[PH52] 大学保健室スタッフのメンタルヘルス支援における精神的疲労の研究
メンタルヘルス支援が保健師,看護師におよぼす影響
キーワード:大学保健室, 看護職, 共感疲労
問題と目的
現在,大学でメンタルヘルスの不調を訴える学生の対応は,心理の専門家である精神科医やカウンセラーにとどまらず,大学保健室スタッフである保健師,看護師にも課せられている。水田・巽(2012)は,大学保健室の看護職者がメンタルヘルス支援に取り組む問題点として,(1)専門家のカウンセリングを必要とするケースが潜在すること,(2)1件あたりに要する時間が長く他の業務に支障を来たすこと,(3)相談内容により精神的な疲労が大きいことを指摘している。そこで本研究では,大学保健室における学生のメンタルヘルス支援が,看護職者にどのような精神的疲労をおよぼすのか検討する。
方 法
調査対象:国内の国公私立26大学39キャンパスの保健室に勤務する保健師42名,看護師50名,計92名(保健室勤務平均8.45年)
調査方法:質問紙調査
調査材料:(a)デモグラフィック項目,(b)感情労働尺度(荻野・瀧ヶ崎・稲木,2004),(c)多次元的対人感情尺度(以下Ko-MulDIA尺度)(今・菊池,2007),(d)バーンアウト尺度(久保・田尾, 1994)
結 果
確認的因子分析:感情労働尺度は「感情表出の要求」(α=.88),「感情的不協和」(α=.81)の2因子,Ko-MulDIA尺度は「二次的トラウマティックストレス」(α=.91),「共感的苦痛」(α=.72),「否認感情」(α=.63)の3因子,バーンアウト尺度は「脱人格化」(α=.88),「個人的達成感の減退」(α=.79),「情緒的消耗感」(α=.81)の3因子が確認された。
t検定:保健室勤務が平均値より長い群(n=36,M=15.60年,SD=6.00)と短い群(n=56,M=3.85年, SD=2.42)を独立変数,感情労働尺度,Ko-MulDIA尺度のそれぞれの下位因子得点を従属変数としてt検定を行った。その結果,否認感情においてのみ有意差が見られた(t(90)=—2.04,p<.05,勤務長群<勤務短群)。
構造方程式モデリング(SEM):各尺度の因果関係を調べるために構造方程式モデリングによる分析を行った(Figure1)。モデルの適合指標は,χ2=27.96,df=.15,p<.05,GFI=.930,AGFI=.833,
RMSEA=.097,AIC=69.96で一定のモデル適合度が示された。第1水準はKo-MulDIA 3因子,第2水準は感情労働2因子,第3水準はバーンアウト3因子であった。第1水準のKo-MulDIAから第2水準の感情労働,そして第3水準のバーンアウトへの流れで有意なパス係数が示された。
考 察
確認的因子分析において,新たな因子構造を得られたことから,大学保健室という職場がいわゆる患者を対象とする臨床現場とは異なることが示されたと推察される。調査対象者の77.2%を占める40代~50代の看護職者にとって,大学生という年代は自身の子どもの年代と重なる場合も多く,相談内容によっては,過度な共感をしたり,多大な精神的負荷を受けやすいと推察される。
t検定の結果から,経験によって補うことができるのは,多様化・深刻化する学生の困難をありのまま受けとめるという点にあると思われる。その一方で,看護職者かつ保健室スタッフとしての役割葛藤や共感による精神的疲労については,経験があっても自己コントロールしにくいことが示唆される。
構造方程式モデリングの結果から,看護職者の精神的疲労は,学生の相談内容に共感することから始まり,役割葛藤のストレスを経て蓄積されるのではないかと考えられる。
メンタルヘルス支援を行ううえで共感は欠かせないが,過度な共感には弊害があることを自覚して支援にあたることが大切であると考えられる。
現在,大学でメンタルヘルスの不調を訴える学生の対応は,心理の専門家である精神科医やカウンセラーにとどまらず,大学保健室スタッフである保健師,看護師にも課せられている。水田・巽(2012)は,大学保健室の看護職者がメンタルヘルス支援に取り組む問題点として,(1)専門家のカウンセリングを必要とするケースが潜在すること,(2)1件あたりに要する時間が長く他の業務に支障を来たすこと,(3)相談内容により精神的な疲労が大きいことを指摘している。そこで本研究では,大学保健室における学生のメンタルヘルス支援が,看護職者にどのような精神的疲労をおよぼすのか検討する。
方 法
調査対象:国内の国公私立26大学39キャンパスの保健室に勤務する保健師42名,看護師50名,計92名(保健室勤務平均8.45年)
調査方法:質問紙調査
調査材料:(a)デモグラフィック項目,(b)感情労働尺度(荻野・瀧ヶ崎・稲木,2004),(c)多次元的対人感情尺度(以下Ko-MulDIA尺度)(今・菊池,2007),(d)バーンアウト尺度(久保・田尾, 1994)
結 果
確認的因子分析:感情労働尺度は「感情表出の要求」(α=.88),「感情的不協和」(α=.81)の2因子,Ko-MulDIA尺度は「二次的トラウマティックストレス」(α=.91),「共感的苦痛」(α=.72),「否認感情」(α=.63)の3因子,バーンアウト尺度は「脱人格化」(α=.88),「個人的達成感の減退」(α=.79),「情緒的消耗感」(α=.81)の3因子が確認された。
t検定:保健室勤務が平均値より長い群(n=36,M=15.60年,SD=6.00)と短い群(n=56,M=3.85年, SD=2.42)を独立変数,感情労働尺度,Ko-MulDIA尺度のそれぞれの下位因子得点を従属変数としてt検定を行った。その結果,否認感情においてのみ有意差が見られた(t(90)=—2.04,p<.05,勤務長群<勤務短群)。
構造方程式モデリング(SEM):各尺度の因果関係を調べるために構造方程式モデリングによる分析を行った(Figure1)。モデルの適合指標は,χ2=27.96,df=.15,p<.05,GFI=.930,AGFI=.833,
RMSEA=.097,AIC=69.96で一定のモデル適合度が示された。第1水準はKo-MulDIA 3因子,第2水準は感情労働2因子,第3水準はバーンアウト3因子であった。第1水準のKo-MulDIAから第2水準の感情労働,そして第3水準のバーンアウトへの流れで有意なパス係数が示された。
考 察
確認的因子分析において,新たな因子構造を得られたことから,大学保健室という職場がいわゆる患者を対象とする臨床現場とは異なることが示されたと推察される。調査対象者の77.2%を占める40代~50代の看護職者にとって,大学生という年代は自身の子どもの年代と重なる場合も多く,相談内容によっては,過度な共感をしたり,多大な精神的負荷を受けやすいと推察される。
t検定の結果から,経験によって補うことができるのは,多様化・深刻化する学生の困難をありのまま受けとめるという点にあると思われる。その一方で,看護職者かつ保健室スタッフとしての役割葛藤や共感による精神的疲労については,経験があっても自己コントロールしにくいことが示唆される。
構造方程式モデリングの結果から,看護職者の精神的疲労は,学生の相談内容に共感することから始まり,役割葛藤のストレスを経て蓄積されるのではないかと考えられる。
メンタルヘルス支援を行ううえで共感は欠かせないが,過度な共感には弊害があることを自覚して支援にあたることが大切であると考えられる。