[PB61] 能動的注意制御機能が無気力感とQOLに及ぼす影響
キーワード:注意制御, アパシー, QOL
研究の背景と目的
無気力感(Apathy:アパシー)とは,「意識障害・認知障害・感情障害によらない動機付けの減弱」と定義されており,認知障害や感情的な悲嘆に起因するものではないことが示されている(Marin, 1990)。また,無気力感は「動機付けの欠如というような曖昧な心理学的概念で捉えるのではなく,目的に向けられた意図的な行動の量的な減少」と捉えられるようになり,「情動感情処理障害によるアパシー」「認知処理障害によるアパシー」「自己賦活障害によるアパシー」に分類されている(Levy & Dubois, 2006)。学校場面における無気力感は,Walters(1961)によってStudent Apathyとして提唱され,「学業に対する選択的な無気力」ばかりでなく,「友人関係や進路」などの生活全般に広まっているとされている(笠井, 1995)。生徒の不登校における主な要因として「無気力」があげられていることからも(文部科学省, 2015),無気力感の緩和が学校適応感を向上させ,不適応行動の予防につながると考えられる。そこで本研究では,中学生を対象に,能動的注意制御機能が無気力感と学校生活の質に及ぼす影響について検討することを目的とした。
方 法
調査対象者と手続き
東海圏に在籍する中学生235名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した。未回答および記入漏れを除いた215名の回答を分析対象とした。なお,本研究は,名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査承認を受けて実施された(倫理番号:209)。
調査材料
a) 中学生版QOL尺度(柴田ら, 2000):学校生活におけるQOLを測定する尺度である。「身体的健康」「情動的Well-being」「自尊感情」「家族」「友だち」「学校生活」の因子で構成されている(24項目5件法)。
b) やる気スコア(岡田ら, 1998):日常臨床における意欲低下の評価を測定するための尺度である。「陽性症状」と「陰性症状」の因子で構成されており(14項目4件法),Apathyの測定に用いた。
c) Voluntary Attention Control Scale(VACS;今井ら, 2014):能動的注意制御機能を測定するための尺度である。「選択的注意」「転換的注意」「分割的注意」の因子で構成されている。(18項目6件法)。
結 果
Figureに示した構造モデルを作成し,共分散構造分析を用いて各変数間の影響を検討した(GFI=.969, AGFI=.919, RMSEA=.090)。その結果,VACSからApathyに負の影響が示された(β= -.64, p<.001)。ApathyからQOLには負の影響が示された(β= -.83, p<.001)。
考 察
本研究の結果から,中学生における無気力感は学校生活の質を著しく低下させる要因であることが改めて明らかとなった。しかしながら,このような無気力感は,能動的注意制御機能を促進することによって,改善可能であることも示唆された。本研究の対象者は,前頭前野機能の発達が加速する中学生であることを考えると,本研究で得られた注意制御に関する知見は,「教育心理学」と「保健教育学」が共有できる重要な論点を含んでいる。つまり,学習場面で重要視される「やらなければいけないこと(勉強・作業)に意識的に集中する」という教育心理学的能力を身につけていくことは,単に学習能力を促進させるだけではなく,学校適応感や精神的健康を促進することと関連しているという保健教育学的な要素も含んでいるといえる。今後は,注意制御の座である前頭前野背外側部の機能を直接高める注意訓練やマインドフルネスのトレーニングを中学生の生徒に適応し,健康的に動機付けを維持する取り組みを行うことは教育学的意義が深い取り組みとして期待できる。
無気力感(Apathy:アパシー)とは,「意識障害・認知障害・感情障害によらない動機付けの減弱」と定義されており,認知障害や感情的な悲嘆に起因するものではないことが示されている(Marin, 1990)。また,無気力感は「動機付けの欠如というような曖昧な心理学的概念で捉えるのではなく,目的に向けられた意図的な行動の量的な減少」と捉えられるようになり,「情動感情処理障害によるアパシー」「認知処理障害によるアパシー」「自己賦活障害によるアパシー」に分類されている(Levy & Dubois, 2006)。学校場面における無気力感は,Walters(1961)によってStudent Apathyとして提唱され,「学業に対する選択的な無気力」ばかりでなく,「友人関係や進路」などの生活全般に広まっているとされている(笠井, 1995)。生徒の不登校における主な要因として「無気力」があげられていることからも(文部科学省, 2015),無気力感の緩和が学校適応感を向上させ,不適応行動の予防につながると考えられる。そこで本研究では,中学生を対象に,能動的注意制御機能が無気力感と学校生活の質に及ぼす影響について検討することを目的とした。
方 法
調査対象者と手続き
東海圏に在籍する中学生235名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した。未回答および記入漏れを除いた215名の回答を分析対象とした。なお,本研究は,名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査承認を受けて実施された(倫理番号:209)。
調査材料
a) 中学生版QOL尺度(柴田ら, 2000):学校生活におけるQOLを測定する尺度である。「身体的健康」「情動的Well-being」「自尊感情」「家族」「友だち」「学校生活」の因子で構成されている(24項目5件法)。
b) やる気スコア(岡田ら, 1998):日常臨床における意欲低下の評価を測定するための尺度である。「陽性症状」と「陰性症状」の因子で構成されており(14項目4件法),Apathyの測定に用いた。
c) Voluntary Attention Control Scale(VACS;今井ら, 2014):能動的注意制御機能を測定するための尺度である。「選択的注意」「転換的注意」「分割的注意」の因子で構成されている。(18項目6件法)。
結 果
Figureに示した構造モデルを作成し,共分散構造分析を用いて各変数間の影響を検討した(GFI=.969, AGFI=.919, RMSEA=.090)。その結果,VACSからApathyに負の影響が示された(β= -.64, p<.001)。ApathyからQOLには負の影響が示された(β= -.83, p<.001)。
考 察
本研究の結果から,中学生における無気力感は学校生活の質を著しく低下させる要因であることが改めて明らかとなった。しかしながら,このような無気力感は,能動的注意制御機能を促進することによって,改善可能であることも示唆された。本研究の対象者は,前頭前野機能の発達が加速する中学生であることを考えると,本研究で得られた注意制御に関する知見は,「教育心理学」と「保健教育学」が共有できる重要な論点を含んでいる。つまり,学習場面で重要視される「やらなければいけないこと(勉強・作業)に意識的に集中する」という教育心理学的能力を身につけていくことは,単に学習能力を促進させるだけではなく,学校適応感や精神的健康を促進することと関連しているという保健教育学的な要素も含んでいるといえる。今後は,注意制御の座である前頭前野背外側部の機能を直接高める注意訓練やマインドフルネスのトレーニングを中学生の生徒に適応し,健康的に動機付けを維持する取り組みを行うことは教育学的意義が深い取り組みとして期待できる。