[PG036] 医学英語リーディング授業における有用感・学習意欲・自己効力感・学習方略及びテスト得点の関連
キーワード:自己調整学習, 学習意欲, 学習方略
【本研究の目的】
自律的学習者の育成に向けて,高い内発的動機を持ち,自己の学習をモニタリングし,積極的に学習方略を用いて自己の学習を調整する自己調整学習が注目を集めている(Zimmerman & Shunk,2001)。自己調整学習は,動機づけと学習方略の研究を教育実践に向けて理論的に統合した成果である。動機づけでは「自己効力感」(Zimmerman & Bandura, 1994)が具体的な学習行動に結びつくとして着目され,「自己効力感」と「学習方略」は自己調整学習において重要な要素である(Zimmerman & Martinez-Pons, 1990)。
自律的学習者の育成には学習意欲を高めるための動機づけが不可欠である。学習内容が有益であるという「有用感」が「学習意欲」に影響を与えることが示唆されており(秋田他,2014),「学習意欲」はテスト得点ではなく「自己効力感」と関連が見られたと報告されている(藤森, 2014)。また,「学習方略」は直接的に学業成果に影響を与えることが知られている(久保,1999;佐藤, 2004;前田, 2002)。「学習方略」は「自己効力感」と関連しており,自己効力感を高めることが学習方略の使用に繋がり,それが学業成績の向上に繋がることも指摘されている(金子・大芦,2010)。
本研究は,個別に扱われてきた「有用感」,「学習意欲」,「自己効力感」,「学習方略」と学業成果との関連を調べることで,授業において生起した学習全体の特徴が捉えられることを示し,それが自律的学習者の育成に向けた授業プログラムの改善への省察に繋がる可能性を示唆することを目的とする。
【方 法】
1.対象授業:2014年4月から11月にかけて行われた医学部2年生を対象とした医学英語,週1回2コマ(1コマ65分)連続の授業。「人体の構造と機能」で既習の内容に関する専門書の一部を教材とし,毎回,各自割り当てられたパートを読解, グループ内での共有,全体での発表, 医学専門教員(生化学,生理学,解剖学)による質疑応答と解説及び英語教員による解説が行なわれるティーム・ティーチングの授業。2.分析データ:授業対象者全員に2015年2月に行われた,授業についての意識(有用感4項目,学習意欲8項目,自己効力感10項目,学習方略6項目)に関する5段階尺度の質問紙調査(有効データ数124名分)と達成度テスト(学年末試験100点満点)及び英語熟達度テスト(TOEFL ITP,2014年1月実施,118名分)の得点。3.分析方法:1)〈有用感〉,<学習意欲>,<自己効力感>,<学習方略使用度>,テスト得点(<達成度テスト>及び〈TOEFL〉)との相関。2)医学英語教材の読解時に用いている〈学習方略〉と〈学習意欲〉,〈自己効力感〉及びテスト得点との相関。
【結果と考察】
1)英語の専門書読解は「専門的知識の復習になる」や「英語力向上に役立つ」などの〈有用感〉(Cronbachのα係数= .85),「辞書があれば専門的内容の英文テクストを読んで要点を理解できる」や「専門的知識があれば理解できる」などの〈自己効力感〉(α=.85),「英語で専門書を読むことは面白い」や「授業では集中して取り組んだ」などの〈学習意欲〉(α =.85)及び専門書読解時における〈学習方略使用度〉(α=.72)とテスト得点との相関を調べた。その結果,〈達成度テスト〉とはいずれも相関が見られなかった。〈TOEFL〉に関しては〈学習方略使用度〉とごく弱い相関が見られた(r=.21)。〈学習意欲〉と〈有用感〉には中程度の相関(r=.60),〈自己効力感〉とは弱い相関(r=.41)が見られた。〈有用感〉と〈自己効力感〉には弱い相関(r=.27)が見られた。また,〈学習方略使用度〉は〈有用感〉(r=.55),〈学習意欲〉(r=.60),〈自己効力感〉(r=.50)と中程度の相関が見られた。
