日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

2018年9月15日(土) 13:00 〜 15:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB33] VRによる学習が課題価値と学習方略に与える影響

江聚名1, 石井僚2, 田中あゆみ3 (1.同志社大学大学院, 2.奈良教育大学, 3.同志社大学)

キーワード:仮想現実, 課題価値, 学習方略

問題と目的
 生徒の理科への興味・関心が,生涯を通じた理科の学習や科学技術の職業選択をある程度予測できることから,先進工業国において生徒の理科への興味・関心が低いことは重要な問題とされている(小倉, 2008)。また, 1995年から2015年計6回のIEA国際数学・理科教育動向調査によると,国際平均に比べて,日本の中学生は理科学習の楽しさや実社会との連関に対して肯定的な回答する割合が大きく下回る。(国立教育政策研究所,2015)。
 このような理科離れの原因として,暗記偏重の授業形式(名越,2011)や理科の教科としての難しさ(加藤,2008)が挙げられる。Situational Interest Theoryによると,元々の動機づけが高かったにせよ,その場で喚起された興味にせよ,学習者は学習方法・形式に価値を感じた際により努力する(Mayer, 2008; Schiefele, 2009)。しかし,学習方法・形式が退屈な場合,元々の動機づけが高くても努力を阻害する恐れがある(Wigfield, Tonks & Klauda, 2016)。
 仮想現実(Virtual Reality, 以下VRと称す)のような新奇性または没入感をもたらす技術は,従来の会話式の授業よりその場で学習者の興味や課題に対する価値を喚起することが可能である(Kintsch, 1980)。さらに,VRは即時に適切なフィードバックを与えることによって,学習者の深い学習に導くことができると考えられる(Wade, 1992)。本研究はVRを使用することによって,学習者の生物学に対する課題価値及び学習方略に与える影響について検討する。

方  法
 実験参加者 英語または中国語が母国語である,大学生または大学院生20名が実験に参加した(女性4名;平均年齢25.15歳)。
 材料 学習課題として「The Body VR: Journey Inside a Cell」の英語版と中国語版を使用した。課題価値の測定は解良・中谷(2014)の課題価値評価尺度を用いた。さらに,学習方略の測定は藤田・冨田(2012)の自己調整学習方略尺度を用いた。VR HMDはHTC Viveを使用した。
 手続き まず,すべての参加者に生物学に対する課題価値および学習方略を回答させた(Pre)。そして,カウンターバランスを取ったうえで,参加者にVRもしくはパソコンで学習課題を見ってもらい,その後もう一度生物学に対する課題価値および学習方略を回答させた(Post)。

結果と考察
 記述統計の結果をTable 1に示した。VRの使用が学習者の課題価値及び学習方略に与える影響を検討するために,postの課題価値と学習方略を目的変数,それらpreの値を共変量,また学習方法(VRもしくはパソコン)を説明変数とした共分散分析を実施した。その結果,VRによる学習をした場合はパソコンによる学習した場合よりも,生物学に対する課題価値得点と,学習方略の得点が有意に高かった (F(1, 18) = 8.097, p = .011, η2 = .310; F(1, 18) =5.898, p = .026, η2 = .247)。
 本研究から,VRを使用することによって,課題価値が高まる可能性が示された。VRによる学習はより臨場感やリアリティをもって,学習内容を疑似的に体感できることが,課題への価値づけにつながる可能性がある。また,本研究から,VRによる学習はより深い自己調整学習方略を導く可能性も示された。Durik, Vida and Ecclesは(2006)学習者が学習内容に対して価値を認知することが,有効な学習方略の使用に対して,促進的な影響を持つと報告した。VRによる学習は,学習内容を体験的に理解させることができるため,学習者が自己調整をしながら学習するという,深い理解に結びつくような学習方略を促すことができたと思われる。
 課題価値は,学業へのエンゲージメントや,学業に関連する選択行動を向上すると先行研究に指摘されている(e.g., Pintrich & De Groot, 1990; Wang & Eccles, 2013)。また,有効な学習方略の使用はより良い学業成績に繋がることも報告されてきた(宇惠, 2015; 赤松, 2017)。VRによる学習は課題価値や学習方略を介して,学業成績に影響を与えるかどうかについて,今後の課題として検討する必要がある。
(本研究はJPSP科研費17H07241の助成を受けた)