14:15 〜 14:30
[S22-10] 経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより推定された2024年能登半島地震の震源断層の破壊過程
経験的グリーン関数を用いた波形インバージョンにより2024年能登半島地震の震源断層の破壊過程の推定を行った.ここでの主な目的は,構造物の大被害につながりやすい0.2-2Hz程度の地震動が断層面のどの部分でどのようなタイミングで生成されたかを知ることである.高周波側は2Hz程度までを対象とし,かつ,3次元的な地下構造を考慮して地震動を計算するには経験的グリーン関数を用いることが有利である.そこで,ここでは断層面をカバーするように5つの中小地震を選び,地震動の計算を行った.破壊フロント(First-time-window-triggering front)を開くタイミングについては先行研究1)も参考にさせていただいた.
この地震については気象庁が16:10:9.54(M5.9)と16:10:22.57(M7.6)の2つのイベントを発表している.このうち後者の方が大きいので,通常であれば後者の時刻から破壊フロントを開くことを考えるが,それでは観測波形の先頭部分が説明できないことが早くから指摘されていた1).そこで,実際に個々の波形について,イベント2の時刻から破壊フロントを開くのでは説明できない部分がどこであるか検討してみたところ,特にISK001(大谷),ISKH03(内浦),ISKH02(柳田)の波形はイベント2に先行する初期破壊の影響を強く受けていると考えられた.ただ,より東側のISKH01(珠洲),ISK002(正院)やより西側のISK003(輪島),ISK015(大町),ISKH04(富来),ISKH06(志賀)ではイベント2に先行する振幅は小さいため,初期破壊はISK001,ISKH03,ISKH02に局所的に影響を及ぼすものであったのではないかと推定された.
ISKH03のEW成分とISKH02のNS成分は比較的単純な形をしており明瞭なパルス波が認められることが特徴である.ここではISKH03の51.0秒付近とISKH02の151.4秒付近のパルス波に加え,ISK003の45.0秒付近のパルス波が同一の波源に由来すると仮定して波源の位置と時刻を推定した.その結果,パルス波の波源はイベント2よりも40kmほど西の深部に位置していたと考えられた.この位置は穴水に比較的近い.
波形インバージョンでは国土地理院による3枚の矩形断層2)を修正しながら用いた.最も西側の断層1はそのまま用いた.断層3については,気象庁のイベント2を断層3に投影したところ面内に収まらなかったので,面内に収まるよう下方に延長した(図の*が投影).また,先に述べたようにイベント2よりも40kmほど西の深部(穴水付近)に強い破壊の一つが位置していたと考えられ,これは国土地理院の断層2ではカバーできないと考えられたため,国土地理院の断層2を用いることを止め,代わりに断層3を西方に延長した.さらに初期破壊を表現するため,断層3の走向に沿って10km~40kmの範囲に断層3に重ねるように(本研究の)断層2を置いた.断層2はイベント2よりも13秒早く*の位置から同心円状に破壊するものとした.断層3は当初はイベント2の時刻に*の位置から同心円状に破壊するものとしていたが,ISK003等の波形の再現性を考慮し破壊を3秒早めた.断層1は北東側の角から破壊開始するものとし,破壊開始はイベント2の11.3秒後とした.破壊フロントの拡大速度は3.1km/sとした.断層面上の各点は破壊フロント通過後の6秒間にすべると仮定した.データとして用いたのは水平2成分の32秒間の速度波形(0.2~2Hz)である.図に各断層の最終すべり量分布を示す.断層2ですべりの大きい部分は*の位置よりも6kmほどupdip側である.断層3では*の位置付近で大きなすべりが生じており,これが震央に近い観測点に初期破壊からやや遅れて大振幅の地震動をもたらしたと考えられる.また,断層3西端部の深部にもすべりの大きい部分が認められるが,これはISKH03の51.0秒付近とISKH02の151.4秒付近のパルスの波源に対応すると考えられる(ISKH03の地表ではこの時刻に100cm/sを超える揺れとなっている).輪島での地震動の後半部分の振幅の大きい部分も同じ破壊によってもたらされたと考えられる.