2)探索的因子分析(主因子法・プロマック回転)の結果,医学英語教材の読解時に用いている〈学習方略〉として,2因子解,[文法・構文利用(α=.70)]と[専門的知識利用(α=.57)]が抽出された。そこで,[文法・構文利用]と[専門的知識利用]と他の変数との相関を調べた結果がTable 2である。
[文法・構文利用]も[専門的知識利用]も〈学習意欲〉と中程度の相関(r=.50, r=.51)が見られたが,〈達成度テスト〉とは相関が見られなかった。また[文法・構文利用]が〈有用感〉及び〈自己効力感〉と弱い相関(r=.35, r=.33)であったのに対し,[専門的知識利用]は中程度の相関(r=.59, r=.51)が見られた。一方,[文法・構文利用]はTOEFLと弱い相関(r=.23)が見られたものの,[専門的知識利用]はTOEFLとの相関は見られなかった。この結果を解釈すると,専門書を英語で読むことを有用とし,読んで理解できると回答した学生は,読解の際,専門的知識を読解に活かす方略を用いている可能性がある。一方,英語熟達度の高い学生の場合,専門的知識のみならず,文法・構文にも着目している可能性がある。
最後に,今回の調査では有用感や学習意欲に比べ,自己効力感が低かった点を指摘したい(Table 3)。そのことが全体的に他の変数との相関に与えた影響,言い換えると,授業において生起した学習の特徴に影響を与えているかもしれない。
【総合的考察】
今回の授業データでは学習意欲と自己効力感との関連が弱く,自己効力感よりも有用感と学習意欲が学習方略と関連しているとの特徴が見られた。今後,自己効力感をより高めるような授業改善を図ることで,また異なった学習が生起する可能性がある。更に,英語熟達度の向上という観点からは,専門書読解の際,専門的知識のみならず,文法や構文など言語的知識も利用する学習方略の使用を促す必要性が示唆される。
自律的学習者の育成に向けて,高い内発的動機を持ち,自己の学習をモニタリングし,積極的に学習方略を用いて自己の学習を調整する自己調整学習が注目を集めている(Zimmerman & Shunk,2001)。自己調整学習は,動機づけと学習方略の研究を教育実践に向けて理論的に統合した成果である。動機づけでは「自己効力感」(Zimmerman & Bandura, 1994)が具体的な学習行動に結びつくとして着目され,「自己効力感」と「学習方略」は自己調整学習において重要な要素である(Zimmerman & Martinez-Pons, 1990)。
自律的学習者の育成には学習意欲を高めるための動機づけが不可欠である。学習内容が有益であるという「有用感」が「学習意欲」に影響を与えることが示唆されており(秋田他,2014),「学習意欲」はテスト得点ではなく「自己効力感」と関連が見られたと報告されている(藤森, 2014)。また,「学習方略」は直接的に学業成果に影響を与えることが知られている(久保,1999;佐藤, 2004;前田, 2002)。「学習方略」は「自己効力感」と関連しており,自己効力感を高めることが学習方略の使用に繋がり,それが学業成績の向上に繋がることも指摘されている(金子・大芦,2010)。
本研究は,個別に扱われてきた「有用感」,「学習意欲」,「自己効力感」,「学習方略」と学業成果との関連を調べることで,授業において生起した学習全体の特徴が捉えられることを示し,それが自律的学習者の育成に向けた授業プログラムの改善への省察に繋がる可能性を示唆することを目的とする。
【方 法】
