[PG037] 主体的で自律的な学級集団を作る教師の発話の研究
キーワード:学級集団, 教師の発話, 自律性支援
【問題と目的】
近年の学校現場においてリーダー性を持つ児童生徒が少なくなったということがしばしば聞かれるが、日本の学校教育において子どものリーダー性を育てるという場合、子どもたち一人ひとりが主体的に活動し、やがては自律的な学級集団になっていくことを意味すると考えられる。これに関して蘭・高橋(2008)は、教師の制御と生徒の作動から学級集団を4つのタイプに分類し、教師が生徒の自律的な動きを認め、生徒が自己決定権を持って集団の中で新たな自己を形成できる学級集団を「自己組織化型学級」と呼んでいる。そのような学級となるためには、生徒一人ひとりが新たな自己を形成するためのルールが必要であるという(蘭・高橋,2008)。このルールを学級規範と捉えると、その確立や浸透には担任教師がはっきりとした「信念」や「意図」を持つことが重要であることが明らかにされている(岸野・無藤,2009;松尾・丸野,2007)。またDeci&Ryan(1980)およびDeci,Schwartz,Sheinman&Ryan(1981)は、「信念」や「意図」は教師の態度となって現れるものであり、教師の「自律性支援」の態度が子どもの内発的動機付けを高めるとしている。鹿毛・上淵・大家(1997)はこの理論に基づき、Deciら(1981)の開発した教師志向性質問紙(PSQ:The Problems in Schools Questionaire)を用いて研究を行ったところ、自律性支援の信念が強い教師は子どもの積極的な授業参加を促していることが明らかになった。学級集団に「動的な秩序」(蘭・高橋,2008)をもたらすルール作り、およびその導入と定着には教師の強い自律性支援の信念が重要だと言えよう。
ところで、従来の教師の働きかけに関する先行研究は、授業場面での教師の発話や子どもの行動を取り上げたものが多い。しかし、学級の主体的・自律的な活動は、教師が主導する授業中よりも授業以外での場面において発現しやすいと思われる。そこで本研究では、授業中以外の学級活動場面における教師の発話に注目し、主体的で自律的に活動していく子どもたちの学級集団が教師のどのような発話で作られていくのかについて、談話分析の方法を用いて明らかにしていくことを目的とする。
【方法】
2013年1月から2月にかけて、H県内公立小学校3年生3学級および4年生3学級において、各学級3日間ずつ授業時間以外の映像と音声を記録した。担任教師の指示ではなく児童自身の判断によって学級全体が動いていったような出来事に注目して、教師と子どもの発話と行動を取り出し、カテゴリーに分類した。分類には清水・内田(2001)のカテゴリーを参考にした。また、観察対象学級の担任教師には個別でPSQ(鹿毛ら,1997)への回答と半構造化面接を依頼した。ここでは学級集団作りにおいてどのようなねらいを持っているか等について尋ねた。質問の柱に沿って語りを整理し、各教師の語りとPSQ得点、および学級の様子との関連を検討した。
【結果と考察】
担任教師6名のPSQ得点は3.50点から8.25点(平均値6.45、標準偏差1.62)であり、得点のバラツキはあるものの6名全員が行動制御よりも自律性支援の志向性が強いことが示された。担任教師への面接において、6名の教諭はそれぞれに自身の学級のねらいを語ったが、その中でもPSQ得点が相対的に高かった2名の教諭の語りは非常に明快であり、それをねらいとするに至った教諭自身の考えなども含めて詳細に話されたことが特徴的であった。
ビデオ記録された学級の様子について、朝学習や朝の会の開始者が誰なのかに注目して整理したところ、PSQ得点が相対的に高かった教諭の学級では、児童全体を見守っているものの、会の進行のほとんど全てを係の児童に任せていることが特徴的であった。また、授業が始まる時の着席の様子に注目して整理したところ、やはりPSQ得点が相対的に高かった教諭の学級では、時計を見て子どもが自ら判断する、子ども同士で声を掛け合うことが着席のきっかけとなっていた。PSQ得点が相対的に高かった教諭の声かけは児童が時間に注意を向けるきっかけになるような間接的なものであった。これらの児童と担任教師の行動の分析から、PSQ得点が相対的に高かった教諭の学級では、教師が自律性支援を積極的に行っており、学級全体が子どもの主体的・自律的な行動で動いていることがわかった。
そこで次に、改めてPSQ得点が相対的に高かった2名の教諭の学級に焦点を当て、まず児童の発話プロトコルを検討した。朝学習の場面においては、係の児童らでプリントに取り組む時間の延長を担任教師に指示を仰ぐことなく協議・決定した様子といった、児童の主体的・自律的な様子が確認された。次に担任教師の発話内容を分析したところ、PSQ得点が相対的に高かった教師に特徴的に見られたのは、「謝罪」「促し」「賞賛」「児童の力に任せる・借りる」の発話であった。これらが出現した場面の発話プロトコルを検討した結果、そのような発話は教師の自律性支援の信念が表出されたものであり、児童の主体性・自律性の育成に寄与しているものであると考えられた。
以上の結果より、小学校中学年においては完全に主体的で自律的に活動する学級(蘭・高橋(2008)が言うところの自己組織化型学級)に達するのは困難であっても、そのような学級集団を育てるというねらいを持った教師の働きかけは有効であることが示唆された。係活動や班活動など集団を育てる上での枠組みの設定は大事であるが、枠組みだけではなく、教師が「主体的で自律的に活動していく学級集団を育てる」という明確なねらいを持ち、それに基づく具体的な働きかけを行うことが重要であろう。
