The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF40] 学習空間と空間情報が創造性に及ぼす影響

ラーニングコモンズは創造性を高めるか

市村賢士郎1, 河村悠太#2, 楠見孝3 (1.京都大学, 2.京都大学, 3.京都大学)

Keywords:創造性, ラーニングコモンズ, 学習空間

 薄暗い部屋では明るい部屋と比べて創造性が高くなる (Steidle & Werth, 2013),整頓された部屋では典型的な選択が増えるのに対し,散らかった部屋では新しく創造的な選択が増える (Vohs, Redden, & Rahinel, 2013) など,空間の違いが創造性に影響することが知られている。近年の教育現場では,問題解決型学習のように創造性をはたらかせるカリキュラムが増えており,こうした学習に適したラーニングコモンズ (LC) などの新しい学習空間も導入されている。本研究は,大学で実際に利用されているLCが創造性を高めるかについて検討する。また,Steidle & Werth (2013) では,暗い部屋にいる状況を考えるだけでも創造性が高くなっているため,学習空間についての情報提示のような簡便な操作でも創造性に影響する可能性があり,これについても合わせて検討する。
方   法
 実験参加者 学部生・大学院生48名 (男性29名,女性19名)が参加した。平均年齢は21.8歳 (SD = 2.3)であった。実験計画は学習空間2 (LC・自習スペース: 参加者内) と空間情報の提示2 (有・無: 参加者間)による混合2要因計画であった。
 実験課題 創造性課題としてAlternative Uses Task (AUT; Guilford, 1967) と日本語版Remote Associates Test (RAT; 寺井・三輪・浅見, 2013) の2つを用いた。AUTでは,画面に表示される物 (新聞紙またはレンガ) の新しい使い方を5分間でできるだけ多く回答することを求めた。RATでは,画面に表示される3つの漢字と組み合わせると二字熟語となる共通の漢字を答えることを求めた (例えば,「異・口・序」が表示された場合,「論」が正答)。1問の制限時間を45秒とし,全10問実施した。また,創造性を必要としない課題として2桁同士の加算課題を実施した。3分間でできるだけ多くの問題を解答するように求めた。AUTとRATで出題される問題のパターンは2種類用意した。加算課題で出題される問題はすべてコンピュータによってランダムに決定された。
 手続き 実験は,京都大学附属図書館内のLCと自習スペースで実施した。まず,いずれかの学習空間において,加算課題,AUT,RATの順で課題を実施した。その後,もう一方の学習空間に移動し,再び3つの課題を実施した。空間情報の提示有り群には,LCは創造的な活動に効果が期待できること,自習スペースは私語厳禁で集中しやすいことを事前に提示した。学習空間の順番およびAUTとRATの問題のパターンは参加者ごとにカウンターバランスをとった。
結   果
 条件別の課題成績の平均値とSDを表1に示す。各課題成績を従属変数とした2要因の分散分析を実施した。AUTの回答数,RATの正答数では各要因の主効果と交互作用は見られなかった (Fs < 2.60, ps > .11)。加算課題の正答数では,各要因の主効果が見られ,LCでの実施時の方が自習スペースでの実施時に比べて正答数が高く (F(1,46) = 19.03, p < .001),空間情報の提示無し群の方が有り群よりも正答数が高かった (F(1,46) = 5.10,p = .030)。
 参加者にLCの利用経験の有無を尋ねたところ,約半数の参加者 (25名) が無しと答えたため,この影響を考慮し,LCの利用経験の有無も要因に組み込んだ3要因の分散分析を実施した。AUTの回答数と加算課題の正答数では,LCの利用経験の影響は見られなかったが,RATの正答数では,学習空間との交互作用が見られた (F(1,44) = 4.53,p = .039)。単純主効果の検定の結果,LCでの成績は,利用経験有り群 (M =6.5, SD =1.3) の方が無し群 (M =5.4, SD = 1.5) よりも高かった (p =.016)。
考   察
 実験の結果,LCが創造性を高める強い影響は見られなかった。一方,LCの利用経験がある人はLCでのRATの成績が高いことから,LCでの活動に慣れることで創造性を発揮できる可能性がある。今後は,LCの利用頻度が高い人での追試によって,この可能性を検討する必要がある。また,加算課題の成績はLCで高いことから,集中して作業するような場合にもLCは適していると考えられる。空間情報の提示については,加算課題の成績の低下が見られた。ネガティブな影響ではあるが,空間情報の提示が課題成績に影響することを示しており,学習空間を提供する上で利用者に伝える情報についても考慮する重要性が示唆された。