日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD50] ひきこもり状態にある人の来談行動維持プロセスに影響を及ぼす諸要因の検討

門倉愛1, 野中俊介2, 嶋田洋徳3 (1.早稲田大学, 2.東京未来大学, 3.早稲田大学)

キーワード:ひきこもり, 来談

問題と目的
 ひきこもり状態にある人(以下,ひきこもり本人)は,相談機関を継続的に利用している場合,利用していない場合よりも問題行動は減少する傾向にあることが示されている(境他,2007)。その一方で,ひきこもり本人の来談はきわめて少ないという現状があり(伊藤他,2003),ひきこもり本人の来談の生起に焦点を当てた研究が行われてきた(川原・境,2007;川原・境,2009)。しかしながら,来談が生起しても維持しないケースが少なくないことが示されており(NPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会,2016),問題行動の持続的な低減のためには,来談の生起だけではなく来談の維持も課題であると考えられる。これまで,ひきこもり本人の来談の維持には,ニーズに合わせた支援の提供がポジティブな影響を及ぼすことが示されている(川原・境,2008)。また,ひきこもり本人の行動を強化できる家族の関わりが関連する可能性が指摘されている(境他,2015)。以上のような要因が来談の維持に影響を与えることが考えられるが,体系的な来談の維持プロセスそのものについては必ずしも明らかにされているとは言いがたい。
 そこで本研究では,ひきこもり本人が来談行動の維持に至るプロセスを記述的に検討することを目的とした。

方  法
研究参加者:ひきこもり経験者(7名,平均年齢40.8±8.0歳)を対象とした。そのうち,相談機関の利用を中断した経験のある経験者4名を「中断あり群」,相談機関の利用を中断した経験のない経験者3名を「中断なし群」として分類した。
調査材料:(a)相談行動に対する意欲(被援助志向性尺度;田村・石隈,2001),(b)相談行動の結果予期(相談行動の利益・コスト尺度;永井・新井,2008)。
手続き:本研究にて作成された項目を用いて半構造化面接を実施し(平均67.8±22.8分),加えて調査材料への回答を求めた。面接内の発話は研究参加者の同意を得てICレコーダーに録音した。なお,本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の承認を得て実施された(承認番号:2017-129)。
分析方法:面接内の発話内容の録音記録をデータ化し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA:木下,2003)を用いて分析を行った。

結果と考察
 発話内容を概念化した結果,ひきこもり本人の来談行動の維持プロセスにおいて,Figure 1に示す関係図が得られた。
 まず,ひきこもり本人は相談機関の情報と接触し,来談することによるポジティブな結果予期が生じることで,来談意欲が高まり,来談の生起に至ることが示された。また,来談開始直後は,相談機関からの共感的態度を受け,サポート知覚を得ることによって,相談機関がひきこもり本人にとって安心して通える場所となるというプロセスが得られた。一方で,来談一次過程に至っても,サポート知覚を得られない,または,サポート知覚を得られても現状からの変化を期待できないと来談中断過程に至ることが示唆された。
 さらに,相談機関に通い,ひきこもり状態に対する肯定を受けるようになると,ひきこもることで生じていた不快感情が緩和される傾向にあることが示された。そして,相談機関から仕事やボランティアの紹介を受け,続けられることで充実感を得られるようになり,これらの変化を感じることで,来談の継続に至ることが示唆された。
 以上の結果をふまえると,来談を長期的に継続するためにはサポート知覚を得られるような「共感的態度」のみでは不十分であり,ひきこもり本人の「不快感情の緩和」や,「社会的な充実感」を得られる支援の必要性が示された。また,ひきこもり本人が来談中断後に再度の来談に至るためには,「現状を打破したい」という認知が重要であることが示された。