日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-83)

ポスター発表 PD(01-83)

2017年10月8日(日) 10:00 〜 12:00 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 〜 12:00

[PD08] 日本の子どもは外で自由に遊べなくなってしまうのか

安全管理意識の確認的因子分析による検討

永井靖人 (愛知みずほ大学)

キーワード:子ども, 遊び, 安全管理

問題と目的
 子どもたちが地域で遊ぶ姿を見かけるだろうか。ジャーナリストの谷口輝世子(2011)によれば,アメリカでは,13歳以下の子どもを子どもだけの状態にすれば,保護者に警察や児童福祉局からネグレクトの嫌疑がかけられる。そして,安全至上主義は,子育てに閉塞感をもたらし,子どもの健全な発達を阻害している(Skenazy,2009)。日本でも,子どもの交通事故や犯罪被害が後を絶たず,セキュリティ希求が高まりつつある。これからの保護者は,子どもの遊ばせ方に不安を抱え,法律や公的機関の介入を求めるかもしれない。
 そこで,永井(2017)では,子どもにかかわる職業を志望する学生に,子どもの安全管理に対する態度を調査し,単純集計結果を報告した。さらに本稿では,その因子構造を検討する。
方   法
 質問紙 アメリカにおける子どもの過剰保護を報告した谷口(2011)を参考に,おもに幼児,小学生の安全管理に対する意識を問う質問を54項目作成した(無記名式,5件法)。
 調査時期 2016年11月。
 調査協力者 大学生,専門学校生255名。内訳は,幼稚園教諭と保育士取得希望者159名(男性17名,女性142名),中高教員免許取得希望者67名(男性27名,女性40名),保育士・教員免許取得希望なしは29名(男性13名,女性16名)。
結   果
 探索的因子分析 最尤法,プロマックス回転を用いた(Table 1)。その結果,4因子が抽出された。第1因子は,「いつも親と一緒では自分で判断できない」「いつも一緒では危機を乗り越えられない」「いつも親や大人と一緒では息苦しくなる」「見られていては思う存分に遊べない」「親も子どもといつも一緒では息苦しくなる」の5項目で構成され,「弊害認知」因子と命名した。第2因子は,「校庭への監視員配置で危険な遊びをさせない」「校庭には監視員を配置して侵入者に備える」「公園や広場には監視員を配置する」の3項目で,「警備」因子。第3因子は「子どもだけの状態にすることは養育義務放棄」「子どもだけの状態にする親を通報する」「子どもだけの状態にしないほうがよい」の3項目で,「親の責務」因子。第4因子は,「家庭では遊びよりも習い事の時間を多くする」「家や近
所よりも学校や児童館で遊ばせる」「自由遊び時間が減っても子どもに付き添う」 の3項目で,「管理下」因子と命名した。
 次に,4つの因子得点それぞれに,性別×取得希望資格(幼保・中高教員・なし)の2要因分散分析を実施したところ,主効果,交互作用のいずれも有意でなかった。
 確認的因子分析 探索的因子分析で採択された14項目について,4因子が相関する多因子モデルを想定し,確認的因子分析を実施した(Figure 1参照,観測変数,誤差は省略)。因子間の相関係数はすべて有意で,χ2=129.43(p<.01),GFI=.91,AGFI=.86,CFI=.89,RMSEA=.08で,許容可能な適合度が得られた。
考   察
 本分析から,教師や保育士を目指す者,これから親となる青年が子どもの安全管理に抱く態度は,「弊害認知」「警備」「親の責務」「(大人による)管理下」の4因子で構成され,「弊害認知」と他3因子の間に負の相関が確かめられた。よって,子どもの遊びに管理志向の強い者は,安全管理が発達にもたらす弊害を重視しない傾向が示された。とはいえ,その相関は弱く,どちらかを優先すべきか,それとも両立が可能なのか,まだジレンマ状態にあると考えられる。しかし,本研究の調査協力者に子どもはまだいない。実際に子どもを育てる過程で,態度が変容する可能性はある。今後,保育の拡充や放課後子ども総合プランの進展に伴い,子どもが自由に遊びまわる機会は減少するだろう。発達と安全がトレードオフにならない社会を実現するための意識形成が求められる。
文   献
谷口輝世子(2011).子どもがひとりで遊べない国、アメリカ:安全・安心パニック時代のアメリカ子育て事情 生活書院