[PA052] 非専門家から見た多重知能理論内での情動コンピテンスの位置(1)
社会での重要性の観点から
キーワード:情動コンピテンス, 情動知能, 素人理論
目 的
心理学の学術研究では,これまで伝統的知能と比較した際の情動コンピテンスの位置づけが議論されてきた(e.g., Mayer et al., 2008)。その一方で,近年,情動コンピテンスは教育や職場といった一般の人が密接に関わる場面にも浸透してきており,この人たちが情動コンピテンスをどのように捉えているのかを明らかにする重要度が高まっている。本研究は社会での重要性という観点から素人理論を測定し,非専門家の人が持つ多重知能理論からみた情動コンピテンスの位置づけを検討する。
方 法
調査対象者 株式会社クロスマーケティングが保有する参加者プールの中から600名がオンラインで調査に参加した。そのうち,同じ番号のみを連続で回答していた16名を除外し,最終的に584名(男性287名,女性297名,平均年齢44.41歳,SD=13.80)のデータを有効分析対象とした。
社会での重要性 “社会でうまくやっていく上で,以下のそれぞれの能力はどの程度重要だと思いますか?あなたの考えに最もよく当てはまるものの数字を1つ選んでください” のリード文の後に,各能力について 1. 全く重要ではない~ 6. 非常に重要だ6件法で回答を求めた。評定を求めた能力は,1. 言語的知能(言語能力が高く,ことばの響き・リズム・意味に敏感である),2. 論理-数学的知能(論理的に考えることが得意で,数的処理や計算に強い),3. 空間的知能(絵を描くこと,画像処理,幾何学が得意である),4. 身体-運動的知能(身体運動能力が高くスポーツが得意で,手先が器用である),5. 音楽的知能(音楽の鑑賞能力が高く,楽器を引くことが得意である),6. 個人内知能(自分の気持ちや価値観,思考内容をかえりみてきちんと理解できる),7. 対人的知能(他人の気分や動機,欲求をきちんと理解し,適切に対応できる),8. 情動コンピテンス自己領域(自分の感情を適切に認識し調整する能力),9. 情動コンピテンス他者領域(他の人たちの感情を適切に認識し調整する能力)の9タイプであった。
結果と考察
子安(1999)の知能のヘプタ・ヘクサゴンモデルに基づき,言語的知能・論理-数学的知能が学校知能という因子を,空間的知能・身体-運動的知能・音楽的知能が芸術的知能という因子を,個人内知能・対人的知能が人格的知能という因子を構成するモデルをベースにして,確認的因子分析により,下記のモデルの適合度を比較した。
A.情動コンピテンスが独立したモデル:情動コンピテンス自己領域/他者領域で構成される情動コンピテンスを第4の因子として仮定したモデル
B.学校知能が情動コンピテンスを含むモデル:情動コンピテンス因子を仮定せず,学校知能因子から情動コンピテンスの自己領域と他者領域へのパスを引いたモデル
C.芸術的知能が情動コンピテンスを含むモデル:情動コンピテンス因子を仮定せず,芸術的知能因子から情動コンピテンスの自己領域と他者領域へのパスを引いたモデル
D.人格的知能が情動コンピテンスを含むモデル:情動コンピテンス因子を仮定せず,人格的知能因子から情動コンピテンスの自己領域と他者領域へのパスを引いたモデル
各モデルの適合度指標をTable 1に示した。“A. 情動コンピテンスが独立したモデル”のAIC, BICの値が他のモデルに比べて最も低く,他の適合度指標も最も良い当てはまりを示していた。この結果より,情動コンピテンスは多重知能理論の中で独自の概念として位置づけられることが示された。
能力間の平均値差 一要因参加者内分散分析を行った結果,能力の種類の主効果が有意であった (F(3, 2335)=334.48, p<.001, η2=.19)。Shaffer法による多重比較の結果,情動コンピテンス (M=4.55, SD=0.95)=人格的知能 (M=4.51, SD=0.87)>学校知能 (M=4.23, SD=0.84)>芸術的知能 (M=3.48, SD=0.82) の順で評定値が有意に高かった(有意差はいずれもps<.001, rs>.33)。
