[PC38] 協調問題解決授業において比較に値する多様な考えを引き出す課題のデザイン
Keywords:協調問題解決, 算数授業, 多様な考え
問題と目的
協調的問題解決授業の手法である知識構成型ジグソー法は,多様な考えを比較することで理解を深めることをねらいとする。しかし教材の設定や子どもたちの実際の問題解決によっては多様な考えが生まれにくく,ねらいとする効果が生じないことがある。また,多様な考えが生まれても,それを比較し理解を深めることが実際には起こらないこともある。本研究は,算数の同一単元について知識構成型ジグソー法を用いた3つの授業を,少しずつ改善を加えながら実践し分析した,益川ら(2014),益川ら(2015),河崎ら(2015)をもとに,主に課題に焦点をあて授業デザインを改良し,実践した成果を検討する。授業中の解決過程および転移テストの結果に基づき,(1) 多様な考えが生まれたか,(2) 多様な考えを比較することで理解を深めたかを検証し,より効果的な授業デザインを検討する。
方 法
対象
小学校6年生1クラス(38名)を対象に担任を務める男性教員が実施した。
手続き
単元「割合を使って」(啓林館6年下)の仕事算を題材とし,知識構成型ジグソー法を用いた45分の算数授業を計画,実践した。ジグソー課題は,「今日は体育館のモップがけをすることになりました。6年生のリョウスケさんが一人ですると12分かかりそうです。3年生のサヤカさんが一人ですると20分かかりそうです。1年生のヒサシさんが一人ですると30分かかりそうです。3人ですると何分で終わりそうですか。ホワイトボードを使って,どのようにして考えたらよいか説明できるようにしよう」であった。エキスパート資料は3つあり,それぞれ音楽室のぞうきんがけに関して,①6年生一人で6分かかるときの1分の仕事量および2分後の残りの仕事量,②6年生一人で6分,3年生一人で10分,1年生一人で15分かかるとき,三人ですると何分で終わるか(音楽室の広さを30㎡として),③1年生一人でそれぞれ15分かかるとき,1年生一人でするときの仕事量と,二人ですると何分で終わるかを求めるものであった。
以上の課題は,過去3実践(以下,13年A,13年B,14年)の結果を踏まえて,多様な考えが生まれるよう改良したものであった。これに対して,過去3実践で用いたジグソー課題は「今日は縦割り活動で,第一音楽室のぞうきんがけをすることになりました。そこで,6年生のカズヒコさんと,3年生のケイコさんと,1年生のイクオさんがいっしょにぞうきんがけをします。3人ですると何分で終わるでしょうか?」で,エキスパート資料は,各学年の1分間の仕事量を計算する内容だった(6年1/6,3年1/10,1年1/15)。その結果,多様な考えが生まれない(14年),多様な考えが生まれた学級においてもそれを比較することで理解を深めることが起こり難い(13年A・B)という課題がみられた。これはジグソー課題においてエキスパート資料で得た3つの数値(1/6,1/10,1/15)を用いることが容易に着想されるため,四則演算のいずれを用いることがもっともらしい解に至るかという議論に陥るか,正しく和を求めたとしてもその意味が「通分する」という操作の正当性によって覆い隠されてしまうことによると考えられた。そこで本実践においては,ジグソー課題に必要な情報をパラレルに分割するのではなく,①時間経過に伴う仕事量の変化,②具体的数値を用いた仕事量の算出,③人数の増加に伴う仕事量の変化という,考え方の構成要素を取り出し,エキスパート資料とした。
授業の約7週後に転移課題(家から駅まで歩くと20分,走ると8分のとき,小問1:1分間で進む距離,小問2:15分歩き残りを走るときの走る時間を求める)を実施した。転移課題を欠席した2名を分析から除外した。
結果と考察
授業で12班中10班が正答に至ったが,全体を1とする分数を用いたのは4班のみであった。他には10/60を求めた後,60÷10と立式した班が4班と多かった。転移課題小問2の正答者について,用いた方略に基づき分類し集計した(図1)。
15年度の正答率は13年度の2実践と同等で50%を上回ったが方略をみると,家から駅まで4km等として解く「具体整数」が多く,全体を1とする分数で解決したものは必ずしも多くない。また小問1をmやkmで答え,具体的な数値を使って解くことがあくまで仮定であることを自覚していないと考えられる児童が多かった。また,小問1において全体を1とした分数で正答した児童でも,それを小問2の解決に用いず,20分と8分の比から,歩くと5分の距離を走ると何分か求めているケースがあった。以上より,本実践は比較に値する多様な考えを引き出す点は満たしたが,関連づけに焦点を当てデザインを改善することが今後の課題として残された。
