のほうが優れている結果となった。また、PINNは幾何形状・係数変化のモデリングに長けており、平面歪み問題においても地形・不均質・断層形状のある地下構造を容易に解析できた。
逆解析では、断層形状を含む地下構造を既知とし、すべり分布を推定する線形インバージョンのsynthetic testを実施した。PINNによる逆解析では、観測量(例:走時)と推定量(例:地震波速度)を近似する複数のNNを同時に最適化するのが一般的であるが、すべり逆解析においては観測量(地表変位)と推定量(断層すべり量)がともに変位のため、単一のNNで実施できる点が特徴である。数値実験の結果、直交座標のほうが良い推定値が得られた。
PINNによる逆解析では、微分方程式と観測データからの残差を損失関数とし、推定を安定させる正則化項を陽に課していないにもかかわらず、平滑なすべり分布が推定された。この理由をグリーン関数に基づく以下の2つの運動学的逆解法と比較することで検討した:
・ABIC: すべり量を基底関数展開する。平滑化の先験情報を与えABICにより最適化。
・NN: すべり量をNNで表現する。平滑化条件を課さない。
NNでは極めて不安定なすべり分布が推定された。NNは連続関数であるが自由度が高いため、観測データに過適合することを示している。ABICでは観測データの量・質に応じた平滑な解が得られたが、PINN直交座標の解はそれと同程度の滑らかさであった。これはPINNにおいて暗黙的に正則化がかかることを示唆している。手法の特性として、グリーン関数を用いる場合は断層すべりと地表変位の関係のみを扱い、地下の変形は考慮されない。一方PINNでは地下を含む変位場を解くため、断層近傍に応力が極度に集中する不安定な解が回避されやすいと考えられる。このようにPINNでは微分方程式を直接解くことで、物理的な要請に基づき暗黙的な正則化がかかっている可能性が考えられる。一般の劣決定問題におけるPINN解の正則性について、本大会の佐藤・岡崎(2024, 地震学会)で議論される。
本研究では、PINNによる地殻変動の解析対象を以下の2点において拡張する:
・平面(inplane)歪み
・逆解析
正・逆断層のモデルである平面歪み問題は沈み込み帯のモデリング研究等で用いられており、これらの拡張はPINNの実用化に向けて重要なステップと考えられる。
Okazaki et al. (2022)は極座標を用いることで断層端部(dislocation line)における特異性を解消し、断層近傍を含め精確な解を得た。この方法は平面歪み問題にも適用できるが、一般の3次元構造には直接応用できない。そこで本研究では直交座標による解法も実施する。断層両側で変位不連続が生じるため、直交座標では単一のNNで解を近似することができない。そこで断層面に沿って領域を二分割し、各領域の変位場を異なるNNにより近似し、二領域の(断層面以外の)接触面において変位とその微分が連続である条件を課す。この方法では、断層端部で応力発散する一様すべりの変位場は解けないが、物理的に妥当な有限応力を生じるすべり分布の変位場を解くことができる。以下では順・逆解析それぞれについて直交・極座標による解析結果を比較する。
順解析においては、直交・極座標ともにほぼ精確な変形場が得られたが、変位場に定数シフト(剛体運動)の差異が見られた。定数シフトは断層が傾斜しているほど、また直交座標のほうが一貫して大きく、順解析においては極座標のほうが優れている結果となった。また、PINNは幾何形状・係数変化のモデリングに長けており、平面歪み問題においても地形・不均質・断層形状のある地下構造を容易に解析できた。
逆解析では、断層形状を含む地下構造を既知とし、すべり分布を推定する線形インバージョンのsynthetic testを実施した。PINNによる逆解析では、観測量(例:走時)と推定量(例:地震波速度)を近似する複数のNNを同時に最適化するのが一般的であるが、すべり逆解析においては観測量(地表変位)と推定量(断層すべり量)がともに変位のため、単一のNNで実施できる点が特徴である。数値実験の結果、直交座標のほうが良い推定値が得られた。
PINNによる逆解析では、微分方程式と観測データからの残差を損失関数とし、推定を安定させる正則化項を陽に課していないにもかかわらず、平滑なすべり分布が推定された。この理由をグリーン関数に基づく以下の2つの運動学的逆解法と比較することで検討した:
・ABIC: すべり量を基底関数展開する。平滑化の先験情報を与えABICにより最適化。
・NN: すべり量をNNで表現する。平滑化条件を課さない。
NNでは極めて不安定なすべり分布が推定された。NNは連続関数であるが自由度が高いため、観測データに過適合することを示している。ABICでは観測データの量・質に応じた平滑な解が得られたが、PINN直交座標の解はそれと同程度の滑らかさであった。これはPINNにおいて暗黙的に正則化がかかることを示唆している。手法の特性として、グリーン関数を用いる場合は断層すべりと地表変位の関係のみを扱い、地下の変形は考慮されない。一方PINNでは地下を含む変位場を解くため、断層近傍に応力が極度に集中する不安定な解が回避されやすいと考えられる。このようにPINNでは微分方程式を直接解くことで、物理的な要請に基づき暗黙的な正則化がかかっている可能性が考えられる。一般の劣決定問題におけるPINN解の正則性について、本大会の佐藤・岡崎(2024, 地震学会)で議論される。