日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PC

2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC003] 読書頻度が読字スキルに及ぼす発達的影響

小学校低学年児童への縦断調査による発達的検討(1)

猪原敬介1, 上田紋佳2, 塩谷京子#3, 小山内秀和4 (1.電気通信大学, 2.ルーテル学院大学, 3.関西大学, 4.京都大学)

キーワード:読書, 縦断調査, 読字スキル

読書が言語スキルを促進するか,という疑問について,これまで数多くの研究がなされてきた。近年のメタ分析(Mol & Bus, 2011)は,上記の疑問に対して「促進する」ことを示唆している。しかしMol & Bus(2011)のメタ分析に含まれた99の調査には,(a)言語の普遍性に欠ける(大半が英語圏の研究。アジアの言語は3研究のみ。東南アジアでは中国語の1研究のみ),(b) 横断研究であり,縦断研究ではない,という制限がある。そこで本研究では,これまで日本人では報告されていない,読書頻度と言語スキルの関係についての縦断調査を,小学校低学年の生徒を対象に行う。
また,児童の読書頻度の推定法について,現在はタイトル再認テスト(TRT; Cunningham & Stanovich, 1990)が標準的に用いられているが,児童がどれだけ本のタイトルを多く知っているか,という観点からの推定であり,実際の読書頻度とのつながりは明確ではない。そこで本研究では,日本語版タイトル再認テスト(猪原・上田・塩谷・小山内, 印刷中)と併せて,小学校図書室における図書貸出数を読書頻度推定指標として用いた。
方 法
参加者 測定は2012年12月(T1)と2013年12月(T2)に行われた。T1測定にて,私立小学校の1年生62名が本調査に参加した。T2測定では,参加者は2年生となった。T1,T2における測定のうち,一指標でも欠損した参加者,および他校への転校を行った参加者を除外した結果,最終的な参加者は58名(男児27名,女児31名)となった。
測定指標 日本人小学生1・2年生用タイトル再認テスト(猪原ら,印刷中)は,全30タイトルが紙面に印刷されており,参加者は自分の知っているタイトルを選ぶことを求められた。30タイトルのうち,15は実在のタイトルであり,15は架空のタイトルであった。TRTスコアとして,ヒット率から虚再認率を差し引いたものを用いた。
図書貸出数は,協力校の図書室における図書貸出数を用いた。本研究では,ジャンルを考慮せず,総図書貸出数のみを用いた。
読字スキルの測定として,Reading-Test(福沢・平山, 2009)のサブテストの「読字力テスト」を用いた。問題は,例えば,二字熟語の正しい読みを選択肢から選択する,などの課題によって構成されていた。得点を正答率に変換し,「読字スキル」として分析した。
手続き T1およびT2の測定は,すべて協力校の担任教員によって,授業中,朝の会,帰りの会などの時間に行われた。T1ではすべての指標が,T2では読字スキルの測定が行われた。
結果および考察
各指標の平均値(SD)をTable 1, 単相関行列をTable 2, 読字スキル (T2)を目的変数とする階層的重回帰分析の結果をTable 3に示した。
結果として,TRTスコアと図書貸出数は,元々の読字スキル(T1)を統制し,さらにどちらか一方を統制した上でも,1年後の読字スキル(T2)を説明する独自の成分を持つことが明らかになった。
本研究の結果から,英語圏での研究成果と同様に,読書が言語スキル(読字スキル)を促進することが明らかになった。また,読書頻度の推定はTRTだけでは十分ではなく,図書貸出数によっても説明されることが明らかになった。本研究は日本人児童対象の縦断調査の結果を初めて報告したものであり,我が国の読書研究・読書教育を考える基盤データとして有用である。