日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH10] 自己決定理論に基づく調整スタイルと職業レディネスとの関連の検討

菅原宏明1, 塚本伸一2 (1.筑波大学大学院, 2.立教大学)

キーワード:自己決定理論, 調整スタイル, 職業レディネス

問題と目的
 近年の自己決定理論,とくにそのうちの有機的統合理論(Ryan & Deci, 2000)に関する研究では,主に学業関連の変数について検討してきた(Ryan & Connel, 1989; 速水, 1996)。しかし,大学生の時期は社会への移行期にあたり,自身の将来を模索し,キャリアの視点から学習を意味づける必要がある。よって,学習動機づけを検討するためには,キャリア関連変数との関係を検討することが重要と考えられる。
 また本研究では,動機づけ変数によるタイプ分けを行い,各タイプとキャリア変数との関連を検討する。
方   法
手続き 大学生305名(平均年齢19.50歳,SD=1.40,男性93名,女性212名)を対象に質問紙調査を行った。
質問紙 (1)西村・河村・櫻井(2011)などを参考に作成した学習動機づけ尺度(32項目,5件法)を使用した。下位尺度として,内的調整,同一化的調整,取り入れ的調整,外的調整が含まれた。(2)下村・堀(1994)を一部修正した職業レディネス尺度(15項目,5件法)を使用した。下位尺度として,明瞭性,関与,非選択性が含まれた。
結果と考察
尺度構成 学習動機づけ尺度と職業レディネス尺度の下位尺度ごとにα係数を算出したところ,非選択性を除き(α=.66).72~.93であった。非選択性については十分な信頼性が得られなかったため,分析から除外した。
重回帰分析 4つの動機づけ調整スタイルを独立変数,明瞭性と関与を従属変数とする多変量回帰分析を行った(Figure 1)。その結果,内的調整から関与(β=.25,P<.001),同一化的調整から明瞭性(β=.24,P<.001)と関与(β=.24,P<.001)に対して正の影響がみられた。このことから,内的調整は職業選択や就業意識が意欲的な「関与」に正の影響を与えるものの,希望する職業が明確かどうかという「明瞭性」には影響を与えないという可能性が示された。
動機づけタイプの作成 内的調整と同一化的調整の加算平均得点を自律的動機づけ得点,取り入れ的調整と外的調整の加算平均得点を統制的動機づけ得点とし,2つの得点の高低の組み合わせから,個人の動機づけタイプを4つ(高動機づけ群,自律的動機づけ群,統制的動機づけ群,低動機づけ群)に分類した。
分散分析 4つの動機づけタイプを独立変数,明瞭性,関与を従属変数とする一要因分散分析を行った(Table 1)。その結果,群間の差が関与において有意(F (3, 300)=18.00,p<.001),明瞭性において有意傾向であった(F (3, 301)=2.47,p<.10)。多重比較の結果,関与については,高動機づけ群と自律的動機づけ群が統制的動機づけ群と低動機づけ群よりも有意に得点が高かった。また,明瞭性については,自律的動機づけ群が低動機づけ群よりも得点が高い傾向にあった。これらの結果から,自律的な動機づけを高く持つ群は,統制的な動機づけの高低にかかわらず,自律的動機づけが低い群に比べて職業選択や就業意識が意欲的であることがほぼ明らかになった。