[PF064] 授業内容についての理解の程度と授業中の身体の揺れの関連性
「ビジネス顕微鏡」を用いた授業分析の試み(2)
Keywords:教室のコミュニケーション, ビッグデータ, 身体振動
問題と目的
授業中の児童の学習過程を明らかにするためには,コミュニケーションの実態を精緻に記述することが必要である。
筆者らは,(株)日立製作所の開発した行動ビッグデータ収集分析システム「ビジネス顕微鏡」を応用して,授業中のコミュニケーションを可視化するシステムの開発に着手している(伊藤,2014)。本研究では,授業内容の理解の程度と児童の体の揺れ(身体振動周波数)との間に関連性があるかどうかを検討する。具体的には,内容の理解の程度に応じて児童をグループ分けし,それぞれの身体振動周波数の時系列変化を分析する。
方法
対象:札幌市立小学校1校の5年生1学級。児童数は30(うち女児15)名,教員歴10年超の男性教員が担任。対象の授業は2014年10月に実施された社会科で,「食糧自給率」がテーマ。授業は前半の討論場面(約30分),後半のまとめ場面(約12分)で構成。前半は教師の発問や資料提示,児童の発言や児童間の話し合い活動で進められた。後半は「学び直し」(後述)などノートに書く作業が中心であった。 測定手続き:授業開始前に児童全員に名札型センサの装着を依頼。並行して教室前方の黒板上部に小型ビデオカメラを設置し,授業の様子を撮影。授業の理解の程度については,授業中に考えていたことを児童が振り返って各自のノートに記入した「学び直し」を手がかりとした。まとめ場面で書かれるもので,当学級の習慣となっていた(ただし対象の授業では男児4名が未提出)。 分析手続き:計測は装着時点からなされていたが,分析対象は授業開始時から終了時点までとした。システム付属ソフトが加速度センサ情報に基づいて計算した10秒ごとの平均身体振動周波数データを分析。理解の程度については,学習した事項を日常生活や既知の事項に関連づけて自分の言葉で書いているかという観点から「学び直し」の記述を担任教師が順位づけしたものを利用。
結果
理解の程度の順位により上位と下位各8名を抽出し,高評価群,低評価群とした。各児童の身体振動周波数を基に群ごとに10秒ごとの平均周波数を求めた。さらに群内平均周波数の授業場面ごとの平均を求めたところ,討論場面では高評価群1.09,低評価群0.79,まとめ場面では高評価群1.18,低評価群0.77(単位はHz)であった。
時系列変動を平滑化するため群内平均周波数の60秒ごと移動平均を求め,時系列変動のグラフを作成した。図1は,討論場面において児童たちが話し合いを行い(20:30-21:30の区間),話し合った内容をその後で発表した場面の周波数の移動平均を群ごとに示したものである。図1によると,話し合い中の時系列変動は両群で同様のパターンであったが,その後の発表場面では高評価群の周波数が上昇した一方,低評価群は低下するという逆のパターンを呈した。
考察
授業全体で見ると,理解の程度が高いと評価された児童の方が,身体振動周波数がやや高い傾向があった。さらに,そうした児童は個別に話し合った内容を全体で議論する場面でも高い周波数を示していた。身体の微細な揺れから授業への参加の程度や理解の程度を推測できる可能性が示唆された。
授業中の児童の学習過程を明らかにするためには,コミュニケーションの実態を精緻に記述することが必要である。
筆者らは,(株)日立製作所の開発した行動ビッグデータ収集分析システム「ビジネス顕微鏡」を応用して,授業中のコミュニケーションを可視化するシステムの開発に着手している(伊藤,2014)。本研究では,授業内容の理解の程度と児童の体の揺れ(身体振動周波数)との間に関連性があるかどうかを検討する。具体的には,内容の理解の程度に応じて児童をグループ分けし,それぞれの身体振動周波数の時系列変化を分析する。
方法
対象:札幌市立小学校1校の5年生1学級。児童数は30(うち女児15)名,教員歴10年超の男性教員が担任。対象の授業は2014年10月に実施された社会科で,「食糧自給率」がテーマ。授業は前半の討論場面(約30分),後半のまとめ場面(約12分)で構成。前半は教師の発問や資料提示,児童の発言や児童間の話し合い活動で進められた。後半は「学び直し」(後述)などノートに書く作業が中心であった。 測定手続き:授業開始前に児童全員に名札型センサの装着を依頼。並行して教室前方の黒板上部に小型ビデオカメラを設置し,授業の様子を撮影。授業の理解の程度については,授業中に考えていたことを児童が振り返って各自のノートに記入した「学び直し」を手がかりとした。まとめ場面で書かれるもので,当学級の習慣となっていた(ただし対象の授業では男児4名が未提出)。 分析手続き:計測は装着時点からなされていたが,分析対象は授業開始時から終了時点までとした。システム付属ソフトが加速度センサ情報に基づいて計算した10秒ごとの平均身体振動周波数データを分析。理解の程度については,学習した事項を日常生活や既知の事項に関連づけて自分の言葉で書いているかという観点から「学び直し」の記述を担任教師が順位づけしたものを利用。
結果
理解の程度の順位により上位と下位各8名を抽出し,高評価群,低評価群とした。各児童の身体振動周波数を基に群ごとに10秒ごとの平均周波数を求めた。さらに群内平均周波数の授業場面ごとの平均を求めたところ,討論場面では高評価群1.09,低評価群0.79,まとめ場面では高評価群1.18,低評価群0.77(単位はHz)であった。
時系列変動を平滑化するため群内平均周波数の60秒ごと移動平均を求め,時系列変動のグラフを作成した。図1は,討論場面において児童たちが話し合いを行い(20:30-21:30の区間),話し合った内容をその後で発表した場面の周波数の移動平均を群ごとに示したものである。図1によると,話し合い中の時系列変動は両群で同様のパターンであったが,その後の発表場面では高評価群の周波数が上昇した一方,低評価群は低下するという逆のパターンを呈した。
考察
授業全体で見ると,理解の程度が高いと評価された児童の方が,身体振動周波数がやや高い傾向があった。さらに,そうした児童は個別に話し合った内容を全体で議論する場面でも高い周波数を示していた。身体の微細な揺れから授業への参加の程度や理解の程度を推測できる可能性が示唆された。