[PE62] 対象としての居場所と学校適応
原子価による対象との関係の観点から
キーワード:内的・外的対象関係, 原子価, 居場所感
問題と目的
居場所とは,自分には価値があると感じられ(自己有用感),自分らしくいられる(本来感)ところとされている(石本,2006など)。このことは,居場所が,安定した対象(人,集団,時空間など)との関係に依存していることを表している。
Hafsi(2004)は,内的・外的対象関係を築くための個人的手段として「原子価」(valency)を提示した。原子価は4類型(依存:DV,闘争:FV,つがい:PV,逃避:FlV)と2水準(プラス:+V,マイナス:-V)から構成されるが,特に原子価の水準は,安定した対象関係の構築・維持に関連する。-V(低水準)は+V(高水準)より安定した居場所感や学校適応を維持することが困難になると考えられる。
方 法
関西の公立中学1年生116(男子65,女子51)名を対象に,2014年12月に調査を実施した。調査内容は,次の通りである。1)原子価査定テスト簡易版(15項目)(Hafsi,2010)。各原子価類型と協同指標得点から原子価水準を評定する。2)学校居場所感尺度(24項目)(山下・黒崎,2016)。3)学校適応に関する質問2項目。合計点を学校適応得点とする。4)学習態度に関する質問7項目(重要性,楽しさ,理解,塾,習い事,支援ニーズ他)。
結 果
1.学校居場所感尺度の尺度構成
因子分析(主因子法, バリマックス回転)の結果,4因子構造(有用性, 親密性, 成長可能性, 葛藤回避性)(α=.866~.596)となった。
2. 学校居場所感と学校適応・学習態度との関連
学校居場所感の全4因子得点と学校適応得点との間に正の相関が認められた(r=.573~.232, p<.05~.01)。学習態度のうち「楽しさ」「理解」「支援ニーズ」において学校適応得点に差がみられ,「楽しい」「理解できる」「ニーズあり」の方が高得点であった。
3. 原子価と学校居場所感との関連
学校居場所感のうち「有用性」「親密性」とPV,「成長可能性」とDV, PVとの間に正の(r=.375~.234, p<.05~.01),「有用性」「成長可能性」とFlVとの間に負の(r=-.328/-.369, p<.01)相関が認められた。また,「親密性」とPVとの間に正の相関がみられた。 原子価水準間において「有用性」に差がみられ,+V群の方が-V群より高得点であった(t(113)=1.717, p<.05)。
4. 原子価と学校適応との関連
学校適応と,DV, PVおよび協同指標との間に正の(r=.268~207, p<.05~.01),FlVとの間に負の(r=-.281, p<.01)相関が認められた。原子価水準間において学校適応に差がみられ,+V群の方が-V群より高かった(t(111.307)=2.186, p<.05)。
5. 原子価と学習態度との関連
原子価水準間において「重要性」「習い事」「支援ニーズ」度数に差がみられ,「重要性」(χ2(1)=2.982, p<.10)と「支援ニーズ」(χ2(1)=2.721, p<.10)は+V,「習い事」(χ2(1)=6.053, p<.05)は-Vの方が多かった。
考 察
学校居場所感と学校適応や学習態度との関連が先行研究(西中・石本,2014他)と同様に認められた。原子価との関連では,-Vの人は,自己有用感や学校適応感が低く,学習の重要性や学習支援ニーズを持ちにくいことがわかった。
一方,DVとPVが高い有用感と関連するのに対しFlVは低い有用感と関連しており,FVとFlVに関連する学校居場所感因子は見出されなかった。原子価は各類型に応じ安定した対象関係を築くことが可能であることから,それに集団要因(例えば基底的想定,Bion; 1961)が影響を及ぼしている可能性も考えられる。それらについて今後検討する必要がある。
居場所とは,自分には価値があると感じられ(自己有用感),自分らしくいられる(本来感)ところとされている(石本,2006など)。このことは,居場所が,安定した対象(人,集団,時空間など)との関係に依存していることを表している。
Hafsi(2004)は,内的・外的対象関係を築くための個人的手段として「原子価」(valency)を提示した。原子価は4類型(依存:DV,闘争:FV,つがい:PV,逃避:FlV)と2水準(プラス:+V,マイナス:-V)から構成されるが,特に原子価の水準は,安定した対象関係の構築・維持に関連する。-V(低水準)は+V(高水準)より安定した居場所感や学校適応を維持することが困難になると考えられる。
方 法
関西の公立中学1年生116(男子65,女子51)名を対象に,2014年12月に調査を実施した。調査内容は,次の通りである。1)原子価査定テスト簡易版(15項目)(Hafsi,2010)。各原子価類型と協同指標得点から原子価水準を評定する。2)学校居場所感尺度(24項目)(山下・黒崎,2016)。3)学校適応に関する質問2項目。合計点を学校適応得点とする。4)学習態度に関する質問7項目(重要性,楽しさ,理解,塾,習い事,支援ニーズ他)。
結 果
1.学校居場所感尺度の尺度構成
因子分析(主因子法, バリマックス回転)の結果,4因子構造(有用性, 親密性, 成長可能性, 葛藤回避性)(α=.866~.596)となった。
2. 学校居場所感と学校適応・学習態度との関連
学校居場所感の全4因子得点と学校適応得点との間に正の相関が認められた(r=.573~.232, p<.05~.01)。学習態度のうち「楽しさ」「理解」「支援ニーズ」において学校適応得点に差がみられ,「楽しい」「理解できる」「ニーズあり」の方が高得点であった。
3. 原子価と学校居場所感との関連
学校居場所感のうち「有用性」「親密性」とPV,「成長可能性」とDV, PVとの間に正の(r=.375~.234, p<.05~.01),「有用性」「成長可能性」とFlVとの間に負の(r=-.328/-.369, p<.01)相関が認められた。また,「親密性」とPVとの間に正の相関がみられた。 原子価水準間において「有用性」に差がみられ,+V群の方が-V群より高得点であった(t(113)=1.717, p<.05)。
4. 原子価と学校適応との関連
学校適応と,DV, PVおよび協同指標との間に正の(r=.268~207, p<.05~.01),FlVとの間に負の(r=-.281, p<.01)相関が認められた。原子価水準間において学校適応に差がみられ,+V群の方が-V群より高かった(t(111.307)=2.186, p<.05)。
5. 原子価と学習態度との関連
原子価水準間において「重要性」「習い事」「支援ニーズ」度数に差がみられ,「重要性」(χ2(1)=2.982, p<.10)と「支援ニーズ」(χ2(1)=2.721, p<.10)は+V,「習い事」(χ2(1)=6.053, p<.05)は-Vの方が多かった。
考 察
学校居場所感と学校適応や学習態度との関連が先行研究(西中・石本,2014他)と同様に認められた。原子価との関連では,-Vの人は,自己有用感や学校適応感が低く,学習の重要性や学習支援ニーズを持ちにくいことがわかった。
一方,DVとPVが高い有用感と関連するのに対しFlVは低い有用感と関連しており,FVとFlVに関連する学校居場所感因子は見出されなかった。原子価は各類型に応じ安定した対象関係を築くことが可能であることから,それに集団要因(例えば基底的想定,Bion; 1961)が影響を及ぼしている可能性も考えられる。それらについて今後検討する必要がある。