日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(65-89)

ポスター発表 PD(65-89)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PD79] 学校危機遭遇体験と教師の危機対処効力感,危機後成長の関連(3)

学校危機遭遇体験・臨床心理士チームの支援の有無による比較

樋渡孝徳1, 窪田由紀2, 山下陽平3, 山田幸代4, 向笠章子5, 林幹男6 (1.北九州市スクールカウンセラー, 2.名古屋大学, 3.名古屋大学, 4.北九州市子ども総合センター, 5.聖マリア病院, 6.福岡大学)

キーワード:学校危機, 緊急支援, 危機後成長

問題と目的
 突然の事件・事故への遭遇等によって生じる学校危機への臨床心理士による支援は,徐々に体制が整備されてきたが,その効果については明らかにされていない。我々の教師調査では,学校危機時の臨床心理士チームの支援の活用が教師の1ヵ月後の回復を促進する可能性が示唆された(窪田ら,2012,樋渡ら2012,ほか)ものの,過去10年の間の危機遭遇時を回顧するものであり,妥当性に問題が残る。
 A県における緊急支援は教師支援が中心であり,教師自身が危機を対処できるように後方支援する。そうした支援を経験したことにより,危機への対処効力感や何らかの成長がもたらされていることを仮説としてA市において調査を行った。本報告では学校危機遭遇体験や臨床心理士チームの支援の有無によって危機対処効力感,危機後成長に違いがあるかを検討する。
方   法
調査方法 対象,実施方法,質問紙の構成は窪田ら(2016)の通り。実施に際しては名古屋大学教育発達科学研究科倫理委員会の承認を得た。
調査協力者 2961名のうち回答に不備がなく同意欄にチェックがある2887票を分析対象とした
質問項目 質問項目については山下ら(2016)の通り。
結果と考察
(1) 危機対処効力感の比較について
 危機・支援ともに経験している群と危機のみ
を経験している群と,危機の経験がない群の3群で危機対処効力感に違いがあるかについて比較を行った(表1)。結果,相談協力をのぞき,有意な差が見られた。多重比較を行った結果,危機を経験した2群と経験していない群との間に違いがみられた。
 危機を経験したことによって,危機への対処効力感が上がっていることが窺えた。危機時セルフコントロールをのぞき支援経験の有無によっては,対処効力感に違いは見られなかった。危機時セルフコントロールについては支援を経験していない群の方が高いという結果であったが効果量はd=0.16であり,効果はほとんど見られなかった。
(2) 危機後成長,危機の対処間の比較
 危機を経験した2群のうち,支援経験の有無によって違いがあるかについて比較を行った(表2)。
 結果,自己への信頼において有意な差が見られた。ただし,効果量としてはd=0.13であり効果はほとんどなしという結果であった。
(3) まとめ
 臨床心理士チームの支援によって教師の危機対処効力感や危機後成長につながるという結果は見られなかった。だが,事案の重篤性によっても違いがみられることが予想されるため,今後検討する必要がある。
*本研究の実施に際して日本学術振興会科学研究費 基盤研究B(No.25285191)の助成を受けた。