[PC30] 教授された知識を用いて説明する活動が知識の理解に及ぼす影響
キーワード:説明活動, 理解, 理科
問題と目的
平成20年3月に告示された学習指導要領で,充実すべき重要事項として言語活動が挙げられた。これを受けて,学校教育現場ではさまざまな言語活動を取り入れた指導が展開されている。とりわけ多くみられるのが「説明」であり,その指導目標は自己診断や理解,問題解決など幅広く,説明の形態もまた多様である。そうした中にあって,本研究では,学習内容の理解を目標とし,教えられてわかったつもりになっていても実は誤解しがちな問題についての正答を,教えられた内容を基に説明する活動の効果を検討する。
このような説明活動については,市川(2000)が,学習者に学習内容を意識化・自覚化させることを通して,理解を深化させることに役立つと述べている。実際,小林(2013)では,大学生を対象とした実験によって,学習者が教えられた内容を基に説明することが,教えられた内容を書き写す場合と比較して概念変化に有効であることを示している。本研究は,このような説明活動を導入した指導法を実際の理科授業で実施し,実践としての効果を検討するものである。
方 法
対象者:小学5年生30名。
指導法:学習単元として電磁石を取り上げた。この単元では「電流の流れているコイルは鉄芯を磁化する働きがあること」および「電磁石の強さは電流の強さや導線の巻数によって変わること」等が学習される(学習指導要領,2008)。そのため,教科書では,「磁石の性質と比べながら電磁石の性質を調べよう」,または,「電磁石が鉄を引きつける力を強くするにはどうしたらよいか。乾電池の数を2個に増やしてみよう。また,コイルの巻き数を増やして比べよう」といった問いかけがなされている。学習者の多くはこうした問題に正答するが,学習内容を本当に理解できているとは限らない。そこで,教科書に沿って学習した後,新たに「銅を芯にしても電磁石になるか」や「電流の向きが変わると電磁石の強さは変わるか」といった学習者が誤りやすいとされている問題を与えた。この問題の正答について,教科書に沿って学習した内容を基に説明するよう促すことが,本指導の重点となる。問題の答えを説明させ,また,「大切だったことや新しい発見」についても記述させた。
結 果
学習過程の分析:学習過程の一例として,Table 1に,「電磁石の強さは電流の強さによって変わる」という理解を問う問題(教科書記載の問題「乾電池を2個に増やしたら電磁石の強さはどうなるか」と,それ以外で学習者が誤りやすい問題「乾電池の向きを逆にしたら電磁石の強さはどうなるか」)における正答率を示す。学習者は,教科書記載の問題については,予想の段階から「乾電池を2個に増やせば電磁石の強さは強くなる」と答えていた。しかし,実験によってその正しさが示され,「電磁石の強さは電流の強さによって変わる」と確認されたにもかかわらず,次の問題では,学習者の4分の1が「電流の向きを変えても電磁石の強さは変わる」と答えている。実験でそうではないという結果が得られた後に「電流の向きが変わっても,電流の強さは変わらない(ゆえに,電磁石の強さは変わらない)」等と言語化することによって,学習内容の理解を深めていく様子がうかがえた。
なお,参考までに,事前・事後で電磁石に関するテスト(5点満点)を行い,両方に回答した22名を対象にt検定を行ったところ,事前テスト得点(平均0.45,標準偏差1.20)<事後テスト得点(平均3.32,標準偏差1.37)という結果が得られた(t(21)=11.51, p<.01)。
考 察
教えられてわかったつもりになっていても実は誤解している部分があること,教えられた内容を基に説明を考えることが,誤解を解き,学習内容の理解を深める上で一定の役割を果たすことが,電磁石を単元とした理科授業で確認された。しかし,繰り返し説明を求める中で,説明を省略してしまう学習者がいること(そのために正確な理解の測定が難しいこと),さらに,教えられた内容ではなく自身の素朴な考えに基づいて説明を構築し続ける学習者も見られることが課題として残されている。今後の検討が必要である。
