The 57th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表

ポスター発表 PB

Wed. Aug 26, 2015 1:30 PM - 3:30 PM メインホールA (2階)

[PB015] 社会的な学習環境の分析(1)

社会文化的環境が非行傾向行為に与える影響

大内里紗1, 有元典文2 (1.横浜国立大学大学院, 2.横浜国立大学)

Keywords:非行, 環境

【問題と目的】
松嶋(2013)は,非行のリスクとして「劣悪な家庭環境」など少年たちの社会文化的背景に注目するとき,非行少年は「その加害行為を監督するべき対象であると同時に,被害者としての側面に注目して人生が支えられるべき存在である」と述べている。ここで述べられているような,非行の原因を個人内ではなく社会文化的環境に求める考え方を,本研究では「社会文化的非行観」と呼ぶ。「社会文化的非行観」では,非行行為をある環境の中で学習され,継承されてゆく文化であると考える。たとえば,「割れ窓理論(Zimbardo, 1969)」や「正統的周辺参加論(Lave & Wenger, 1993)」を応用する考え方がこれにあたる。本研究では,各中学校で行われる非行に近い行為を「非行傾向行為」と呼ぶ。文化としての非行があるとすれば,環境の異なる対照的な2つの中学校では非行の捉え方も異なるのではないかと考えた。そこで,「周囲の人物の非行傾向行為に関する許容度」について対照的な2つの中学校を対象に学校文化の比較を行い,彼らの社会文化的環境の中では,どのような行為が許されているのかを明らかにすることを目的とした。
【方 法】
2014年12月上旬に関東近郊の課題集中校である公立A中学校の中学生(1年生117名:2年生103名:3年生106名)と,関東近郊B大学附属B中学校の中学生(1年生131名:2年生131名:3年生120名)に対し,質問紙調査を行った。質問紙は,向井(2008)の問題行動・非行行動の経験や常習性を問う質問票をもとに作成した。「あなたの周りのひとが以下のような行為をしていた時,あなたはどのように感じますか」と質問し,項目それぞれについて「1,絶対ゆるせる」から「5,絶対ゆるせない」の5件法で回答を求めた。得点が低いほど問題行動や非行行動に対する許容度が高いことを意味していた。
また,質問紙調査後に各中学校の(1)生徒指導の実態と(2)高校への進学状況を調査するため,各中学校にアンケートを実施した。
【結 果】
質問紙調査で得られたデータについて,因子分析(主因子法,プロマックス回転)を行った。その結果,解釈可能性から『日常の問題行動』『不良行動』『対人的問題行動』『道徳的問題行動』の4因子を抽出した。
4因子それぞれについて,平均値,標準偏差を算出した。さらに下位尺度得点を算出し,学校・学年・性別の3要因で分散分析,また主効果が見られた場合単純主効果の検定およびTukeyの多重比較を用いた検定を行った。
分析の結果,以下の特徴が得られた。(1)すべての因子で両中学校ともに1年生が最も許容度が低く,(2)A中学校では次いで2年生,3年生と続くのに対し,B中学校では3年生,2年生の順であった。また,(3)『不良行為』因子のみ,B中学校の方がA中学校よりも許容度が低い結果となった。
下の表1は各学校から得られた「周囲の人物の非行傾向行為の許容度」における特徴を不等号で低いものから順に並べたものである(表1参照)。
【考 察】
①1年生の許容度の低さについて
正統的周辺参加論より,2・3年生ではそれぞれの文化に沿った形で許容度が見られたのに対し,1年生は各中学校の文化を獲得する途上にあり,学校の文化に染まりきっていないため,非行傾向行為への耐性が無く両校ともに最も許容度が低い結果となったと考えられる。
②A・B中学校の違いについて
新参者である1年生はそれぞれの学校文化を持つ集団に正統的・周辺的に参与する。A中学校では先輩に非行傾向行為をするものが多い文化,B中学校では先輩に高校受験を重視するものが多い文化である。1年生は各学校の先輩からそれぞれの学校文化を学習・継承していく中で,非行傾向行為の許容度に差が出てきたと考えられる。