Japan Association for Medical Informatics

[2-A-1-01] データ駆動型臨床研究は、健康・医療をどう変えるのか?

*Naoki Nakashima1 (1. 九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)

Real World Data, Data Driven Medical Study, Big Data, Data Quality, Artificial Intelligence


社会に蓄積したデータ(リアルワールドデータ、RWD)を活用した研究をデータ駆動型臨床研究と呼ぶ。前向き臨床研究と比較した場合の特長は「大きいデータ規模」「入力不要」「安いコスト」「早い結果」「悉皆性の確保可能」「探索的研究が可能」である。一方欠点は「低いデータの品質」「必要なデータ項目がない」「バイアスが管理困難」「個別同意取得困難」であり、いずれも医学研究としては致命的障害ともなる。その限界を認識しつつ欠点を可能な限り改善し、従来の臨床研究手法と補完的に用いるべきだ。近年、これら欠点の改善対策が精力的に講じられ一定の成果を得てきた。

日本では公的な事業であるNDBやMID-NETの整備が先行した。これらは純粋な後ろ向き研究であり、徹底した匿名化により前向き研究への移行や他のデータベースとの融合は不可である。続いて進んだのがAMED等の競争的研究であり、その一つがJ-CKD-DB(Ext含む)である。戦略的なデザインにより、前向き研究への移行(J-CKD-DB-Next、Next)や他のデータベース(腎臓病総合レジストリー、J-KDR)との融合も可能とした。将来的には、データ規模を効率の良いJ-CKD-DBでカバーし、データの深さをNextやJ-KDRで補填することができる、日本においては全く新しい手法である。
米国政府は積極的にRWD を活用する方針を打ち出し、FDAは2019年にはRWDのみに基づきCDK4/6阻害薬の男性乳癌への適応拡大を承認した。MID-NETも現在の薬剤の副作用検証から、副作用シグナル早期検知へと用途を拡大する。これらは臨床薬理学に則った展開であるが、データ駆動型臨床研究の守備範囲は、薬理学のみならず、臨床医療経済学から臨床生物学に至る大きな分野である。従来の臨床研究手法では把握・解明できなかったUnmet Medical Needsを扱える期待も膨らむ。