3:15 PM - 3:30 PM
[S22-13] Imaging complex rupture evolution of the 2024 Mw7.5 Noto Peninsula earthquake by the back-projection of near-field array records
2024年1月1日16時10分に、石川県能登地方でMw7.5の地震が発生した。この地震の破壊過程を調べるため、近地アレイデータにバックプロジェクション法(Ishii et al., 2005)を適用した。バックプロジェクション法は、観測波形から直接エネルギー放射強度の時空間分布を推定することが可能であり、通常の波形インバージョンのように理論波形の計算や破壊伝搬速度などの仮定が不要である大きな利点がある。また、バックプロジェクション法には遠地アレイデータが使われることが多いが、近地アレイデータを使用することで、より時空間分解能の高い結果が得られる。
本研究では、地震予知総合研究振興会が新潟県長岡地区に展開している観測網(AN-net)(関根, 2022)のデータを使った。AN-netは能登半島地震の本震の震源域からおよそ100km東側に位置しており、50 km×30 kmの範囲に40点の観測点が存在する。それぞれの観測点には深度約100mのボアホールに高感度地震計(Lennarts LE-3Dlite MkII)と強震計(航空電子JA-40GA)が設置されているほか、地表にも同じ強震計が設置されている。本研究ではデータ品質を考慮し、ボアホールの強震計データを解析に使用した。実際の解析では、加速度記録を積分して速度波形にし、0.2-2.0 Hzの帯域のバンドパスフィルターを掛けたデータを使用した。
バックプロジェクション法では断層面を仮定する必要は無いが、ここでは沿岸域の活断層(井上・岡村, 2010)や余震分布の特徴を参考にし、南東傾斜の断層面(Fault 1)に加えて余震域北東部に北北西傾斜の断層面(Fault 2)を設定した。バックプロジェクション法により推定された破壊過程の主な特徴は以下の通りである。
・破壊は能登半島の北東部(Fault 1上)で開始し、エネルギー放射は小さいものの、深さ10km以浅を破壊しながら15秒ほどかけて能登半島の南西端まで進展した。
・その後、破壊は進展方向を北東に変え、約20秒かけて地表付近を破壊しながらFault 1の北東端まで達した。このときの破壊伝搬速度はP波速度に近いsupershearとなり、このsupershear破壊は約20秒間続いた(破壊開始から15~35秒)。この段階で、この地震の大部分のエネルギーが放射された。
・破壊はその後減速しながらFault 1の深部方向へと伝搬した。全体の破壊継続時間は約50秒であった。
・Fault 2への破壊の乗り移りは明瞭ではなく、Fault 2での大きなすべりは無かったか、あったとしても断層の南西端で限定的であったと推定される。
浅部における大きなエネルギー放射は、最大4mほどの海岸隆起や津波の発生と調和的である。また、近地強震波形に見られる複雑な波群や継続時間の特徴は、supershearを含む上述の破壊過程により概ね説明できそうである。さらに、S/Nがやや悪くなるが、首都圏地震観測網(MeSO-net)で観測された波群の特徴も同様に説明できそうである。
CMT解やGNSSによる地殻変動パターンから、今回の地震は横ずれを伴う逆断層地震である。逆断層で顕著なsupershear破壊が確認されたのは、初めての事例と思われる。このようなsupershear破壊が起こる物理的条件を解明し、能登半島地震による甚大な被害との関係を明らかにしていくことは、将来の地震災害の軽減に向けて重要な課題である。
謝辞:解析にはAN-net、MeSO-net、K-NET、KiK-net、気象庁一元化カタログを使用しました。記して感謝いたします。
本研究では、地震予知総合研究振興会が新潟県長岡地区に展開している観測網(AN-net)(関根, 2022)のデータを使った。AN-netは能登半島地震の本震の震源域からおよそ100km東側に位置しており、50 km×30 kmの範囲に40点の観測点が存在する。それぞれの観測点には深度約100mのボアホールに高感度地震計(Lennarts LE-3Dlite MkII)と強震計(航空電子JA-40GA)が設置されているほか、地表にも同じ強震計が設置されている。本研究ではデータ品質を考慮し、ボアホールの強震計データを解析に使用した。実際の解析では、加速度記録を積分して速度波形にし、0.2-2.0 Hzの帯域のバンドパスフィルターを掛けたデータを使用した。
バックプロジェクション法では断層面を仮定する必要は無いが、ここでは沿岸域の活断層(井上・岡村, 2010)や余震分布の特徴を参考にし、南東傾斜の断層面(Fault 1)に加えて余震域北東部に北北西傾斜の断層面(Fault 2)を設定した。バックプロジェクション法により推定された破壊過程の主な特徴は以下の通りである。
・破壊は能登半島の北東部(Fault 1上)で開始し、エネルギー放射は小さいものの、深さ10km以浅を破壊しながら15秒ほどかけて能登半島の南西端まで進展した。
・その後、破壊は進展方向を北東に変え、約20秒かけて地表付近を破壊しながらFault 1の北東端まで達した。このときの破壊伝搬速度はP波速度に近いsupershearとなり、このsupershear破壊は約20秒間続いた(破壊開始から15~35秒)。この段階で、この地震の大部分のエネルギーが放射された。
・破壊はその後減速しながらFault 1の深部方向へと伝搬した。全体の破壊継続時間は約50秒であった。
・Fault 2への破壊の乗り移りは明瞭ではなく、Fault 2での大きなすべりは無かったか、あったとしても断層の南西端で限定的であったと推定される。
浅部における大きなエネルギー放射は、最大4mほどの海岸隆起や津波の発生と調和的である。また、近地強震波形に見られる複雑な波群や継続時間の特徴は、supershearを含む上述の破壊過程により概ね説明できそうである。さらに、S/Nがやや悪くなるが、首都圏地震観測網(MeSO-net)で観測された波群の特徴も同様に説明できそうである。
CMT解やGNSSによる地殻変動パターンから、今回の地震は横ずれを伴う逆断層地震である。逆断層で顕著なsupershear破壊が確認されたのは、初めての事例と思われる。このようなsupershear破壊が起こる物理的条件を解明し、能登半島地震による甚大な被害との関係を明らかにしていくことは、将来の地震災害の軽減に向けて重要な課題である。
謝辞:解析にはAN-net、MeSO-net、K-NET、KiK-net、気象庁一元化カタログを使用しました。記して感謝いたします。