[PA098] 抑うつの要因とされるネガティブな認知特性の適応的側面2
対人領域におけるネガティブな認知スタイルに関する検討
キーワード:認知スタイル, 抑うつ, 適応
目的
Beck et al (1979) やAbramson et al (1988) の抑うつの認知理論によれば,ネガティブな認知特性をもつ者は,「ストレスが起こった時」に抑うつに陥るとされる(素因ストレスモデルの説明)。この仮説を支持する研究結果が見出されていることから,確かにネガティブな認知特性はストレスが起こった時に不適応的な役割を果たすといえよう。
しかしながら,これらの説明は,ネガティブな認知特性がもつ働きの「一側面」を表しているに過ぎず,ネガティブな認知特性をもつ人たちの「生活史の一部分」を表しているに過ぎないともいえる。例えば,上記の認知理論は,「ストレスが起こっていない時」,言い換えると,「抑うつが低い時」に,ネガティブな認知特性をもつ人たちがどのような経験をしているかについて言及していない。また,不適応をもたらす可能性の高いネガティブな認知特性を彼らが何故持ち続けるのかという疑問について十分答えていない。ネガティブな認知特性を持ち続けるに至った理由や意味を含め,彼らの生活史全体をより広く捉えると,ネガティブな認知特性には一定の適応的役割があるのではないかと考えられる。
第三者からみれば「自らを苦しめる」ものであるネガティブな認知特性を,ある人たちは何故持ち続けるのだろうか。その1つの説明として,何らかの環境適応上の必要性があったからではないかと考えられる。例えば,「将来拒否するかもしれない」というネガティブな推論スタイルをもつようになったのは,それまでの人生で他者からの拒否が重要な意味をもち,それを予測して避けるということがその人にとって重要だったからではなかろうか。そして,ネガティブな認知特性によって実際に望ましい結果が得られてきたからこそ,それが維持されているのではなかろうか。
このように,ネガティブな認知特性がより適応的な役割を果たしている可能性が考えられる。本研究では,抑うつ状態の低い時にこの可能性が高まると仮定し,抑うつの低い者の「対人領域のネガティブな認知スタイル→親和的行動→ポジティブな対人結果」というプロセスを検討する。
方法
調査協力者 先行研究(福田・小林,1973など)におけるうつ病群のSDS日本語版の平均値と標準偏差を踏まえ,本研究ではSDS得点が50点以上を抑うつ高群とみなした。この基準を満たさない大学生74名を分析対象とした。
質問紙構成 対人領域のネガティブな認知スタイル:園田・藤南(1995)の説明スタイル質問紙短縮版を用いた。親和的行動:5つの項目を作成して用いた(例:「相手に親切なことをした」「相手をほめた」「相手の話しを親身になって聞いた」)。評定は4件法であり,各行動の頻度を測定した。α係数は.77であった。ポジティブな対人結果:高比良(1998)の対人領域のポジティブイベント尺度の短縮版(13項目)を用いた。
結果と考察
図に示された仮説モデルを共分散構造分析により検討した。分析の結果,ネガティブな帰属スタイルに関しては仮説を支持する結果が得られなかったが,推論スタイルに関しては仮説を支持する結果が得られた。推論スタイルからポジティブな対人結果への直接パス(図の点線矢印)が有意でなかったため,これを取り除き,再度分析を行った結果が図に示されている。
結果から,ネガティブな推論スタイルの高い者は,他者への親和的行動をとりやすく,その行動がポジティブな対人結果につながっていることが示された。親和的行動は,ネガティブな推論の成就を避けるための適応戦略的行動であると捉えることもでき,抑うつが低い時にこれが良い人間関係に少なからず貢献している可能性がある。
Beck et al (1979) やAbramson et al (1988) の抑うつの認知理論によれば,ネガティブな認知特性をもつ者は,「ストレスが起こった時」に抑うつに陥るとされる(素因ストレスモデルの説明)。この仮説を支持する研究結果が見出されていることから,確かにネガティブな認知特性はストレスが起こった時に不適応的な役割を果たすといえよう。
しかしながら,これらの説明は,ネガティブな認知特性がもつ働きの「一側面」を表しているに過ぎず,ネガティブな認知特性をもつ人たちの「生活史の一部分」を表しているに過ぎないともいえる。例えば,上記の認知理論は,「ストレスが起こっていない時」,言い換えると,「抑うつが低い時」に,ネガティブな認知特性をもつ人たちがどのような経験をしているかについて言及していない。また,不適応をもたらす可能性の高いネガティブな認知特性を彼らが何故持ち続けるのかという疑問について十分答えていない。ネガティブな認知特性を持ち続けるに至った理由や意味を含め,彼らの生活史全体をより広く捉えると,ネガティブな認知特性には一定の適応的役割があるのではないかと考えられる。
第三者からみれば「自らを苦しめる」ものであるネガティブな認知特性を,ある人たちは何故持ち続けるのだろうか。その1つの説明として,何らかの環境適応上の必要性があったからではないかと考えられる。例えば,「将来拒否するかもしれない」というネガティブな推論スタイルをもつようになったのは,それまでの人生で他者からの拒否が重要な意味をもち,それを予測して避けるということがその人にとって重要だったからではなかろうか。そして,ネガティブな認知特性によって実際に望ましい結果が得られてきたからこそ,それが維持されているのではなかろうか。
このように,ネガティブな認知特性がより適応的な役割を果たしている可能性が考えられる。本研究では,抑うつ状態の低い時にこの可能性が高まると仮定し,抑うつの低い者の「対人領域のネガティブな認知スタイル→親和的行動→ポジティブな対人結果」というプロセスを検討する。
方法
調査協力者 先行研究(福田・小林,1973など)におけるうつ病群のSDS日本語版の平均値と標準偏差を踏まえ,本研究ではSDS得点が50点以上を抑うつ高群とみなした。この基準を満たさない大学生74名を分析対象とした。
質問紙構成 対人領域のネガティブな認知スタイル:園田・藤南(1995)の説明スタイル質問紙短縮版を用いた。親和的行動:5つの項目を作成して用いた(例:「相手に親切なことをした」「相手をほめた」「相手の話しを親身になって聞いた」)。評定は4件法であり,各行動の頻度を測定した。α係数は.77であった。ポジティブな対人結果:高比良(1998)の対人領域のポジティブイベント尺度の短縮版(13項目)を用いた。
結果と考察
図に示された仮説モデルを共分散構造分析により検討した。分析の結果,ネガティブな帰属スタイルに関しては仮説を支持する結果が得られなかったが,推論スタイルに関しては仮説を支持する結果が得られた。推論スタイルからポジティブな対人結果への直接パス(図の点線矢印)が有意でなかったため,これを取り除き,再度分析を行った結果が図に示されている。
結果から,ネガティブな推論スタイルの高い者は,他者への親和的行動をとりやすく,その行動がポジティブな対人結果につながっていることが示された。親和的行動は,ネガティブな推論の成就を避けるための適応戦略的行動であると捉えることもでき,抑うつが低い時にこれが良い人間関係に少なからず貢献している可能性がある。