一般社団法人 日本医療情報学会

[3-L-4-PP11-1] 機能共鳴解析手法を用いた内服関連業務における組織的なリスク評価手順の提案と特徴

笠原 聡子1, 橋本 世子典1,2, 大石 雅子1 (1.滋慶医療科学大学院大学, 2.大阪府済生会中津病院)

組織事故およびリスク分析として機能共鳴解析手法 (Functional Resonance Analysis Method, 以下FRAM)が提案され、事故事例分析から組織の課題と対策を導出する手順は示されているが、リスク分析についてはない。そこで本研究では、内服関連業務を複数機能で構成されるシステムとして捉え、機能間の潜在的相互関係と変動の伝搬可能性を検討し、組織的課題や対策導出手順の提案と分析の特徴を示す。
大阪府下病院の入院内服関連業務について、関連職種(医師・看護師・薬剤師)各2名から実際の業務内容を聞き、FRAMを用いてモデルを作成した。リスク分析には、2年間に報告された内服関連のインシデント260件、エラー回避事例であるヒヤリハット25件とプレアボイド281件を用い、各機能の初期変動の大きさ(リスクの高さ)をエラー生起件数で、安全制御への貢献度をエラー回避事例のエラー発見件数で表現した。FRAM分析による変動の機能間伝搬を考慮する前に推定された変動の大きさと機能間伝搬考慮後の変動の大きさを比較し、FRAM分析によるリスク評価の特徴を検討した。
最も変動の大きかった最上流機能である「処方」(エラー生起270件)は、下流機能である「調剤」や「病棟薬剤師による疑義紹介」などからの多様なフィードバックを受けて変動が抑制され安全制御システムが有効に機能し、262件(97%)でエラーが回避されていた。2番目に変動の大きかった「内服(自己管理患者の飲み間違いなど)」は、FRAM分析後66件中27件がより上流機能である「内服薬の内容確認(自己管理可能かどうかの判断を担う機能)」の変動が制御されず下流機能まで伝搬した結果生じていることが示された。
FRAMにより、システム全体における安全制御体制の充足点と不足点が見いだされ、対策導出への手がかりが得られた。