日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

特別セッション » S22. 令和6年能登半島地震

[S22P] PM-P

2024年10月22日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S22P-19] 現地調査結果に基づく2024年能登半島地震津波の津波マグニチュードm

*行谷 佑一1、伊尾木 圭衣1、今井 健太郎2、楠本 聡2、王 宇晨2、堀川 博紀2、村上 雅亮3 (1. 産業技術総合研究所、2. 海洋研究開発機構、3. 和歌山県)

津波の規模階級として、今村(1949, 地震2)やIida (1958, The Journal of earth sciences, Nagoya University)による今村・飯田スケールをベースとした羽鳥(1986, 震研彙報)による津波マグニチュードmが知られている。本研究では2024年1月1日に発生した能登半島地震津波について、われわれが実施した津波高さの現地調査結果とYuhi et al. (2024, Coastal Engineering Journal)による現地調査結果を利用し、津波マグニチュードmを推定したので報告する。
 津波マグニチュードmは、津波の高さの対数が震央海上距離(震央からの海洋上の最短距離)の対数の-1乗に比例して減衰するという考えに基づいた量であり、日本海で発生した地震津波としては、例えば1964年新潟地震(M7.5)でm=2, 1983年日本海中部地震(M7.7)でm=3などと推定されている[羽鳥(1964)]。津波マグニチュードmは、津波の全体的な規模を一つの値で把握するための尺度の一つと言えよう。
 われわれは2024年能登半島地震津波について現地調査を実施した。調査範囲は山形県酒田市~富山県氷見市(調査日は2024年1月30日~2月2日)、佐渡島(同2月19日~21日)、および石川県羽咋市~島根県松江市(同3月25日~27日)の沿岸である。ただし、能登半島北部沿岸(輪島市や珠洲市など)は対象外とした。この結果、震源域の東側にあたるところでは、例えば新潟県糸魚川市市振で2.7 m(T.P.)の遡上高が測量された。また、佐渡島では島南岸の三瀬漁港において2.3 mの遡上高、震源域の西側では石川県羽咋市で3.2 mの遡上高が測量された。調査範囲は震央を挟んで東西に700 kmにわたる広範囲であり、震央から遠ざかるにつれ、多くの地域でそもそも津波が岸壁を越さない比較的小さな津波であったことが確認された。しかしながら、例えば兵庫県香美町では1.4 mの津波の高さがあったことは特筆される[行谷・他(2024, JpGU)]。
 この調査結果を用いて津波マグニチュードmを推定した。羽鳥(1986)に基づき、津波の高さは平均海面上の高さを利用した。平均海面上の高さを推定するには気象庁が公開する平均海面のT.P.値を利用した。また、津波の高さは陸上の遡上高かあるいは港湾内の津波の高さを用いた。「津波は岸壁を越さなかった」といった証言を得た上、その岸壁の高さを測定した例も多数あったが、これらのデータについては今回の解析には利用しなかった。震央海上距離については、震央から津波の高さの調査地点までの海洋上の最短距離を可能な範囲で地図上で読み取った。ただし、震央は内陸に推定されているので、震央からやや北にずらした海洋上の地点を震央海上距離の起点として扱った。この結果、ばらつきはあるものの、津波マグニチュードmは1.5と推定された。震央海上距離は約70 km-約420 kmに分布し、震央から比較的遠い地点の情報が反映された結果と言える。
 また、震央に近い地域を多く調査したYuhi et al. (2024)の結果を用いて津波マグニチュードmを推定した。羽鳥(1986)に基づき震央海上距離が20 km以上のものを対象とし、信頼度AおよびBの遡上高を用いたところ、こちらもばらつきはあるものの、津波マグニチュードmは1.5と推定された。震央海上距離は約20 km-約100 kmに分布し、震央から比較的近い地点の情報が反映された結果と言える。なお、羽鳥(1986)による津波マグニチュードmは検潮記録の全振幅も用いることができるため、本研究では上記の現地調査の結果に加え、日本海沿岸の検潮記録の全振幅も用いて検討を行ったところ、津波マグニチュードmは現地調査の結果に基づくものと同程度と推定された。