日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA063] 小中学生における社会的スキルとレジリエンスがストレス反応に及ぼす影響

小林朋子1, 五十嵐哲也2 (1.静岡大学, 2.愛知教育大学)

キーワード:レジリエンス, 社会的スキル, ストレス反応

目 的
近年注目されている心理変数に,「レジリエンス(resilience)」がある。「ストレスフルな出来事を経験したり,困難な状況にさらされていても精神的健康や適応行動を維持する,あるいはネガティブな心理状態に陥ったり心的外傷を受けたりしても回復する能力や心理的特性(Garmezy, 1991;石毛・無藤, 2005;小塩ら, 2002)」とされている。
本研究では,小中学生におけるレジリエンスとソーシャルスキルやストレス反応への関連を調べるとともに,多母集団同時分析を行い,小中学生の相違点についての検討も合わせて行うこととする。
方 法
【対象者】小学4~6年生2202名,中学1~2年生1392名
【調査内容】 (A)中学生用レジリエンス尺度(石毛・無藤,2006)「意欲的活動性」「内面共有性」「楽観性」 (B)ストレス反応質問紙(石原・福田,2007):「不安・抑うつ」「身体不調」「イライラ」「慢性疲労」「気力減退」「意欲低下」 (C)子ども用社会的スキル尺度(江村ら,2002):「仲間強化」「規律性」「社会的働きかけ」「先生との関係」「主張性」「葛藤解決」
【調査時期と手続】2013年11月に,各学級で学級担任が一斉に実施し,その場で回収された。
結果
社会的スキルを独立変数とし,ストレス反応を従属変数,レジリエンスを媒介変数とするモデルについて,多母集団同時分析を行った。分析の結果,適合度はχ2=60,df=36,p<.01,CFI=.999,AGFI=.985,RMSEA=.014と十分な値であった。中学生において有意になったパスのみを図に示す。
レジリエンスを媒介してストレス反応へ関連したパスで小中学生共に有意であったのが,「意欲的活動性」に対して「仲間強化」「規律性」「主張性」であった。「内面共有性」では,「仲間強化」「先生との関係」「葛藤解決」「主張性」であった。「楽観性」は,「社会的働きかけ」(「先生との関係」「葛藤解決」「主張性」であった。
次に,レジリエンスから直接ストレス反応へのパスで小中学生共に有意であったのが,「意欲的活動性」から「不安抑うつ」「イライラ」「気力減退」「意欲低下」,「内面共有性」は「不安抑うつ」「イライラ」「気力減退」,そして「楽観性」は「不安抑うつ」「身体不調」「イライラ」「慢性疲労」「気力減退」であった。またソーシャルスキルからストレス反応へは,「規律性」からすべてのストレス反応へ,さらに「社会的働きかけ」からは「イライラ」「慢性疲労」以外のすべてのストレス反応へのパスにおいて,さらに「先生との関係」は「意欲低下」,「葛藤解決」は「イライラ」「慢性疲労」,「主張性」は「不安抑うつ」で小中共に有意であった。
多母集団同時分析により,小中学生で差があったパスは,「規律性→楽観性」「楽観性→不安抑うつ」「楽観性→慢性疲労」「内面共有性→慢性疲労」「内面共有性→意欲低下」,および「仲間強化→不安抑うつ」であった。
考 察
社会的スキルの中でも「仲間強化」が小中共にレジリエンスの「内面共有性」に中程度の影響を示すことがわかった。このことからもソーシャルスキル教育などにより社会的スキルを高めることがレジリエンスを促進することができると考えられる。そして,社会的スキルがレジリエンスを媒介しストレス反応に関連することが確認された。
さらに小中学生の違いとしては,小学生ではレジリエンスの「楽観性」が「不安抑うつ」や「慢性疲労」に影響が強く,中学生では「内面共有性」が「慢性疲労」「意欲低下」に影響していることがわかった。このように,発達段階ごとにレジリエンスがストレス反応に与える影響が異なることが示されたことから,発達段階に応じたレジリエンスを高める方略が必要であると考えられる。