日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

2018年9月16日(日) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD61] 学校地域連携による子どものSOS支援に向けたSEL-8S試行的実践の効果検証

吉永真理1, 重根美香2, 小泉令三3 (1.昭和薬科大学, 2.株式会社早稲田大学アカデミックソリューション, 3.福岡教育大学)

キーワード:中学生, SEL-8S, 学校地域連携

はじめに
 社会性と情動の学習(SEL)にはさまざまなプログラムがある。SEL-8Sはすべての子どもを対象とした予防教育として全般的社会的能力の育成を目的としている1)。SELの実施と持続に向けては,①エビデンスの実証,②実施方法のあり方,③学校での実施を支援する地域の仕組み,が重要とされる2)。著者らは学校と地域が協力して子どもたちの全般的な生活適応力の向上を目指し,また悩みやSOSを受け止め,支える仕組み作りを自治体の子ども部局と連携して遂行している。仕組みの構築には学校で実施されている生徒の全般的社会的能力向上プログラムの内容を地域に発信し,学校地域協働でその効果を高めることの意義についての理解を広げる必要がある。さらに支援を要する生徒のための二次予防には地域のサポート力向上が不可欠で,支援できる人材育成が求められる。本報告では学校行事に連動したSEL-8Sの試行的実践の事前事後評価結果を教員及び地域にフィードバックし,実践のエビデンスとして学校地域連携の仕組みづくりに資することを目的としている。

対象と方法
 対象はモデル地域の中学校の生徒671人である。SEL-8Sの試行的実践の事前事後に質問紙調査を実施し,実施に関わる要因(学年間比較と学校行事とプログラムの連動)と生徒のメンタルヘルスの影響について検討した。主な質問項目は「自己効力感」(自己制御と自他尊重,共感性と他者理解,リスク回避12項目α=0.79),「自己有用感」(存在感・貢献,承認・関係性10項目α=0.91)3),WHO-5による精神健康状態関連項目である。

結  果
1)自己効力感と自己有用感の変化
 1-2年生は自己効力感について,事後の方が事前より点数が下がった。3年生では「自己制御」「関係性」について,事後の方が高かった。
 自己有用感では,1年生は「貢献」と「関係性」に関わる項目が低くなり,2年生は「関係性」が低下した。3年生は4つの下位尺度得点がすべて高くなり,特に「貢献」が有意に上がった。
2)メンタルヘルスとの関係
 WHO-5について13点をカットオフポイントとして抑うつ傾向有無の事前事後変化で4群に分けた。傾向なしからありに変わった群で「存在感・貢献」と「承認・関係性」で有意な得点低下が見られた。

考  察
 試行的実践では年間行事との連動を重視した。入学間もない時期に1年生は身辺整理について学び,体育祭で多様な役割を担う2-3年生は校内活動におけるボランティア性について学んだ。自己効力感や自己有用感が事前より事後で向上した3年生は,プログラムと行事のマッチングがよかった可能性がある。担当した教員のやり方が効果に反映されるとする報告1)があるが,本結果からも担任のモチベーションやスキルを高める事前協議,情報共有の重要性を指摘し得る。メンタルヘルスとプログラム効果には関連があり,悪化群に関しては介入を視野に置いた継続観察が重要である。

註:
1)小泉・山田(2011)社会性と情動の学習(SEL-8S)の進め方(中学校編)
2)小泉(2016)教育心理学年報55:203-217
3)1)及び栃木県教育センターの尺度から抜粋した項目等で構成している。
本研究は日工組社会安全研究財団の助成を受け行った。