[PC81] 類似情報の分類方略
筆跡分類課題の注視点解析からの考察
キーワード:筆跡分類, 先行知識, 注視点解析
目 的
筆跡からその書き手を推定することは,日常生活でよく経験する。一方,筆跡鑑定を業務として行う専門家も存在する。筆跡鑑定の専門家は一般人とは異なる特別な手法を用いているのだろうか。本報告では,筆跡とそれ以外の類似画像を用いて被験者に類似画像を分類する課題を行わせ,課題実行中の注視点計測の結果をもとに,類似画像分類方略と先行知識の関係を考察した。
方 法
文書鑑定の経験が3年から5年程度の被験者8名に,複数の類似画像から共通の特徴を持つ画像ごとにグループ分けする課題を行わせ,課題試行中の視線の動きをアイトラッキング装置により計測した。
呈示刺激は二部構成となっており,前半は,類似した花や動物を識別する課題,後半は,筆跡を同じ筆者ごとに分類する課題であった。筆跡の分類では,ディスプレーに6個の筆跡(同一字種の一文字)が呈示され,6個の筆跡を同じ人が書いたと思われるものどうしにグループ分けをさせた。被験者には,あらかじめ,6個の筆跡は2人ないし4人の筆者が書いた筆跡であること,6個の筆跡を同じ筆者が書いたと思われるほど似ている筆跡どうしに分類してほしいこと=したがって,グループの数は2ないし4になる),わからないものは,わからないと回答してよいことを教示した。
実験では,花や動物を分類する課題を3試行,筆跡の分類は20試行(使用した文字種は10個。したがって,1文字種につき2試行を行った)で行った。花や動物を分類する課題のうち1種類は,3種類の花の写真を呈示して相違する箇所を指摘させた後,その3種類を区別するための特徴を描いた図を見せ,その図を手掛かりに3種類の花を区別する課題(区別には,最初とは異なる写真を使用した)を行った。
被験者には,本試行の前に練習用の試行(3種類の画像の区別1試行と,本試行とは異なる6個の筆跡の分類1試行)を行った。
視線の計測には,計測装置にEyetech TM3(Eyetech Digital System製),解析ソフトウェアにQG Plus(DITECT製)を使用した。
いずれの試行においても,被験者に分類結果(類似画像の相違点,同じ筆者が書いた筆跡に分類した結果)とその根拠を回答させた。
結 果
観察時間:筆跡分類課題では1試行あたりの平均観察時間は64.8秒,類似画像分類課題では,情報提供ありの課題では平均32.5秒,同じ課題で情報提供なしの場合は,43.5秒であった。その他の類似画像の分類は,課題の難易度により観察時間が大きく異なった(34.3秒~98.6秒)。
注視箇所:筆跡分類課題では,同一文字種であっても比較対照する筆跡によって注視箇所が異なっていた。判断根拠の回答をもとに注視箇所を比較したところ,文字の大きさや色材の濃さなど,文字全体に関する情報は,文字の部分特徴(転折の状態,点画の大きさや位置関係など)と比較すると注視度が低かったが,分類方針決定に利用されていた。一方,類似画像分類課題では,注視箇所が分類の根拠となっていた。分類情報提供の有無を比較した画像では,情報提供ありの画像では,情報提供された箇所が注視されていた。
考 察
類似画像分類の結果より,先行知識の有無と内容が,類似情報の分類結果と関連があることがわかった。筆跡分類においては,文字全体の特徴が分類方針決定に重要であることが示唆された。今後は,一般人に同様の実験を行い,文字全体の情報を利用することが,専門家の持つ先行知識であるかどうかを明らかにしたい。
筆跡からその書き手を推定することは,日常生活でよく経験する。一方,筆跡鑑定を業務として行う専門家も存在する。筆跡鑑定の専門家は一般人とは異なる特別な手法を用いているのだろうか。本報告では,筆跡とそれ以外の類似画像を用いて被験者に類似画像を分類する課題を行わせ,課題実行中の注視点計測の結果をもとに,類似画像分類方略と先行知識の関係を考察した。
方 法
文書鑑定の経験が3年から5年程度の被験者8名に,複数の類似画像から共通の特徴を持つ画像ごとにグループ分けする課題を行わせ,課題試行中の視線の動きをアイトラッキング装置により計測した。
呈示刺激は二部構成となっており,前半は,類似した花や動物を識別する課題,後半は,筆跡を同じ筆者ごとに分類する課題であった。筆跡の分類では,ディスプレーに6個の筆跡(同一字種の一文字)が呈示され,6個の筆跡を同じ人が書いたと思われるものどうしにグループ分けをさせた。被験者には,あらかじめ,6個の筆跡は2人ないし4人の筆者が書いた筆跡であること,6個の筆跡を同じ筆者が書いたと思われるほど似ている筆跡どうしに分類してほしいこと=したがって,グループの数は2ないし4になる),わからないものは,わからないと回答してよいことを教示した。
実験では,花や動物を分類する課題を3試行,筆跡の分類は20試行(使用した文字種は10個。したがって,1文字種につき2試行を行った)で行った。花や動物を分類する課題のうち1種類は,3種類の花の写真を呈示して相違する箇所を指摘させた後,その3種類を区別するための特徴を描いた図を見せ,その図を手掛かりに3種類の花を区別する課題(区別には,最初とは異なる写真を使用した)を行った。
被験者には,本試行の前に練習用の試行(3種類の画像の区別1試行と,本試行とは異なる6個の筆跡の分類1試行)を行った。
視線の計測には,計測装置にEyetech TM3(Eyetech Digital System製),解析ソフトウェアにQG Plus(DITECT製)を使用した。
いずれの試行においても,被験者に分類結果(類似画像の相違点,同じ筆者が書いた筆跡に分類した結果)とその根拠を回答させた。
結 果
観察時間:筆跡分類課題では1試行あたりの平均観察時間は64.8秒,類似画像分類課題では,情報提供ありの課題では平均32.5秒,同じ課題で情報提供なしの場合は,43.5秒であった。その他の類似画像の分類は,課題の難易度により観察時間が大きく異なった(34.3秒~98.6秒)。
注視箇所:筆跡分類課題では,同一文字種であっても比較対照する筆跡によって注視箇所が異なっていた。判断根拠の回答をもとに注視箇所を比較したところ,文字の大きさや色材の濃さなど,文字全体に関する情報は,文字の部分特徴(転折の状態,点画の大きさや位置関係など)と比較すると注視度が低かったが,分類方針決定に利用されていた。一方,類似画像分類課題では,注視箇所が分類の根拠となっていた。分類情報提供の有無を比較した画像では,情報提供ありの画像では,情報提供された箇所が注視されていた。
考 察
類似画像分類の結果より,先行知識の有無と内容が,類似情報の分類結果と関連があることがわかった。筆跡分類においては,文字全体の特徴が分類方針決定に重要であることが示唆された。今後は,一般人に同様の実験を行い,文字全体の情報を利用することが,専門家の持つ先行知識であるかどうかを明らかにしたい。