日本教育心理学会第59回総会

講演情報

ポスター発表 PH(01-78)

ポスター発表 PH(01-78)

2017年10月9日(月) 13:00 〜 15:00 白鳥ホールB (4号館1階)

13:00 〜 15:00

[PH74] 小中学生における登校への動機づけ尺度の開発

(1)項目選定および信頼性・構成概念妥当性・併存的妥当性の検討

五十嵐哲也1, 茅野理恵2 (1.名古屋大学, 2.信州大学)

キーワード:登校への動機づけ, 不登校傾向

目   的
 子どもたちの登校行動は,登校を価値あるものだと捉えているかどうかに左右されると指摘されている(五十嵐, 2014)。しかし,これまでの登校理由研究では,特定の理論に依拠せずに測定尺度が作成されてきた経緯がある。そのため,複数の研究間の比較等が不可能であり,研究の発展性に乏しかった。そこで,本研究では,近年に様々な学校教育に関連する事象の動機づけ解明のために援用されている「自己決定理論」(Ryan & Deci, 2000)に則り,登校への動機づけの構造を明らかにし,それを測定するための尺度を開発することを目的とする。

予備調査
【方法】 対象:臨床心理士として小中学生と接した経験を有し,かつ大学教員として心理学的研究に従事した経験のある者3名(女性3名,平均年齢45.36歳,子どもと接した平均経験年数15.94年)。 調査内容:自己決定理論の概要の説明,登校理由に関する先行研究で示されている項目例,学校教育に関連する事象について自己決定理論を用いて開発された尺度項目例を提示し,登校への動機づけとして適切な項目を自由に記述してもらった。その後,得られた全項目を全対象者に提示し,適切さの判定をしてもらった。 調査時期と手続:1回目の調査を,2015年6月下旬~7月上旬に実施した。その後,適切さの判定については,2015年7月上旬~8月下旬に実施した。いずれも郵送法で実施した。
【結果】 2名以上の対象者が採択すべき項目としたものを採択し,2名以上の対象者が採択すべきではないとした項目を削除した。その結果,最終的に27項目が選定された。

本 調 査
【方法】 対象:小中学校各2校に通う小学生4~6年生333名,中学生1~3年生506名を対象に調査を実施した。 調査内容:フェイスシートで学年,年齢,性別を尋ねた後,予備調査で作成した登校への動機づけ尺度項目案27項目と,併存的妥当性の検討を目的として自己決定意識尺度(新井・佐藤, 2000)25項目を尋ねた。 調査時期と手続:2015年11月上旬~2016年1月下旬に,学級内で調査協力者である担任が無記名で一斉に実施し,その場で回答・回収された。
【結果】
(1)構造の確認
 類似尺度を作成した岡田(2005)に則り,以下の手順で構造を明らかにした。まず,自己決定理論に則って想定される「外的理由」「取入れ的理由」「同一化的理由」「内発的理由」の下位尺度ごとに主成分分析を行った。そして,各負荷量の高いものから3項目ずつを選出し,4因子による確証的因子分析を実施したところ,GFI=.933,AGFI=.895,CFI=.907,RMSEA=.086で,十分に適合度の高い結果が得られた。
(2)信頼性の検討
 以上の結果をもとにクロンバックのα係数を算出したところ,「外的理由」α=.80,「取入れ的理由」α=.66,「同一化的理由」α=.75,「内発的理由」α=.75であった。
(3)構成概念妥当性の検討
 各下位尺度間のピアソンの積率相関係数を算出したところ,概念的に隣り合う因子間には正の相関が認められ,隔たるにつれて相関が低くなるもしくは負の相関になるというパターンであり,構成概念妥当性が示された。
(4)併存的妥当性の検討
 登校への動機づけ各下位尺度と自己決定性各下位尺度とのピアソンの積率相関係数を算出したところ,登校への動機づけの自己決定性が高いほど,自己決定性各下位尺度と正の相関を示すというパターンであり,併存的妥当性が示された。

考   察
 以上により,登校への動機づけは自己決定理論に則って整理することが可能であり,十分な信頼性・妥当性を有する尺度が開発されたと言える。

*本研究は,科学研究費補助金(課題番号:15K04058)の助成を受けた。