1.対象授業:2014年4月から11月にかけて行われた医学部2年生を対象とした医学英語,週1回2コマ(1コマ65分)連続の授業。「人体の構造と機能」で既習の内容に関する専門書の一部を教材とし,毎回,各自割り当てられたパートを読解, グループ内での共有,全体での発表, 医学専門教員(生化学,生理学,解剖学)による質疑応答と解説及び英語教員による解説が行なわれるティーム・ティーチングの授業。2.分析データ:授業対象者全員に2015年2月に行われた,授業についての意識(有用感4項目,学習意欲8項目,自己効力感10項目,学習方略6項目)に関する5段階尺度の質問紙調査(有効データ数124名分)と達成度テスト(学年末試験100点満点)及び英語熟達度テスト(TOEFL ITP,2014年1月実施,118名分)の得点。3.分析方法:1)〈有用感〉,<学習意欲>,<自己効力感>,<学習方略使用度>,テスト得点(<達成度テスト>及び〈TOEFL〉)との相関。2)医学英語教材の読解時に用いている〈学習方略〉と〈学習意欲〉,〈自己効力感〉及びテスト得点との相関。
【結果と考察】
1)英語の専門書読解は「専門的知識の復習になる」や「英語力向上に役立つ」などの〈有用感〉(Cronbachのα係数= .85),「辞書があれば専門的内容の英文テクストを読んで要点を理解できる」や「専門的知識があれば理解できる」などの〈自己効力感〉(α=.85),「英語で専門書を読むことは面白い」や「授業では集中して取り組んだ」などの〈学習意欲〉(α =.85)及び専門書読解時における〈学習方略使用度〉(α=.72)とテスト得点との相関を調べた。その結果,〈達成度テスト〉とはいずれも相関が見られなかった。〈TOEFL〉に関しては〈学習方略使用度〉とごく弱い相関が見られた(r=.21)。〈学習意欲〉と〈有用感〉には中程度の相関(r=.60),〈自己効力感〉とは弱い相関(r=.41)が見られた。〈有用感〉と〈自己効力感〉には弱い相関(r=.27)が見られた。また,〈学習方略使用度〉は〈有用感〉(r=.55),〈学習意欲〉(r=.60),〈自己効力感〉(r=.50)と中程度の相関が見られた。
2)探索的因子分析(主因子法・プロマック回転)の結果,医学英語教材の読解時に用いている〈学習方略〉として,2因子解,[文法・構文利用(α=.70)]と[専門的知識利用(α=.57)]が抽出された。そこで,[文法・構文利用]と[専門的知識利用]と他の変数との相関を調べた結果がTable 2である。
[文法・構文利用]も[専門的知識利用]も〈学習意欲〉と中程度の相関(r=.50, r=.51)が見られたが,〈達成度テスト〉とは相関が見られなかった。また[文法・構文利用]が〈有用感〉及び〈自己効力感〉と弱い相関(r=.35, r=.33)であったのに対し,[専門的知識利用]は中程度の相関(r=.59, r=.51)が見られた。一方,[文法・構文利用]はTOEFLと弱い相関(r=.23)が見られたものの,[専門的知識利用]はTOEFLとの相関は見られなかった。この結果を解釈すると,専門書を英語で読むことを有用とし,読んで理解できると回答した学生は,読解の際,専門的知識を読解に活かす方略を用いている可能性がある。一方,英語熟達度の高い学生の場合,専門的知識のみならず,文法・構文にも着目している可能性がある。
最後に,今回の調査では有用感や学習意欲に比べ,自己効力感が低かった点を指摘したい(Table 3)。そのことが全体的に他の変数との相関に与えた影響,言い換えると,授業において生起した学習の特徴に影響を与えているかもしれない。
【総合的考察】
今回の授業データでは学習意欲と自己効力感との関連が弱く,自己効力感よりも有用感と学習意欲が学習方略と関連しているとの特徴が見られた。今後,自己効力感をより高めるような授業改善を図ることで,また異なった学習が生起する可能性がある。更に,英語熟達度の向上という観点からは,専門書読解の際,専門的知識のみならず,文法や構文など言語的知識も利用する学習方略の使用を促す必要性が示唆される。