日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

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2015年8月26日(水) 16:00 〜 18:00 メインホールA (2階)

[PC060] 聴覚障害生徒における漢字二字熟語の読みに影響を及ぼす個人要因

茂木成友1, 鄭仁豪2 (1.筑波大学, 2.筑波大学)

キーワード:聴覚障害, 漢字読み, 個人要因

問題と目的
日本語の語彙の約7割は,漢字二字熟語であり(Yokosawa&Umeda,1988),児童生徒の語彙獲得を考える上で,漢字二字熟語の習得の特徴を検討することは重要である。特に,聴覚障害児は漢字二字熟語の読み習得に困難を示すことが指摘されているため(鎌田・江刺家,1991),聴覚障害児における漢字二字熟語の読み習得に影響を及ぼす個人要因を明らかにし,読みの指導への示唆を得ることを目的とする。
方 法
対象:特別支援学校(聴覚障害)中学部に在籍する32名(1年生11名,2年生9名,3年生12名)とした。対象児は小学部では聴覚口話を主たるコミュニケーション手段として用いており,現在は聴覚口話と手話を併用している。
漢字読み課題:[漢字テスト]漢字二字熟語180語の読みを調べるテストを作成した。
個人要因に関する課題:[字形処理能力]積木模様課題(WISC-Ⅳ),レイの複雑図形課題,[意味処理能力]語彙力,統語力,文章読解力(いずれもReading-Test),[音韻処理能力]数唱(WISC-Ⅳ),AVLT,補聴器等装用時閾値,発語明瞭度を用いた。
実施:漢字読み課題では各熟語の読みの記載を求め,解答時間に制限は設けなかった。個人要因関係課題は個別に実施し,規定時間内での回答を求めた。
結 果
漢字テストの正答数を従属変数,学年を統制変数,個人要因に関する各課題の成績を独立変数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行った。その結果,統計的に有意であった要因は,語彙力,発語明瞭度,補聴器装用閾値の3つであった(Table 1)。
考 察
聴覚障害児の単語綴りの正確さと関連する心理的要因として,読書力(Harris &Moreno,2004;Motegi et al., 2014)や発語明瞭度(Harris & Beech,1998;Motegi et al., 2014)が指摘されている。本研究で検討した,漢字熟語の読み習得においても,読書力の要因である語彙力が漢字の読みに最も高い影響力を持つことが明らかとなった。漢字の読み習得において,意味の理解が重要であるとの指摘もあり(福沢,1968),語彙力が高い生徒は,漢字の読みも正確に習得しやすいことが推察された。
発語明瞭度は,聴覚障害児が各音韻を明確に区別していることの指標とみることができ,発音の明瞭な聴覚障害児は単語を正確に綴り,漢字の読み仮名も正確に綴ることができたと考えられる。
補聴器等装用時閾値は,漢字の読み習得における聴覚活用の有効性を示しており,本研究の対象児が,小学部段階から継続して聴覚口話を活用していたことが影響していると考えられた。
これらの事から,聴覚口話を主たるコミュニケーションとしている聴覚障害児への漢字二字熟語の読みの指導では,聴覚活用のしやすい環境づくり,また発音を通して自覚的に音韻化させることが重要であると考えられた。さらに,指導する漢字のもつ意味に着目させ,それと類似する意味を持つ漢字や対義語などとも関連づけながら語彙の拡充を図り,それに合わせて読みの学習も行うことで,漢字読みの能力を効果的に促すことができると考えられた。