日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 展示場 (1階展示場)

[PF03] 日中二言語で保育をしている幼稚園における子どもの言語使用

5歳児の言語切替に関する観察事例

黄 琬茜1, 榊原知美2, 山名裕子3, 和田美香4 (1.同志社大学大学院, 2.東京学芸大学, 3.秋田大学, 4.東京家政学院大学)

キーワード:言語切替, 幼児, 文化間移動

目   的
 本研究の目的は,文化間移動する子どもが母語以外の言語を獲得していく過程において,周りの人々とどのようにコミュニケーションを取るのかについて,ことばの使用に焦点をあてて実態を明らかにすることである。本研究では特に,多文化状況の保育における,子ども同士の言語のコードスウィッチング(以下,CS)が,どのような場面や状況で生じるのかを検討する。
方   法
対象 外国人学校附属の幼稚部5歳児1クラス(在籍人数34名。うち,中華系両親:9名,国際結婚家庭の両親:7名)。担当保育者は2名で,1名は日本語が母語であるが,中国語で教育を受けた,日中バイリンガルの日本人保育者であり,もう1名は中国語が母語の台湾人保育者であった。保育言語は,日本語と中国語の二か国語で,主に中国語が用いられていた。本研究では,このクラスに在籍している中華系幼児7名と国際結婚家庭幼児1名の計8名を観察の対象とした(表1)。
手続き 8名の幼児について,保育活動に他の幼児や保育者と相互交渉を行う場面,コードスイッチング(CS)を使う場面,状況,話題などを分析した。9:30~13:30までの保育活動をICレコーダーに録音した。同時に,それぞれの幼児のCSの行動とその時間をメモで記録した。録音データを文字化した時,メモを確認しながら,逐語記録をした。観察期間は,2015年10月下旬から2016年2月下旬まで,計7回の観察を行った。観察時間は1回約4時間であった。
結果と考察
3.1 積極的CS
 具体的な場面や状況における言語CSを示す。日本語が優位な男児,小明(仮名)は,観察初日に,BOX-3.1のように話しかけてきた。この幼稚部の子どもは,初めての人(観察者)と話すとき,相手の出身や言語を確認し,その相手にあった言語CSを行っていた。小明の両親はどちらも中国人で,家で中国語でコミュニケーションを取る場合が多かったが,クラスで中国語だけではなく,生活会話の日本語も流暢に話せる。BOX-3.1のような,文中コードスイッチング(文中CS)が起きる状況について,小明の,相手の得意言語による文中CS発話の場面がよく見られた。
 一方,小明は,日本語が優位である男児,直(仮名)と話すとき,最初は2人とも日本語を使用するが,途中,わからない日本語があれば,急に中国語の単語に入れ替え,その後また日本語が続くという言語の文間コードスイッチング(文間CS)が多く見られた(BOX-3.2)。
3.2 消極的CS
 観察期間に,中国語しか話せない女児,小珠(仮名)が転入してきた。小珠は,クラスの子どもから話しかけられた時,中国語で話していいと要求して,日本人の幼児は頑張って中国語を使って話しくれた,という場面がよく見られた(BOX-3.3)。