日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB14] 大学での授業法の違いによる知識の定着の検討

講義と講義形式以外との比較

戸田まり (北海道教育大学)

キーワード:大学教育, アクティブ・ラーニング, 参加型授業

問  題
 将来の予測が困難な現代において大学教育の質的転換が求められている。従来,大学の授業,特に基礎的な講義科目においては多くの知識を学生に伝授するという側面が強かったが,現在では常に情報を更新しながら新たな内容に挑戦していく人材の育成が求められており,こうした力を育てるためのひとつの方法としてアクティブ・ラーニングを活用した授業が注目されている。しかし大学の授業において学生に伝えるべき情報は多く,本当にアクティブ・ラーニングを利用した授業で多くの知識が定着するのかについて不明な点もある。そこで本研究では,新たな知識の獲得と理解が到達目標の一部である大学の大教室講義においてアクティブ・ラーニング的な手法を取り入れ,スライドを用いた講義のみの回との間で知識の定着率を比較した。

方  法
調査対象者 対象となったのは大学の教員養成課程での免許科目「授業A」および「授業B」の受講者,それぞれ71名と58名である。2つの授業は幼児児童生徒の発達と学習に関するもので,内容および進め方がほぼ同一で実施時期のみが異なる。いずれも1年次学生の必修科目であり両授業とも報告者が15回すべての回を一人で担当した。
授業の概要 授業は基本的にはスライドと板書を中心とした講義主体であるが,三分の一程度の回に受講者が能動的に活動できる内容を設定した。それらはスライドを利用した実験デモンストレーション,個別にアンケートに回答し自分で採点した後に講義内容について考えるアンケート体験,およびペアやグループでの意見交換と話し合いである。
調査内容 事前の既有知識と全15回の授業後の知識とを比較するため,初回と最終回に授業内容についての質問を行った。これらは成績評価とは別個に行われた。質問は15項目で,授業内でカバーされる内容について4つの選択肢の中から正しいものをひとつ選ぶ方式である。初回調査は授業が始まる時点で行い,最後の授業時に同様の教示を行い,同じ質問に対する回答を求めた。

結果と考察
 講義のみの授業形式で取り扱った内容を問う問題と,それ以外の受講者の活動を組み合わせた授業形式での内容を問う問題とに分け,双方の授業前後の平均正答率を算出した。結果をFig.1,Fig.2に示す。初回正答率は授業Aが55%前後であり,終回の調査では「活動あり」授業に関する問題への平均正答率が83.8%,「講義のみ」授業に関する問題では70.3%であった。授業Bでは初回が50%と60%であり,終回はどちらの教授法でも80%程度であった。時期(初回・終回)と授業法(活動あり・講義のみ)の二要因分散分析を行ったところ,時期の主効果が有意であり(F(1,13)=16.37, ,p<0.01),交互作用が有意傾向であった(F(1,13)=3.54, p<0.10)。授業Bでは時期の主効果のみが有意であった(F(1,13)=17.73, ,p<0.01)。授業Aの結果から,アクティブ・ラーニング的な活動を取り入れた授業での内容は,スライドなどを使用した講義のみの授業よりも知識の定着が高くなる可能性が示された。本研究では反転授業などは行っておらず,協同学習もごく一部短時間に限られている。こうした授業形態がどのような機序で学習者の学びに寄与するかの詳細な検討は今後の課題である。