[PC29] 講義資料の事前配布有無による大学生の講義内容説明への影響
3ヶ月後の比較
Keywords:講義, 配布資料, ノートテイキング
はじめに
授業中のノートテイキングは多くの学習者によってとられる行動であり,符号化機能と外部貯蔵機能からその役割が説明されてきた(Di Vesta and Gray, 1972)。
魚崎(2016)は大学生の講義場面において配布資料のない状態で授業を受けると,ノートテイキング量が多くなるものの,そのうち多くはスライドを書き写したものであるということを示した。また,授業直後に講義内容の説明を求めたところ,配布資料の有無による情報量の違いは見られなかったが,配布資料がある場合には資料への非言語書き込みを言語化しながら説明するのに対し,配布資料がない場合にはスライド以外の情報でノートをとった情報を用いることがわかった。
本研究は,魚崎(2016)で対象とした授業の後,配布資料なし群にも資料を与え,手元にノートと資料とがある状態にした上で,約3ヶ月後に直後と同じ説明課題を与え,授業前に資料を配布された群と授業後に資料を配布された群との説明量や説明内容の違いを検討しようとしたものである。
方 法
対象者
関東地方の大学で「教育心理学」を受講する1年生138名および2年生9名を対象とした。同じ内容について扱う2つのクラスを用いて実験を行うこととし,資料事前配布群のクラスは67名,資料事後配布群のクラスは80名であった。
手続き
通常の講義のうち,後半(約30分)を用いて動機づけに関する話題を扱った。資料事前配布群はスライドをまとめた資料を授業前に配布し,多くの学生はそこに書き込みを行いながら授業を受けた。一方,配布事後配布群はスライドの情報を手元に持たずに授業を受けたため,必要に応じて自身でノートをとる者が多かった。なお,これらの学生にも授業終了後に事前配布群と同じ資料を配布した。
授業終了から約3ヶ月後に,授業内容のうちワイナーによる原因帰属理論に関する説明を求めた。なお,その際ノートや配布資料などを参照しながら説明することを許可したが,各学生がどのような資料を参照したのかについて個々には把握していない。
分析
今回対象としたスライドの内容を,原因帰属理論とはどういうものか,Weinerという人名,資料内の図に関する説明,達成欲求との関わりという4項目に分けた。
結果と考察
Table 1は先述した資料事前配布群と資料事後配布群による内容説明において,上記4項目のうち言及された項目数について平均および標準偏差を示したものである。t検定を行った結果,両条件の平均には有意な差が見られた(片側検定t(145)=3.66, p<.01)。
Figure 1は内容説明課題の際における情報に関する結果である。ノートや配布資料の情報を用いた説明として,スライドに基づくものとそれ以外の書き込みに基づくものという2カテゴリー,ノートや配布資料にない情報を用いた説明として自分の言葉での説明,不十分な説明,誤った説明という3カテゴリーを設けた。言及された情報のカテゴリーについて資料の配布時期による差の有無を見るためにχ2検定を行ったところ,個数の偏りは有意ではなかった(χ2(4)=3.22, n.s.)。
このように授業から約3ヶ月後においては直後とは異なり,説明の際に言及される項目数は資料事前配布群の方が多いことがわかった。資料事後配布群もノートと配布資料を合わせると手持ちの情報量には違いがなかったと思われ,それらの情報を用いる割合には差が見られなかったが,ノートと配布資料という別の紙面であることにより両者を統合するのが難しかった可能性も考えられた。
授業中のノートテイキングは多くの学習者によってとられる行動であり,符号化機能と外部貯蔵機能からその役割が説明されてきた(Di Vesta and Gray, 1972)。
魚崎(2016)は大学生の講義場面において配布資料のない状態で授業を受けると,ノートテイキング量が多くなるものの,そのうち多くはスライドを書き写したものであるということを示した。また,授業直後に講義内容の説明を求めたところ,配布資料の有無による情報量の違いは見られなかったが,配布資料がある場合には資料への非言語書き込みを言語化しながら説明するのに対し,配布資料がない場合にはスライド以外の情報でノートをとった情報を用いることがわかった。
本研究は,魚崎(2016)で対象とした授業の後,配布資料なし群にも資料を与え,手元にノートと資料とがある状態にした上で,約3ヶ月後に直後と同じ説明課題を与え,授業前に資料を配布された群と授業後に資料を配布された群との説明量や説明内容の違いを検討しようとしたものである。
方 法
対象者
関東地方の大学で「教育心理学」を受講する1年生138名および2年生9名を対象とした。同じ内容について扱う2つのクラスを用いて実験を行うこととし,資料事前配布群のクラスは67名,資料事後配布群のクラスは80名であった。
手続き
通常の講義のうち,後半(約30分)を用いて動機づけに関する話題を扱った。資料事前配布群はスライドをまとめた資料を授業前に配布し,多くの学生はそこに書き込みを行いながら授業を受けた。一方,配布事後配布群はスライドの情報を手元に持たずに授業を受けたため,必要に応じて自身でノートをとる者が多かった。なお,これらの学生にも授業終了後に事前配布群と同じ資料を配布した。
授業終了から約3ヶ月後に,授業内容のうちワイナーによる原因帰属理論に関する説明を求めた。なお,その際ノートや配布資料などを参照しながら説明することを許可したが,各学生がどのような資料を参照したのかについて個々には把握していない。
分析
今回対象としたスライドの内容を,原因帰属理論とはどういうものか,Weinerという人名,資料内の図に関する説明,達成欲求との関わりという4項目に分けた。
結果と考察
Table 1は先述した資料事前配布群と資料事後配布群による内容説明において,上記4項目のうち言及された項目数について平均および標準偏差を示したものである。t検定を行った結果,両条件の平均には有意な差が見られた(片側検定t(145)=3.66, p<.01)。
Figure 1は内容説明課題の際における情報に関する結果である。ノートや配布資料の情報を用いた説明として,スライドに基づくものとそれ以外の書き込みに基づくものという2カテゴリー,ノートや配布資料にない情報を用いた説明として自分の言葉での説明,不十分な説明,誤った説明という3カテゴリーを設けた。言及された情報のカテゴリーについて資料の配布時期による差の有無を見るためにχ2検定を行ったところ,個数の偏りは有意ではなかった(χ2(4)=3.22, n.s.)。
このように授業から約3ヶ月後においては直後とは異なり,説明の際に言及される項目数は資料事前配布群の方が多いことがわかった。資料事後配布群もノートと配布資料を合わせると手持ちの情報量には違いがなかったと思われ,それらの情報を用いる割合には差が見られなかったが,ノートと配布資料という別の紙面であることにより両者を統合するのが難しかった可能性も考えられた。