日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF052] 挿絵の効果:小学3-6年生の減法の理解

金田茂裕 (関西学院大学)

キーワード:算数, 教授学習, 理解

挿絵(illustration)は,算数教科書のなかで数的理解を支援する役割を担っている。挿絵とは具体的な状況・場面・対象物を親しみやすいキャラクターを登場させ視覚的・空間的に表現したもののことである。本研究の目的は,どのような挿絵がどのような点で理解を支援する効果をもつかを探索的に検討することである。内容の異なる2種類の挿絵を用意し,減法の「求差」の場面の話の作成を求める作問課題を実施した。求差は,減法の場面のなかでも難易度が高いことで知られる。
方 法
対象 小学3年生107名(男61名,女46名:平均8.9歳),4年生110名(男57名,女53名:平均9.9歳),6年生119名(男66名,女53名平均11.9歳)。
課題 2種類の挿絵A, Bを用意した。Aはセミ6匹とテントウムシ2匹,Bはケーキ7個と皿4枚を描いたものであった。各挿絵では同種のキャラクターは互いに密集させ,異種のキャラクターとは距離をとり,種類別に左右に分け配置した。Aでは「6 - 2」,Bでは「7 - 4」になる話を作成するよう求めた。なおA, Bは「数量の比較の必要性」の点で異なり,Aは相対的に低くBはそれより高いと想定した。
手続き 課題は冊子にまとめ,挿絵A, Bの順で実施した。順序を固定したため結果には練習効果が含まれる可能性があり,解釈には注意が必要である。解答時間はそれぞれ5分とした。
結果と考察
作成された話を4タイプに分類した(表1, 2)。挿絵Aを例に説明する。セミ(cicada)をC,テントウムシ(ladybug)をLとする。「求差」は「Cが6,Lが2,差は」など。「求差:動的」は,求差にも求残にも近い内容であり「Cが6,Lが2,Lが1匹ずつCを捕まえた,残りは」など。「求残」は「Cが6,Cが2逃げた,残りは」など。以上に分類できない話は「他」とした。
McNemar検定の結果,挿絵A, Bの「求差」の比率の有意差は3年(z= 1.25)と4年(z= 1.34)でみられず6年(z= 4.00)でみられた(p< .01)。「求差:動的」は3年(z= 7.01),4年(z= 6.57),6年(z= 6.51)の全学年で有意差がみられた(いずれもp< .01)。挿絵の内容の効果は,限定的だが認められた。挿絵Bのように数量の比較の必要性が高いとき6年では「求差」の比率(正答率)が上昇した。3, 4年では上昇しなかったが,準正答である「求差:動的」の比率は,いずれの学年でも上昇した。
数の知識は抽象的な性質を有するが挿絵は抽象的にも具体的にもそれを表現する。挿絵Bは実生活の経験頻度が高い点で具体的であり互いに呼び合う性質を有している。その点で数的理解を支援する効果をもちやすいと考えられる。挿絵Aはそれより抽象的な性質を有しており,むしろ数の知識を深化させる目的やそれをアセスメントする目的に適するかもしれない。そうした具体性と抽象性をふまえたさらなる実験が必要である。