日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-64)

ポスター発表 PH(01-64)

2016年10月10日(月) 13:00 〜 15:00 展示場 (1階展示場)

[PH64] 青年の社会的参照行動による情動の変化について

語りの共有によるネガティブ感情の軽減

松葉百合香1, 北村文昭#2, 桂川泰典3 (1.早稲田大学大学院, 2.青山学院大学, 3.早稲田大学)

キーワード:社会的参照, 情動, 青年

問題と目的
 社会的参照は社会的存在である私たちのあらゆる行動を理解する上で欠かせない概念である。社会的参照の定義は「意味の不確かな対象と遭遇した際に生じた不安定な情動状態を,他者が発する情報を活用しその対象の意味を知る(情報探索)ことによって建て直し(情動調整),さらにはその対象に対する自らの行動を決定・実行する(行動調整)」という一連のプロセスのことである(e.g., Campos & Sternberg, 1981; Sorcce et al, 1985)。社会的参照はさまざまな形で行われている可能性があり,これを間断なく繰り返すことによって人は「孤独でない」という基本的な安心感を得て,精神的安定性を保って生きているのではないだろうか。成人の日常的行動から社会的参照のみを抜き出して観察するのは極めて困難だが,青年を対象に語りの共有の有無によって社会的参照行動を統制する実験を定期的に反復することで,情動の変化にどのような影響を及ぼすのかについて詳細な検討を試みることを目的とした。
方   法
対象 首都圏の大学に通う女子大学生20名,平均年齢21.75歳(SD= 0.70)を対象に行った。
実験時期 2015年9月中旬頃開始した。
実験手続き 実験参加者20名を実験群と統制群に10名ずつランダムに振り分け,両群とも1試行に付き1日~1週間ほど間隔をあけて1人につき実験を全3試行行った。実験操作としては,実験群の実験参加者は回想した内容を実験者に5~10分間話すことによって共有した。統制群は回想内容を実験者と共有せず,回想内容を記述したレポート用紙を封筒の中に入れ,封をし「3回目の実験が終わるまで実験者があけて中を見ることはありません」と教示した。その後両群ともSTAI,心理的リラクセーション尺度(以下ERS),主観的幸福感尺度に回答し感情の状態や気持ちの変化について測定した。
結   果
 Table 1の4つの尺度の得点についてSPSSを用いてBonferroni法の分散分析を行ったところ,試行回数における主効果は特性不安尺度(F(2,36)=2.398, p<.10),ERS(F(2,36)=2.703,p<.10)において有意(または傾向)な差が見られ有意な交互作用はいずれにも見られなかった。主効果の見られた尺度について多重比較を行ったところ特性不安尺度では1試行と2試行の間に(F(2,17)=3.643, p<.10)有意傾向が見られ,ERSでは各試行回数間に差はなかった。
考   察
 本研究の結果から共有による効果が情動の変化に見られなかったため,実験者と回想内容の共有をするか否かという実験の操作に関係なく①実験室に複数回来室するということ,②回想をすること,③筆記をすること,が実験参加者の情動にポジティブな影響を与え,特性不安の軽減やリラックス感の増幅に貢献したと考えられる。得られた結果から最も重要なことは,本研究の実験手続きの内容(共有するか否か,何を共有するか)ではなく,その手続き自体の文脈(実験者に複数回会う事,誰かと一緒の空間で何かに取り組むこと)が結果として効果に現れたと捉えられることで,成人にとってどのような内容を共有するか,誰と共有するかという事実よりも参照行動を成立させる状況,その文脈自体が情動の安定性に貢献しているという事が示唆された。