平成20年3月に告示された学習指導要領で,充実すべき重要事項として言語活動が挙げられた。これを受けて,学校教育現場ではさまざまな言語活動を取り入れた指導が展開されている。とりわけ多くみられるのが「説明」であり,その指導目標は自己診断や理解,問題解決など幅広く,説明の形態もまた多様である。そうした中にあって,本研究では,学習内容の理解を目標とし,教えられてわかったつもりになっていても実は誤解しがちな問題についての正答を,教えられた内容を基に説明する活動の効果を検討する。
このような説明活動については,市川(2000)が,学習者に学習内容を意識化・自覚化させることを通して,理解を深化させることに役立つと述べている。実際,小林(2013)では,大学生を対象とした実験によって,学習者が教えられた内容を基に説明することが,教えられた内容を書き写す場合と比較して概念変化に有効であることを示している。本研究は,このような説明活動を導入した指導法を実際の理科授業で実施し,実践としての効果を検討するものである。
方 法
対象者:小学5年生30名。
指導法:学習単元として電磁石を取り上げた。この単元では「電流の流れているコイルは鉄芯を磁化する働きがあること」および「電磁石の強さは電流の強さや導線の巻数によって変わること」等が学習される(学習指導要領,2008)。そのため,教科書では,「磁石の性質と比べながら電磁石の性質を調べよう」,または,「電磁石が鉄を引きつける力を強くするにはどうしたらよいか。乾電池の数を2個に増やしてみよう。また,コイルの巻き数を増やして比べよう」といった問いかけがなされている。学習者の多くはこうした問題に正答するが,学習内容を本当に理解できているとは限らない。そこで,教科書に沿って学習した後,新たに「銅を芯にしても電磁石になるか」や「電流の向きが変わると電磁石の強さは変わるか」といった学習者が誤りやすいとされている問題を与えた。この問題の正答について,教科書に沿って学習した内容を基に説明するよう促すことが,本指導の重点となる。問題の答えを説明させ,また,「大切だったことや新しい発見」についても記述させた。
結 果
学習過程の分析:学習過程の一例として,Table 1に,「電磁石の強さは電流の強さによって変わる」という理解を問う問題(教科書記載の問題「乾電池を2個に増やしたら電磁石の強さはどうなるか」と,それ以外で学習者が誤りやすい問題「乾電池の向きを逆にしたら電磁石の強さはどうなるか」)における正答率を示す。学習者は,教科書記載の問題については,予想の段階から「乾電池を2個に増やせば電磁石の強さは強くなる」と答えていた。しかし,実験によってその正しさが示され,「電磁石の強さは電流の強さによって変わる」と確認されたにもかかわらず,次の問題では,学習者の4分の1が「電流の向きを変えても電磁石の強さは変わる」と答えている。実験でそうではないという結果が得られた後に「電流の向きが変わっても,電流の強さは変わらない(ゆえに,電磁石の強さは変わらない)」等と言語化することによって,学習内容の理解を深めていく様子がうかがえた。
なお,参考までに,事前・事後で電磁石に関するテスト(5点満点)を行い,両方に回答した22名を対象にt検定を行ったところ,事前テスト得点(平均0.45,標準偏差1.20)<事後テスト得点(平均3.32,標準偏差1.37)という結果が得られた(t(21)=11.51, p<.01)。
考 察
教えられてわかったつもりになっていても実は誤解している部分があること,教えられた内容を基に説明を考えることが,誤解を解き,学習内容の理解を深める上で一定の役割を果たすことが,電磁石を単元とした理科授業で確認された。しかし,繰り返し説明を求める中で,説明を省略してしまう学習者がいること(そのために正確な理解の測定が難しいこと),さらに,教えられた内容ではなく自身の素朴な考えに基づいて説明を構築し続ける学習者も見られることが課題として残されている。今後の検討が必要である。