日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA56] 児童養護施設退所者への支援について

自立生活への認識を題材として

齋藤謁 (恵泉女学園大学)

キーワード:児童養護施設, アフターケア, 自立生活

問題と目的
 児童養護施設(以下,施設と略記)の退所者の生活の困難さは,多く指摘されてきていることである。筆者は,心理臨床家として児童養護施設で暮らす子どもたちへの支援を続ける中で,退所後の生活が不安定になることを目の当たりにしてきた。そこで,できるだけ的確な支援の方法を模索するために研究を行って来ている。その方法の一つとして,一人で生活することへの認識を問うことを行った。その中では、施設の子どもたちの多くが心理的支援の必要性を高く感じていること,一人暮らし(自立する生活)へのスキルや認識、技法,危機管理など一般常識的なことがなかなか育たない一面があることが理解された。(2015年日本教育心理学会報告)また,一般的な生活を実際に経験したり,見聞きする機会が作りにくいことなども影響していると考えられた。心理的アプローチの視点からは,心理的な面に着目して現実の捉えや支援方法が考えられることが多かったが,そのことばかりでなく,現実の影響力や経験の不十分さの影響の多大さが改めて視野に入るようになった変化を感じている。同時に,「人」の存在の有効性や精神的成長という認識が高くなっていることも近々の研究で理解された。一方問題点としては,金銭の使用法,栄養のバランスや孤独感に明確に目が向けられるようになったことも確認された。(2017年日本教育心理学会報告)この点については,社会的な教育の効果の一面もあるといえるだろう。しかし浮かび上がった課題として,一人で具体的な対策の方法を立てにくいということも分かってきた。その点で,起こった,または起こりそうな問題への対象療法的な方法を模索することに終始せざるを得ない事態も起こるということが認識された。こうした一連の学びのもと,目下,施設退所者が自立―一人での生活―のための力をつけていくために,どのように働きかけたらよいかをさらに深く考えるために,当該者や同世代の者への調査や面談を行い,重要点を抽出することを目的に研究・実践を進めた。その途中経過を報告し,さらに発展させるために考察することを本報告の目的とする。 

方  法
実施方法
 意識調査(「自立に関するアンケート」)と面談(施設出身者への面談)を行う。
調査参加者
1) 施設出身者(青年)
2) 施設以外の社会的養護経験者
3) 非施設出身者(同世代者)
 参加者は,いずれも青年期の女性。リスクの高さという点で,それに関する予備調査の結果をもとに、女性のみの参加者の認識の分析を行う。
手続き
 アンケート形式の調査を行った後に,面談などで内容を深める形で,認識されていることを細かく検討する。
 アンケートは,「(一人暮らしでの)自立生活(と表現した)に関すること」と題し,1)自立生活で困りそうなこと,2)自立生活での楽しみ,3)自立生活での注意点,4)5)将来展望に関すること
を自由記述式で行った。面談は、このアンケート内容を軸に一人暮らしへの展望というテーマでの対話形式で行った。

結  果
 対話形式の結果は記録化したものを,アンケートは自由記述の文章を,共にテキストマイニング実行ソフトR3.2での分析を中心に行った。
 結果として,施設出身者,非施設出身者で共通する回答例も多かった。まず,①が最も共通性が高かった。全調査参加者の回答で共通に多かったのは、「金銭」「食生活」の記述であった。また,③の注意点も似通った回答が見られ,最も多かったのが、「セキュリティ関連」であった。続いて,「健康管理」や「家事・掃除」などが挙がり,それ以外では個々の課題と直結する内容の回答であった。⑤将来の展望では,精神的な面について回答する者、具体的な職業を書く者,漠然とした回答をする者と広範囲にわたった。
 面談では,施設出身者は,対策の具体案はあまり出ず,非施設出身者は,具体案が種々表出されていた。施設以外の社会的養護経験者は,ひじょうに具体的な対策案に絞られ回答だった。

考  察
 青年期という点を除いて比較検討すると、自立生活に対して必要な,内的外的経験や視野を広げることが重要であることが示唆された。必要なことを実現するための具体案を思いついたり,すぐに実行できないと心理的に持ちこたえられず,生活自体が崩れる傾向も見られた。今後は内的外的体験の質と充実の検討の探求が不可欠であろう。