[PA071] 児童の関係性攻撃の認識と社会的情報処理の関連(4)
敵意帰属バイアスとの関連の検討
キーワード:関係性攻撃, 社会的情報処理モデル, 小学生
【問題と目的】
関係性攻撃(relational aggression; RA)は「意図的な操作や仲間関係にダメージを与えることによって,他者を傷つける行動」と定義された攻撃行動である(Crick & Grotpeter, 1995)。このRAの生起を説明する知見に,Crick & Dodge(1994)の社会的情報処理(social information processing; SIP)モデルがある。SIPモデルでは,RAなどの有能でない行動は,データベースや場面特殊的な情報処理過程に歪みがあることで生起すると仮定されている。関口・濱口(2011)は,SIPモデルのデータベースに相当する児童用の関係性攻撃観尺度を作成した。本研究では,関係性攻撃観が,場面特殊的な情報処理過程の変数を介し,攻撃行動と間接的に関連するかどうかを検討する。特に,本研究では,解釈ステップの情報処理過程の敵意帰属バイアス(hostile attribution bias; HAB)に注目する。HABは,曖昧な社会的状況において,相手の意図を敵意的に捉える傾向である(Crick & Dodge, 1994)。HABは,女子においてRA被害や情緒的な苦痛との交互作用によりRAを高めるという関係脆弱性モデルを提供している(Mathieson et al., 2011)。本研究では,このHABを介して,関係性攻撃観が応答的行動と関連を示すかどうかを検討することを目的とする。
【方 法】
(1)調査対象者 小学4,5,6年生395名(男子197名,女子194名,性別不明4名)であった。
(2)調査内容 (a)改訂版関係性攻撃観尺度:関口・濱口(2011)を改訂した項目を使用した。否定的認識,身近さ,正当化,利便性の4下位尺度28項目,5件法であった。
(b)関係性挑発場面におけるSIP・応答的行動質問紙(Crick et al., 2002):RA被害を示唆する,加害者の意図が曖昧な関係性挑発エピソードを2場面提示し,各エピソードで敵意帰属バイアスと応答的行動を測定した。敵意帰属バイアスを1場面4項目ずつ,応答的行動(RA,主張的行動)を1場面3項目ずつ測定し,エピソード間で対応する項目を加算平均し,得点化を行った。5件法であった。
【結果と考察】
Mathieson et al.(2011)の知見から,性別の調整効果を検討するため,多母集団同時分析を行った。変数の配置は,第1水準に関係性攻撃観4下位尺度得点を置き,第2水準に敵意帰属バイアス,第3水準に2つの応答的行動を設定した。まず,男女別にモデルを検証し,有意でないパスを削除した。そして,全てのパスに等値制約を設定したモデルと,HABからRAのパスのみ等値制約を設定しなかったモデル,全てのパスに等値制約を設定しなかったモデルを比較した。その結果,全てのパスに等値制約を設定したモデルが採用された。モデルの適合度はχ2(21)=32.87(p<.05), CFI=.973, RMSEA=.038であった(Figure 1)。この結果から,関係性攻撃観の下位尺度得点である否定的認識と利便性は,HABを介して,RAと関連することが示された。性別による調整効果はみられなかったが,否定的認識がHABを介してRAと正の関連を示す結果は,関係脆弱性モデルの知見に矛盾しないと考えられた。
関係性攻撃(relational aggression; RA)は「意図的な操作や仲間関係にダメージを与えることによって,他者を傷つける行動」と定義された攻撃行動である(Crick & Grotpeter, 1995)。このRAの生起を説明する知見に,Crick & Dodge(1994)の社会的情報処理(social information processing; SIP)モデルがある。SIPモデルでは,RAなどの有能でない行動は,データベースや場面特殊的な情報処理過程に歪みがあることで生起すると仮定されている。関口・濱口(2011)は,SIPモデルのデータベースに相当する児童用の関係性攻撃観尺度を作成した。本研究では,関係性攻撃観が,場面特殊的な情報処理過程の変数を介し,攻撃行動と間接的に関連するかどうかを検討する。特に,本研究では,解釈ステップの情報処理過程の敵意帰属バイアス(hostile attribution bias; HAB)に注目する。HABは,曖昧な社会的状況において,相手の意図を敵意的に捉える傾向である(Crick & Dodge, 1994)。HABは,女子においてRA被害や情緒的な苦痛との交互作用によりRAを高めるという関係脆弱性モデルを提供している(Mathieson et al., 2011)。本研究では,このHABを介して,関係性攻撃観が応答的行動と関連を示すかどうかを検討することを目的とする。
【方 法】
(1)調査対象者 小学4,5,6年生395名(男子197名,女子194名,性別不明4名)であった。
(2)調査内容 (a)改訂版関係性攻撃観尺度:関口・濱口(2011)を改訂した項目を使用した。否定的認識,身近さ,正当化,利便性の4下位尺度28項目,5件法であった。
(b)関係性挑発場面におけるSIP・応答的行動質問紙(Crick et al., 2002):RA被害を示唆する,加害者の意図が曖昧な関係性挑発エピソードを2場面提示し,各エピソードで敵意帰属バイアスと応答的行動を測定した。敵意帰属バイアスを1場面4項目ずつ,応答的行動(RA,主張的行動)を1場面3項目ずつ測定し,エピソード間で対応する項目を加算平均し,得点化を行った。5件法であった。
【結果と考察】
Mathieson et al.(2011)の知見から,性別の調整効果を検討するため,多母集団同時分析を行った。変数の配置は,第1水準に関係性攻撃観4下位尺度得点を置き,第2水準に敵意帰属バイアス,第3水準に2つの応答的行動を設定した。まず,男女別にモデルを検証し,有意でないパスを削除した。そして,全てのパスに等値制約を設定したモデルと,HABからRAのパスのみ等値制約を設定しなかったモデル,全てのパスに等値制約を設定しなかったモデルを比較した。その結果,全てのパスに等値制約を設定したモデルが採用された。モデルの適合度はχ2(21)=32.87(p<.05), CFI=.973, RMSEA=.038であった(Figure 1)。この結果から,関係性攻撃観の下位尺度得点である否定的認識と利便性は,HABを介して,RAと関連することが示された。性別による調整効果はみられなかったが,否定的認識がHABを介してRAと正の関連を示す結果は,関係脆弱性モデルの知見に矛盾しないと考えられた。