[PE87] 無料学習支援教室と公立中学校の子どもの未来展望と学校不適応感の比較
Keywords:貧困, 未来展望, 学校不適応感
グローバリゼーションの進展に伴い,近年,特に社会底辺層の貧困家庭の子ども達の間に広がる希望喪失の問題が注目されている(内閣府,2014;電通総研,2015)。それに,こうした希望喪失が,不登校や引きこもりなど,教育現場における彼らの不適応的行動を促すとの指摘がある(山田,2007)。そこで,本研究は,生活保護費の受給家庭の子ども達と公立中学校の子どもを調査対象に,貧困家庭の子ども達の未来展望と学校不適応感の実態を把握する。
方 法
茨城県T市の公立中学校2校の389名生徒と埼玉県S市にあるNPO法人に開催された10か所の無料学習支援教室の34名生徒を対象に質問紙調査を行った。使用した尺度は:①「児童・生徒未来展望尺度」(陳・茂呂,2016);②「小学生用学校不適応感尺度」(戸ケ崎・秋山・嶋田・坂野,1997)であった。
結 果
未来展望の3つの下位次元の得点において,学習支援教室と公立中学校との間に差があるかを確認するために,t検定を行った。その結果,「心配」においては,両グループの間に有意差が見られなかったが,「自信」(t(369)=2.83, p<.01)と「未来社会への信頼」(t(371)=2.02, p<.05)においては,それぞれ1%と5%水準で有意差が示された。すなわち,今回調査した公立中学校の子どもに比べると,学習支援教室の子ども達のほうが,より未来をポジティブに展望していることが明らかになった。
また,学校不適応感の3つの下位次元の得点についても,両グループの比較のためによるt検定を行った。その結果,「友だちとの関係」において,公立学校のほうがより高い不適応感が示され(t(368)=-2.22, p<.05),また学業場面において,学習支援教室のほうがより高い不適応感が示された(t(369)=2.57, p<.05)。
考 察
これまで,貧困家庭の子どもがより未来をネガティブに展望しているとの指摘が多く見られるが(山田,2007;青砥,2009),本研究ではこれらの指摘に反した結果が得られた。この結果について,まず1か所の調査地という限定的なサンプルが原因であると考えられる。また,今後両グループの子ども達を調査対象に,彼らの展望内容及びそれに対する意味づけを調べ,量的指標で示されたこの結果について,質的に検討する必要があると考えられる。
また,従来子ども達の未来展望と学業的パフォーマンスとの正の関連性が示されてきた(Adelabu, 2008)。しかし,本研究において,学習支援教室の子ども達が公立中学校の子ども達に比べると,よりポジティブに未来を展望しているが,学業場面でより高い不適応感を感じることが示された。Calster, Lens, & Nuttin(1987)によると,学業的パフォーマンスに対する未来展望の影響が「勉強への道具性の認知」に媒介されている。そのため,本研究の結果をより理解するために,今後「勉強への道具性の認知」を未来展望と学業的パフォーマンスとの関連における媒介変数として調べる必要性がある。
引用文献
Adelabu, D. H. (2008). Future time perspective, hope and ethnic identity among African American adolescents. Urban Education, 43, 347-360.
Calster, K. V., Lens, W., & Nuttin, J. R. (1987). Affective attitude toward the personal future: Impact on motivation in high school boys. The American Journal of Psychology, 100 (1), 1-13.
青砥 恭(2007). ドキュメント高校中退-いま,貧困がうまれる場所 ちくま新書.
陳 晶晶・茂呂雄二(2016). 児童・生徒の未来展望尺度の開発及び未来展望と学校適応感との関連 発達心理学研究(in press).
電通総研(2015).若者まるわかり調査2015.電通報.〈http://dentsu-ho.com/articles/2443> (2015年7月3日22時34分).
戸ヶ崎泰子・秋山香澄・嶋田洋徳・坂野雄二 (1997).小学生用学校不適応感尺度開発の試み.ヒューマンサイエンス,6,207-220.
山田昌弘 (2007).希望格差社会:「負け組」の絶望感が日本を引き裂く.東京:ちくま文庫.
方 法
茨城県T市の公立中学校2校の389名生徒と埼玉県S市にあるNPO法人に開催された10か所の無料学習支援教室の34名生徒を対象に質問紙調査を行った。使用した尺度は:①「児童・生徒未来展望尺度」(陳・茂呂,2016);②「小学生用学校不適応感尺度」(戸ケ崎・秋山・嶋田・坂野,1997)であった。
結 果
未来展望の3つの下位次元の得点において,学習支援教室と公立中学校との間に差があるかを確認するために,t検定を行った。その結果,「心配」においては,両グループの間に有意差が見られなかったが,「自信」(t(369)=2.83, p<.01)と「未来社会への信頼」(t(371)=2.02, p<.05)においては,それぞれ1%と5%水準で有意差が示された。すなわち,今回調査した公立中学校の子どもに比べると,学習支援教室の子ども達のほうが,より未来をポジティブに展望していることが明らかになった。
また,学校不適応感の3つの下位次元の得点についても,両グループの比較のためによるt検定を行った。その結果,「友だちとの関係」において,公立学校のほうがより高い不適応感が示され(t(368)=-2.22, p<.05),また学業場面において,学習支援教室のほうがより高い不適応感が示された(t(369)=2.57, p<.05)。
考 察
これまで,貧困家庭の子どもがより未来をネガティブに展望しているとの指摘が多く見られるが(山田,2007;青砥,2009),本研究ではこれらの指摘に反した結果が得られた。この結果について,まず1か所の調査地という限定的なサンプルが原因であると考えられる。また,今後両グループの子ども達を調査対象に,彼らの展望内容及びそれに対する意味づけを調べ,量的指標で示されたこの結果について,質的に検討する必要があると考えられる。
また,従来子ども達の未来展望と学業的パフォーマンスとの正の関連性が示されてきた(Adelabu, 2008)。しかし,本研究において,学習支援教室の子ども達が公立中学校の子ども達に比べると,よりポジティブに未来を展望しているが,学業場面でより高い不適応感を感じることが示された。Calster, Lens, & Nuttin(1987)によると,学業的パフォーマンスに対する未来展望の影響が「勉強への道具性の認知」に媒介されている。そのため,本研究の結果をより理解するために,今後「勉強への道具性の認知」を未来展望と学業的パフォーマンスとの関連における媒介変数として調べる必要性がある。
引用文献
Adelabu, D. H. (2008). Future time perspective, hope and ethnic identity among African American adolescents. Urban Education, 43, 347-360.
Calster, K. V., Lens, W., & Nuttin, J. R. (1987). Affective attitude toward the personal future: Impact on motivation in high school boys. The American Journal of Psychology, 100 (1), 1-13.
青砥 恭(2007). ドキュメント高校中退-いま,貧困がうまれる場所 ちくま新書.
陳 晶晶・茂呂雄二(2016). 児童・生徒の未来展望尺度の開発及び未来展望と学校適応感との関連 発達心理学研究(in press).
電通総研(2015).若者まるわかり調査2015.電通報.〈http://dentsu-ho.com/articles/2443> (2015年7月3日22時34分).
戸ヶ崎泰子・秋山香澄・嶋田洋徳・坂野雄二 (1997).小学生用学校不適応感尺度開発の試み.ヒューマンサイエンス,6,207-220.
山田昌弘 (2007).希望格差社会:「負け組」の絶望感が日本を引き裂く.東京:ちくま文庫.