Japan Association for Medical Informatics

[3-E-1-1] 働き方改革に伴う医師当直夜勤化の経営的影響

中西 康裕1,2, 今村 知明1 (1.奈良県立医科大学 公衆衛生学講座, 2.奈良県立医科大学 財務企画課)

【目的】わずかな睡眠のみで継続的に業務に従事している当直医は多数存在しており,現行の当直は今後,夜間・深夜の勤務(夜勤)と見なすべきとの主張は労働基準法上では正論である.本研究では,複数の病床規模の病院をモデルとして,医師の当直を夜勤と見なした場合の必要人員及び人件費の変動を分析し,その正論の経営や社会への影響の大きさを検証する.【方法】まず,年間の時間外労働の上限を複数のパターンに分け,1人当たりの年間労働時間を算出し各パターンごとの当直夜勤化に伴う必要医師数を割り出した.次に,分析に用いるモデル病院を病床規模ごとに複数設定し,それぞれにおける1日当たりの当直医師数を150床当たり1人と仮定した(大学病院は全体に占める割合の多い25診療科を参考に仮定).時間外労働の上限時間のパターンごとに夜勤化に伴う必要医師増員数を算出し,増額となる人件費を試算した.さらに,急性期病院(精神科病院を除く多くの病床を有する救急告示病院約2,000施設を対象)が全て夜勤化を実施したと仮定し,その際発生し得る必要医師増員数及び人件費を概算した.【結果】300床規模のモデル病院で360時間までの時間外労働とした場合,夜勤化に伴う必要医師増員数は6人となり,増額となる人件費は約8千万円と試算された.同様の条件で大学病院をモデルとした場合,必要医師増員数は75人となり,約7億5千万円の人件費増額が見込まれた.また,急性期病院が360時間までの時間外労働で全て夜勤化した場合,必要医師増員数は1万7千人程度,人件費増額は2千億円程度と推計された.【考察】本研究の試算より,医師当直の夜勤化は,大病院(特に大学病院)において医師増員と人件費増加が顕著であることが明らかとなった.各医療機関にとって医師の確保と増額人件費を補填する経営改善を同時に実現することは容易ではなく,今後国による診療報酬上の措置が求められるとともに,各医療機関自体も早期に対策を練る必要がある.