協調的問題解決授業の手法である知識構成型ジグソー法は,多様な考えを比較することで理解を深めることをねらいとする。しかし教材の設定や子どもたちの実際の問題解決によっては多様な考えが生まれにくく,ねらいとする効果が生じないことがある。また,多様な考えが生まれても,それを比較し理解を深めることが実際には起こらないこともある。本研究は,算数の同一単元について知識構成型ジグソー法を用いた3つの授業を,少しずつ改善を加えながら実践し分析した,益川ら(2014),益川ら(2015),河崎ら(2015)をもとに,主に課題に焦点をあて授業デザインを改良し,実践した成果を検討する。授業中の解決過程および転移テストの結果に基づき,(1) 多様な考えが生まれたか,(2) 多様な考えを比較することで理解を深めたかを検証し,より効果的な授業デザインを検討する。
方 法
対象
小学校6年生1クラス(38名)を対象に担任を務める男性教員が実施した。
手続き
単元「割合を使って」(啓林館6年下)の仕事算を題材とし,知識構成型ジグソー法を用いた45分の算数授業を計画,実践した。ジグソー課題は,「今日は体育館のモップがけをすることになりました。6年生のリョウスケさんが一人ですると12分かかりそうです。3年生のサヤカさんが一人ですると20分かかりそうです。1年生のヒサシさんが一人ですると30分かかりそうです。3人ですると何分で終わりそうですか。ホワイトボードを使って,どのようにして考えたらよいか説明できるようにしよう」であった。エキスパート資料は3つあり,それぞれ音楽室のぞうきんがけに関して,①6年生一人で6分かかるときの1分の仕事量および2分後の残りの仕事量,②6年生一人で6分,3年生一人で10分,1年生一人で15分かかるとき,三人ですると何分で終わるか(音楽室の広さを30㎡として),③1年生一人でそれぞれ15分かかるとき,1年生一人でするときの仕事量と,二人ですると何分で終わるかを求めるものであった。
以上の課題は,過去3実践(以下,13年A,13年B,14年)の結果を踏まえて,多様な考えが生まれるよう改良したものであった。これに対して,過去3実践で用いたジグソー課題は「今日は縦割り活動で,第一音楽室のぞうきんがけをすることになりました。そこで,6年生のカズヒコさんと,3年生のケイコさんと,1年生のイクオさんがいっしょにぞうきんがけをします。3人ですると何分で終わるでしょうか?」で,エキスパート資料は,各学年の1分間の仕事量を計算する内容だった(6年1/6,3年1/10,1年1/15)。その結果,多様な考えが生まれない(14年),多様な考えが生まれた学級においてもそれを比較することで理解を深めることが起こり難い(13年A・B)という課題がみられた。これはジグソー課題においてエキスパート資料で得た3つの数値(1/6,1/10,1/15)を用いることが容易に着想されるため,四則演算のいずれを用いることがもっともらしい解に至るかという議論に陥るか,正しく和を求めたとしてもその意味が「通分する」という操作の正当性によって覆い隠されてしまうことによると考えられた。そこで本実践においては,ジグソー課題に必要な情報をパラレルに分割するのではなく,①時間経過に伴う仕事量の変化,②具体的数値を用いた仕事量の算出,③人数の増加に伴う仕事量の変化という,考え方の構成要素を取り出し,エキスパート資料とした。
授業の約7週後に転移課題(家から駅まで歩くと20分,走ると8分のとき,小問1:1分間で進む距離,小問2:15分歩き残りを走るときの走る時間を求める)を実施した。転移課題を欠席した2名を分析から除外した。
結果と考察
授業で12班中10班が正答に至ったが,全体を1とする分数を用いたのは4班のみであった。他には10/60を求めた後,60÷10と立式した班が4班と多かった。転移課題小問2の正答者について,用いた方略に基づき分類し集計した(図1)。
15年度の正答率は13年度の2実践と同等で50%を上回ったが方略をみると,家から駅まで4km等として解く「具体整数」が多く,全体を1とする分数で解決したものは必ずしも多くない。また小問1をmやkmで答え,具体的な数値を使って解くことがあくまで仮定であることを自覚していないと考えられる児童が多かった。また,小問1において全体を1とした分数で正答した児童でも,それを小問2の解決に用いず,20分と8分の比から,歩くと5分の距離を走ると何分か求めているケースがあった。以上より,本実践は比較に値する多様な考えを引き出す点は満たしたが,関連づけに焦点を当てデザインを改善することが今後の課題として残された。