近年の学校現場においてリーダー性を持つ児童生徒が少なくなったということがしばしば聞かれるが、日本の学校教育において子どものリーダー性を育てるという場合、子どもたち一人ひとりが主体的に活動し、やがては自律的な学級集団になっていくことを意味すると考えられる。これに関して蘭・高橋(2008)は、教師の制御と生徒の作動から学級集団を4つのタイプに分類し、教師が生徒の自律的な動きを認め、生徒が自己決定権を持って集団の中で新たな自己を形成できる学級集団を「自己組織化型学級」と呼んでいる。そのような学級となるためには、生徒一人ひとりが新たな自己を形成するためのルールが必要であるという(蘭・高橋,2008)。このルールを学級規範と捉えると、その確立や浸透には担任教師がはっきりとした「信念」や「意図」を持つことが重要であることが明らかにされている(岸野・無藤,2009;松尾・丸野,2007)。またDeci&Ryan(1980)およびDeci,Schwartz,Sheinman&Ryan(1981)は、「信念」や「意図」は教師の態度となって現れるものであり、教師の「自律性支援」の態度が子どもの内発的動機付けを高めるとしている。鹿毛・上淵・大家(1997)はこの理論に基づき、Deciら(1981)の開発した教師志向性質問紙(PSQ:The Problems in Schools Questionaire)を用いて研究を行ったところ、自律性支援の信念が強い教師は子どもの積極的な授業参加を促していることが明らかになった。学級集団に「動的な秩序」(蘭・高橋,2008)をもたらすルール作り、およびその導入と定着には教師の強い自律性支援の信念が重要だと言えよう。
ところで、従来の教師の働きかけに関する先行研究は、授業場面での教師の発話や子どもの行動を取り上げたものが多い。しかし、学級の主体的・自律的な活動は、教師が主導する授業中よりも授業以外での場面において発現しやすいと思われる。そこで本研究では、授業中以外の学級活動場面における教師の発話に注目し、主体的で自律的に活動していく子どもたちの学級集団が教師のどのような発話で作られていくのかについて、談話分析の方法を用いて明らかにしていくことを目的とする。
【方法】
2013年1月から2月にかけて、H県内公立小学校3年生3学級および4年生3学級において、各学級3日間ずつ授業時間以外の映像と音声を記録した。担任教師の指示ではなく児童自身の判断によって学級全体が動いていったような出来事に注目して、教師と子どもの発話と行動を取り出し、カテゴリーに分類した。分類には清水・内田(2001)のカテゴリーを参考にした。また、観察対象学級の担任教師には個別でPSQ(鹿毛ら,1997)への回答と半構造化面接を依頼した。ここでは学級集団作りにおいてどのようなねらいを持っているか等について尋ねた。質問の柱に沿って語りを整理し、各教師の語りとPSQ得点、および学級の様子との関連を検討した。
【結果と考察】
担任教師6名のPSQ得点は3.50点から8.25点(平均値6.45、標準偏差1.62)であり、得点のバラツキはあるものの6名全員が行動制御よりも自律性支援の志向性が強いことが示された。担任教師への面接において、6名の教諭はそれぞれに自身の学級のねらいを語ったが、その中でもPSQ得点が相対的に高かった2名の教諭の語りは非常に明快であり、それをねらいとするに至った教諭自身の考えなども含めて詳細に話されたことが特徴的であった。
ビデオ記録された学級の様子について、朝学習や朝の会の開始者が誰なのかに注目して整理したところ、PSQ得点が相対的に高かった教諭の学級では、児童全体を見守っているものの、会の進行のほとんど全てを係の児童に任せていることが特徴的であった。また、授業が始まる時の着席の様子に注目して整理したところ、やはりPSQ得点が相対的に高かった教諭の学級では、時計を見て子どもが自ら判断する、子ども同士で声を掛け合うことが着席のきっかけとなっていた。PSQ得点が相対的に高かった教諭の声かけは児童が時間に注意を向けるきっかけになるような間接的なものであった。これらの児童と担任教師の行動の分析から、PSQ得点が相対的に高かった教諭の学級では、教師が自律性支援を積極的に行っており、学級全体が子どもの主体的・自律的な行動で動いていることがわかった。
そこで次に、改めてPSQ得点が相対的に高かった2名の教諭の学級に焦点を当て、まず児童の発話プロトコルを検討した。朝学習の場面においては、係の児童らでプリントに取り組む時間の延長を担任教師に指示を仰ぐことなく協議・決定した様子といった、児童の主体的・自律的な様子が確認された。次に担任教師の発話内容を分析したところ、PSQ得点が相対的に高かった教師に特徴的に見られたのは、「謝罪」「促し」「賞賛」「児童の力に任せる・借りる」の発話であった。これらが出現した場面の発話プロトコルを検討した結果、そのような発話は教師の自律性支援の信念が表出されたものであり、児童の主体性・自律性の育成に寄与しているものであると考えられた。
以上の結果より、小学校中学年においては完全に主体的で自律的に活動する学級(蘭・高橋(2008)が言うところの自己組織化型学級)に達するのは困難であっても、そのような学級集団を育てるというねらいを持った教師の働きかけは有効であることが示唆された。係活動や班活動など集団を育てる上での枠組みの設定は大事であるが、枠組みだけではなく、教師が「主体的で自律的に活動していく学級集団を育てる」という明確なねらいを持ち、それに基づく具体的な働きかけを行うことが重要であろう。