日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-76)

2018年9月17日(月) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PG38] 中学校社会科公民的分野における「現代社会をとらえる見方や考え方」を高める指導の工夫

「効率と公正」に焦点をあてて

久保裕司1, 梶井芳明2, 山浦龍太郎#3 (1.昭島市立瑞雲中学校, 2.東京学芸大学, 3.昭島市立瑞雲中学校)

キーワード:「効率と公正」, ふくらみ, 深まり

問題と目的
 従来の学習指導要領社会では,「見方や考え方」という表記がなされてきたが,新学習指導要領(2017)では,「見方や考え方」が定義し直され,「見方・考え方」と表記されることとなった(澤井・加藤2017)。この定義のし直しの中で,現行の学習指導要領と新学習指導要領の変更点として「現代社会をとらえる見方や考え方」が「現代社会を捉える枠組み」となることも挙げられる(澤井・加藤2017)。
そこで本研究では,「現代社会をとらえる見方や考え方」の理解を深めるために,特に「効率と公正」について理解を深めることができるような,話し合い活動を重視した単元モデルを示し,「効率と公正」の理解の深まりを検証することを目的とする。

方  法
研究の対象 本研究は,東京都内の市立中学校第3学年3学級(以下A学級・B学級C学級)を対象に行った。時期は,9月上旬から中旬であった。
研究の仮説 「効率と公正」の理解を深めるうえで有用であると考えられる,話し合い活動によって,「効率と公正」をイメージできるような単元モデルを導入すると,質問項目「効率と公正,それぞれの理解は深まったか」の自己評定の値が単元前調査に比べ単元後調査において高くなる。
研究の方法 「効率と公正」について理解を深めることができるような話し合い活動と,「効率と公正」をつなげたり,ふくらませたりする手立てとしてイメージマップを使用し,「効率と公正」の理解の深まりを検証する。
話し合い活動の課題 4つ部活動における体育館での活動日について話し合い活動を行う。活動日程は,平日の2週間(10日)とする。体育館の使用面積は,バスケットボール部・バドミントン部が全面,卓球部が2/3面,剣道部が1/3面使用する。そしてバスケットボール部と卓球部は1週目の週末,バドミントン部と剣道部は2週目の週末に大会がある。この条件で部活動の日程を4人1班が各部活の部長と想定し決める。

結果と考察
(1)理解の深まりと学級間の違いについて
まず,単元前と単元後を比較して「効率と公正,それぞれの理解は深まったか」という項目の自己評定について学級間での違いを明らかにするため,分散分析(混合計画:学級(3)×時期(2))を行った。分析の結果,学級と時期の相互作用及び,学級の主効果は有意でなく(学級×時期:F(2,81)=.89,n.s.,学級:F(2,81)=.59,n.s.),時期の主効果が,0.1%水準で有意であった(F(1,81)=24.38,p<.001)。
(2)理解の深まりにみる各学級の違いについて
分散分析(混合計画)の結果,時期の主効果が有意であったことから,A学級,B学級,C学級のそれぞれは「効率と公正」について理解は深まったことが示唆された。そこで,各学級の生徒が何を手掛かりにして理解を深めようとしたのかを明らかにするために,「『効率と公正』について理解は深まったか」についての自己評定値を従属変数,「それぞれの言葉(『効率と公正』)はつながったか」「それぞれの言葉(『効率と公正』)のイメージはふくらんだか」の自己評定値を独立変数とした重回帰分析を行った(Figure 2)。
 分析の結果,C学級の単元前は,それぞれの言葉のつながりと「効率と公正」の理解の深まりにほとんど関係がない(.079, n.s.)ことが示され,それぞれの言葉のイメージのふくらみと「効率と公正」の理解の深まりに中程度の正の相関(.631, p<.05)がみられた。単元後は,それぞれの言葉のイメージのふくらみと「効率と公正」の理解の深まりの相関の値が高くならなかった(.568, p<.001)一方で,それぞれの言葉のつながりと「効率と公正」の理解の深まりの相関の値は高くなった(.398, p<01)。さらに,重決定係数の値も.485(p<.001)から.836(p<.001)と高まることが示された。
 以上のことから,特にそれぞれの言葉のイメージのふくらみが「効率と公正」の理解の深まりに影響することが示唆された。これは,生徒らが,具体的な事象を前にした話し合い活動によって「効率と公正」をイメージすることが可能となり,「効率と公正」の理解を深める一因となったと推察される。

付  記
本研究は,第一著者が,第二著者および第三著者の指導のもと,平成29年度に東京学芸大学教職大学院に提出した課題研究をまとめたものである。