日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

2018年9月17日(月) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG18] 学級満足度尺度(Q-U)と自尊感情の変化の関係性

河内歩美1, 梶井芳明2 (1.東京学芸大学大学院, 2.東京学芸大学)

キーワード:学級満足度尺度(Q-U), 自尊感情, 評価

問  題
 本研究の目的は,学級満足度尺度(以下,Q-U)を平素の学級づくりに役立てる方策について,基礎的資料を提言することである。具体的には,Q-Uと学級づくりをつなぐ概念として自尊感情を用い,自尊感情を育む学級づくりがQ-Uの結果に及ぼす影響を明らかにする。

方  法
1 調査対象 都内公立小学校の2~6年生の児童及び各クラスの担任教諭のうち,データに不備があった者を除いた児童471名,教師16名を対象者とした。また,対象校では,「自尊感情を高めるエクササイズ」が年間計画として実施された。具体的には,自己理解,他者理解,自己受容,自己表現・自己主張,感受性の促進,信頼体験の6つをエクササイズのねらいとし,1学期は「友達を知ること」,2学期は「友達とのかかわりを深めること」,3学期は「友達と協力して課題を解決していくこと」と段階を踏んだエクササイズが,各学年の児童の実態に応じて行われた。
2 手続き 5月と11月にQ-Uの調査を実施した。また,7月と12月に自尊感情測定尺度(東京版)を用いた質問紙調査(自己評価・他者評価)を実施した。
3 調査内容 (1)学級満足度尺度(Q-U):「承認得点」と「被侵害得点」の結果から,「学級生活満足群」「侵害行為認知群」「非承認群」「学級生活不満足群」(「学級生活不満足群(要支援)」)の4つ(5つ)の群に分類する。
(2)自尊感情(自己評価):児童を対象に,A自己評価・自己受容,B関係の中での自己,C自己主張・自己決定の3観点からなる22項目について,4件法で回答を求めた。
(3)自尊感情(他者評価):教師を対象に,1.人への働き掛け,2.大人との関係,3.友達との関係,4.落ち着き,5.意欲,6.場に合わせた行動,の6観点からなる24項目について,4件法で回答を求めた。

結果と考察
 低・中・高学年それぞれの1回目と2回目のQ-Uの結果の推移を検討するために,各群の1回目と2回目の人数についてx2検定を行ったところ,低学年では学級生活不満足群(要支援)から学級生活不満足群に,中学年では学級生活不満足群から侵害行為認知群に,高学年では学級生活不満足群から非承認群に移動した児童が有意に多くなったことが示された。
 一方,児童を対象にした自尊感情の変化については,中学年では3観点すべてが高くなり,低学年と高学年では観点A「自己評価・自己受容」において変化が見られた。また,教師による他者評価については,低学年と中学年と高学年の評定平均値の結果から,6観点すべてが高くなることが示された。
 以上のような変化が示された理由として,低学年の児童は,楽しみながら友達と協力して課題を解決していくエクササイズや,集団の一員であることを実感できるような学級活動を行ったことで,友達との仲が深まり,友達に認められていると感じることが出来るようになった(A「自己評価・自己受容」),つまり学校生活に徐々に慣れてくることで,友達との上手な接し方を学ぶことが出来るようになり,「被侵害得点」が低くなったのではないか,と推察される。
 中学年の児童は,学級の友達のことを知ったり,自分のことを紹介したりするエクササイズや,協力し合って解決する学級活動を行ったことで,自分のことを相手に伝え,認めてもらえること(A「自己評価・自己受容」,C「自己主張・自己決定」)や,役割を意識して周りの友達と協力できていると感じること(B「関係の中での自己」)ができるようになった,つまり学級などで自分自身の役割を意識することができるようになり,「承認得点」が高くなったと推察される。
 高学年の児童は,教科と関連させたエクササイズや,自分の考えや思いを伝える学級活動を行ったことで,自信をもって自分の考えや思いを表現することが出来るようになった(A「自己評価・自己受容」),つまり高学年になるにつれて学習の進度など個々で違いが見られるようになるが,一人ひとりの違いを認めるようになり,冷やかすことがなくなり,「被侵害得点」が低くなったのではないか,と推察される。

付  記
 本研究は,府中市立若松小学校の平成29年度の校内研究「自ら課題に立ち向かおうとする子 人とよりよくかかわる子~自己肯定感を高める活動を通して~」の一環として実施した。