以上の結果より,一般の人は情動コンピテンスおよび人格的知能を,学校知能という伝統的知能よりも,社会で上手くやっていく上で重要であると捉えていることが示された。
心理学の学術研究では,これまで伝統的知能と比較した際の情動コンピテンスの位置づけが議論されてきた(e.g., Mayer et al., 2008)。その一方で,近年,情動コンピテンスは教育や職場といった一般の人が密接に関わる場面にも浸透してきており,この人たちが情動コンピテンスをどのように捉えているのかを明らかにする重要度が高まっている。本研究は社会での重要性という観点から素人理論を測定し,非専門家の人が持つ多重知能理論からみた情動コンピテンスの位置づけを検討する。
方 法
調査対象者 株式会社クロスマーケティングが保有する参加者プールの中から600名がオンラインで調査に参加した。そのうち,同じ番号のみを連続で回答していた16名を除外し,最終的に584名(男性287名,女性297名,平均年齢44.41歳,SD=13.80)のデータを有効分析対象とした。
社会での重要性 “社会でうまくやっていく上で,以下のそれぞれの能力はどの程度重要だと思いますか?あなたの考えに最もよく当てはまるものの数字を1つ選んでください” のリード文の後に,各能力について 1. 全く重要ではない~ 6. 非常に重要だ6件法で回答を求めた。評定を求めた能力は,1. 言語的知能(言語能力が高く,ことばの響き・リズム・意味に敏感である),2. 論理-数学的知能(論理的に考えることが得意で,数的処理や計算に強い),3. 空間的知能(絵を描くこと,画像処理,幾何学が得意である),4. 身体-運動的知能(身体運動能力が高くスポーツが得意で,手先が器用である),5. 音楽的知能(音楽の鑑賞能力が高く,楽器を引くことが得意である),6. 個人内知能(自分の気持ちや価値観,思考内容をかえりみてきちんと理解できる),7. 対人的知能(他人の気分や動機,欲求をきちんと理解し,適切に対応できる),8. 情動コンピテンス自己領域(自分の感情を適切に認識し調整する能力),9. 情動コンピテンス他者領域(他の人たちの感情を適切に認識し調整する能力)の9タイプであった。
結果と考察
子安(1999)の知能のヘプタ・ヘクサゴンモデルに基づき,言語的知能・論理-数学的知能が学校知能という因子を,空間的知能・身体-運動的知能・音楽的知能が芸術的知能という因子を,個人内知能・対人的知能が人格的知能という因子を構成するモデルをベースにして,確認的因子分析により,下記のモデルの適合度を比較した。
A.情動コンピテンスが独立したモデル:情動コンピテンス自己領域/他者領域で構成される情動コンピテンスを第4の因子として仮定したモデル
B.学校知能が情動コンピテンスを含むモデル:情動コンピテンス因子を仮定せず,学校知能因子から情動コンピテンスの自己領域と他者領域へのパスを引いたモデル
C.芸術的知能が情動コンピテンスを含むモデル:情動コンピテンス因子を仮定せず,芸術的知能因子から情動コンピテンスの自己領域と他者領域へのパスを引いたモデル
D.人格的知能が情動コンピテンスを含むモデル:情動コンピテンス因子を仮定せず,人格的知能因子から情動コンピテンスの自己領域と他者領域へのパスを引いたモデル
各モデルの適合度指標をTable 1に示した。“A. 情動コンピテンスが独立したモデル”のAIC, BICの値が他のモデルに比べて最も低く,他の適合度指標も最も良い当てはまりを示していた。この結果より,情動コンピテンスは多重知能理論の中で独自の概念として位置づけられることが示された。
能力間の平均値差 一要因参加者内分散分析を行った結果,能力の種類の主効果が有意であった (F(3, 2335)=334.48, p<.001, η2=.19)。Shaffer法による多重比較の結果,情動コンピテンス (M=4.55, SD=0.95)=人格的知能 (M=4.51, SD=0.87)>学校知能 (M=4.23, SD=0.84)>芸術的知能 (M=3.48, SD=0.82) の順で評定値が有意に高かった(有意差はいずれもps<.001, rs>.33)。
以上の結果より,一般の人は情動コンピテンスおよび人格的知能を,学校知能という伝統的知能よりも,社会で上手くやっていく上で重要であると捉えていることが示された。