謝辞 防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-netのMT解,気象庁一元化処理震源リスト,国土地理院の断層モデルを利用しました.記して謝意を表します.
参考文献 1) 浅野公之・岩田知孝:強震波形による2024年能登半島地震の震源破壊過程,JpGU2024.2) 国土地理院:令和6年能登半島地震の震源断層モデル,2024,https://www.gsi.go.jp/common/000255958.pdf.
この地震については気象庁が16:10:9.54(M5.9)と16:10:22.57(M7.6)の2つのイベントを発表している.このうち後者の方が大きいので,通常であれば後者の時刻から破壊フロントを開くことを考えるが,それでは観測波形の先頭部分が説明できないことが早くから指摘されていた1).そこで,実際に個々の波形について,イベント2の時刻から破壊フロントを開くのでは説明できない部分がどこであるか検討してみたところ,特にISK001(大谷),ISKH03(内浦),ISKH02(柳田)の波形はイベント2に先行する初期破壊の影響を強く受けていると考えられた.ただ,より東側のISKH01(珠洲),ISK002(正院)やより西側のISK003(輪島),ISK015(大町),ISKH04(富来),ISKH06(志賀)ではイベント2に先行する振幅は小さいため,初期破壊はISK001,ISKH03,ISKH02に局所的に影響を及ぼすものであったのではないかと推定された.
ISKH03のEW成分とISKH02のNS成分は比較的単純な形をしており明瞭なパルス波が認められることが特徴である.ここではISKH03の51.0秒付近とISKH02の151.4秒付近のパルス波に加え,ISK003の45.0秒付近のパルス波が同一の波源に由来すると仮定して波源の位置と時刻を推定した.その結果,パルス波の波源はイベント2よりも40kmほど西の深部に位置していたと考えられた.この位置は穴水に比較的近い.
波形インバージョンでは国土地理院による3枚の矩形断層2)を修正しながら用いた.最も西側の断層1はそのまま用いた.断層3については,気象庁のイベント2を断層3に投影したところ面内に収まらなかったので,面内に収まるよう下方に延長した(図の*が投影).また,先に述べたようにイベント2よりも40kmほど西の深部(穴水付近)に強い破壊の一つが位置していたと考えられ,これは国土地理院の断層2ではカバーできないと考えられたため,国土地理院の断層2を用いることを止め,代わりに断層3を西方に延長した.さらに初期破壊を表現するため,断層3の走向に沿って10km~40kmの範囲に断層3に重ねるように(本研究の)断層2を置いた.断層2はイベント2よりも13秒早く*の位置から同心円状に破壊するものとした.断層3は当初はイベント2の時刻に*の位置から同心円状に破壊するものとしていたが,ISK003等の波形の再現性を考慮し破壊を3秒早めた.断層1は北東側の角から破壊開始するものとし,破壊開始はイベント2の11.3秒後とした.破壊フロントの拡大速度は3.1km/sとした.断層面上の各点は破壊フロント通過後の6秒間にすべると仮定した.データとして用いたのは水平2成分の32秒間の速度波形(0.2~2Hz)である.図に各断層の最終すべり量分布を示す.断層2ですべりの大きい部分は*の位置よりも6kmほどupdip側である.断層3では*の位置付近で大きなすべりが生じており,これが震央に近い観測点に初期破壊からやや遅れて大振幅の地震動をもたらしたと考えられる.また,断層3西端部の深部にもすべりの大きい部分が認められるが,これはISKH03の51.0秒付近とISKH02の151.4秒付近のパルスの波源に対応すると考えられる(ISKH03の地表ではこの時刻に100cm/sを超える揺れとなっている).輪島での地震動の後半部分の振幅の大きい部分も同じ破壊によってもたらされたと考えられる.
謝辞 防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録,F-netのMT解,気象庁一元化処理震源リスト,国土地理院の断層モデルを利用しました.記して謝意を表します.
参考文献 1) 浅野公之・岩田知孝:強震波形による2024年能登半島地震の震源破壊過程,JpGU2024.2) 国土地理院:令和6年能登半島地震の震源断層モデル,2024,https://www.gsi.go.jp/common/000255958.pdf.