日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PE

(501)

2014年11月8日(土) 13:30 〜 15:30 501 (5階)

[PE073] 仲間の中で育つ向社会性

幼児の向社会的判断における他者の役割とは

伊藤順子 (宮城教育大学)

キーワード:幼児, 仲間, 向社会的判断

幼児期から児童期にかけての向社会性の研究では,要求の明確さ,困窮者との関係(親密性),他者の有無が,向社会的判断や動機づけの質に関与していることが明らかにされている。こうした一連の研究では,他者の存在は,責任の分散や利己的動機との関連から考察されることが多く,向社会性を育む状況要因とはみなされていない。しかし,幼児期から児童期は,自分(I)と親密な友だち(You),その他の仲間や教師・保育者という人的環境の中で社会的行動を学んでいる(佐伯, 2013)。遊び・仲間・学校(園)といった社会的文脈や教育実践の中で向社会的行動が出現することを踏まえると,他者(They)の存在を関係論的に捉え,向社会性を育む環境とは何かを発達的視点から再考する必要があるのではないか。そこで,本研究では,仲間の中で育つ向社会性を明らかにするために,幼児の向社会的判断における他者の役割について検討する。
方法
1)調査対象:仙台市内幼稚園H23年度4歳児クラス60名。5歳児クラス58名
2)調査内容・方法:H23年7月 個人面接によって実施。仲間関係調査をした後,各幼児に仲のよい友だちを登場人物とした困窮場面を提示した。困窮場面は,友だちが転んだ状況で他者存在有(場面A),他者存在無(場面B)の2場面であった。困窮場面提示後,「向社会的判断」「判断理由」「向社会的方略」「効力感(方略が効果的か)」「他者の行動予測【他者存在あり場面】」について自由回答を求めた。
結果と考察
本発表では,年齢的差異が示された「向社会的判断」,「判断理由」,「向社会的方略」「他者の行動予測」の結果を基に,幼児の向社会的判断における他者の役割について考察する。向社会的判断と他者存在との関連(Table 1)を検討した結果,年中児では,他者有場面では向社会的判断の割合が高いが,他者無場面では回避志向への判断変化がみられた。一方,年長児では他者の有無にかかわらず困窮者の要求・よい子志向・共感志向から向社会的判断を行う傾向にあり,個人内での向社会的判断に一貫性がみられる。この結果は,困窮場面における他者存在の意味が,年中児と年長児にとって異なることを示唆している。そこで,他者の有無で向社会的方略(Table 2)に違いがあるか否かを検討した。その結果,他者有場面で差異が示され,年中児と年長児を比較すると,年中児は援助といった直接的な介入によって困窮場面改善しようとする割合が高いが,年長児は第三者への援助要請といった間接的方略を言及する割合が高くなった。年長児は,友だちの困窮場面を,自己(I)と困窮者(You)の1対1の関係のみならず,困窮場面をとりまく他者の存在と役割を予測し,行動判断を行っている可能性が示唆される。困窮状況で自他の役割を多面的に判断できることが,間接的な向社会的方略の考案を促し,多様な場面に直面しても向社会的判断に一貫性がみられるようになると考えられる。仲間の中で育つ向社会性を明らかにするためには,今後,実際の遊び場面で個々の子どもがいかに仲間の困窮場面に直面しそれに対応していくかを文脈的に捉え,縦断的・質的分析を積み重ねる必要があろう。