日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB75] 児童用・感情交流尺度作成の試み(2)

信頼性・妥当性の再検証

牧郁子 (大阪教育大学)

キーワード:小学生, 感情, 尺度

問題と目的
 日本の小中学生は欧米の子どもよりも抑うつ得点が高いことが報告され(傳田,2004),子どもの抑うつや無気力感は,看過できない課題となっている。牧(2011)は,中学生を対象に行動と結果が随伴しているかどうかについての認知である随伴性認知(Seligman & Maier,1967),コーピング・エフィカシーと,Beck(1967)の抑うつスキーマ理論における推論の誤りを参照した思考の偏りといった変数を想定し,パス解析による無気力感モデルの検証を行った。しかし随伴性判断が現実的になる思春期(Weisz & Stipek,1982)に比べて,その認知発達が具体的操作期から形式的操作期の移行期にある小学生は,中学生とは違ったメカニズムで無気力感が構成されている可能性がある。そこで牧(2015)は,無気力感との関連性が示唆され(GreenBerg,2010),児童期の不適応行動の要因とされる感情の社会化不全(大河原,2004)を変数化し無気力感への影響を検討するために,児童用・感情交流尺度を作成し信頼性・妥当性を検証した。しかし調査対象が大学附属小学校の児童であったため,公立学校サンプルを加え,尺度の信頼性・妥当性を再検討することを目的とした。
方   法
 大阪府・滋賀県の小学生計1534名(男子=802名,女子=732名;4年生=502名,5年生=533名,6年生=499名)を対象に,感情交流尺度原項目,および小学生用の無気力感尺度(笠井・松村・保坂・三浦,1995)を実施した。
結   果
 探索的因子分析の結果,牧(2015)と同様の3因子構造が認められ,それぞれ「肯定的感情の送受信」「否定的感情の子ども送信」「否定的感情の保護者受信」と命名された(Table 1)。また各下位尺度の内的整合性は,第1因子α=.86,第2因子α=.86,第3因子α=.88と信頼性が認められた。さらに先行研究(GreenBerg,2010)で感情の社会化と関連性が示唆されている無気力感との相関係数を算出したところ,中程度から弱い有意な負の相関が認められた。
 続いて最尤法による確認的因子分析を行ったところGFI=.91, AGFI =.87, CFI=.93, RMSEA =.10とRMSEA以外は概ね十分な値が得られた。また児童期は認知・情動発達が著しく,また男女差も明確になる可能性があるため,配置不変・測定不変のモデルを用いて。多集団同時分析を行った。分析の結果,学年における配置不変モデルの適合度指標は,GFI=.90, AGFI =.85, CFI=.92, RMSEA =.06,AIC=.1289.554となり,測定不変モデルの適合度指標は,GFI=.90, AGFI =.86, CFI=.92, RMSEA =.06,AIC=1326.481となった。一方性別における配置不変モデルの適合度指標は,GFI=. 90, AGFI =.86, CFI=.92, RMSEA =.07, AIC=1170.512となり,測定不変モデルの適合度指標は,GFI=.90, AGFI =.86, CFI=.92, RMSEA =.07,AIC=1229.596となった。以上から,学年・男女においてほぼ同様の因子構造であり,尺度得点において比較可能であることが示された。
考   察
 本研究では牧(2015)におけるサンプルの偏りを補完するため,公立学校のデータを追加し,尺度の信頼性・妥当性の再検討を行った。その結果,牧(2015)とほぼ同様の因子構造が認められ,各下位尺度とも信頼性・妥当性が認められた。今後は,本研究で作成された変数に加えて,中学生の無気力感の構成要因とされる認知変数も併せて投入し,小学生における無気力感のメカニズムを検討する必要があると考える。
※本研究は日本学術振興会・科学研究費・基盤研究(C)「小学生における無気力感メカニズムと教師介入プログラムの検討」(課題番号25380927)の助成を受けて実施された。