日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA61] 小学生から大学生までを対象にした知的障害や発達障害の理解教育に関する研究の動向

西館有沙1, 水野智美2, 徳田克己3 (1.富山大学, 2.筑波大学, 3.筑波大学)

キーワード:障害理解教育, 研究の動向, 発達障害

本稿の目的
 本稿では,わが国における知的障害や発達障害の理解促進のための教育に関する研究が,現在までにどのように進められているかを明らかにするため,先行研究の内容を分類するとともに,それぞれの変遷や特徴をまとめた。
方  法
 2000年から2017年にかけて公開された,日本の小学生から大学生までの対象に向けた知的障害や発達障害の理解教育に関する文献(学会誌や研究会誌,大学等の紀要)を対象とした。対象には,教育プログラム作成や実践,教育の効果検証,教育対象の障害に関する認識等を調べたもの,教員の教育経験や考えを調べたものなどを含めた。なお,専門職養成の短期大学・大学における障害理解教育は対象に含めていない。
2018年2月に,論文検索サイトCiniiを用いて「障害・理解」,「障害・意識」,「障害・認識」,「障害・イメージ」,「障害・態度」の用語の組み合わせによる論文検索を行った。2000年から2017年までに公開されている文献の題目から条件に合致していると思われる文献を取り寄せ,その内容から分析対象に含めるかどうかを判断した。その結果,分析対象となった文献数は,知的障害に関するもの(以下,知的障害)が30編,発達障害に関するもの(以下,発達障害)が27編,両方を含むもの(以下,両方)が7編の計64編であった。

結  果
(1)学習者の認識等に関する研究(20編)
 学習者の認識等に関する研究は,知的障害が11編,発達障害が9編であった。知的障害論文は2001年から2008年の間に公開されているのに対して,発達障害論文はいずれも2009年以降に公開されており,2008年の発達障害者支援法の制定を受けて研究が進んだものと考えられる。研究の対象は知的障害,発達障害ともに短大・大学生(一部は高校生を含む)が多かった(20編中16編)。残りの3編は小学生であったが,いずれも交流相手や障害のあるクラスメートに対する認識を調べたものであった。残る1編は,小学生と中学生を対象としており,発達障害の行動特性に対する認識を調べたものであった。
(2)教員の教育経験等に関する研究(6編)
 教員の教育経験や考えを調べた研究は知的障害で2編,発達障害で4編あった。これらのうち1編は,障害理解教育の模擬授業を受けた教員養成校の学生の認識を調べたものであった。残り5編は小・中学校の教員を対象にしており,高等学校以上の教員を対象にした研究はなかった。また,小・中学校教員が対象の論文は,在籍する障害児や交流児に関する児童生徒の理解促進のための指導経験や認識を問う内容であった。
(3)教育の実践や効果検証に関する研究(33編)
 教育実践や教育効果の検証に関する研究は知的障害が15編,発達障害が11編,両方が7編であった。発達障害については,2010年より前の論文が2編と少なかった。また,2010年より前の論文は,特別支援学校や学級との交流や共同学習をテーマとするものがほとんどであった(11編中9編)。2010年以降は,交流・共同学習が22編中7編,授業等での実践が16編であった(重複計数が1編有)。1998年に告示された学習指導要領において,交流や共同学習の推進が大きく取り上げられたことで,2000年からの10年間は交流等に焦点をあてた研究が多かったものの,徐々に障害理解の促進を目的とした授業実践の報告や教育効果の検証を行った研究が発表されるようになってきていることがうかがえる。
(4)その他(5編)
 その他には,発達障害を疑似体験できる機器の開発,教材の有効性の検証,教育の段階モデルの作成といった研究が取り組まれていた。