日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF10] 心の理論に関する研究 

教育と関連した内容の検討

岡田郁子 (旭川大学)

キーワード:心の理論、教育

目  的
 プレマックは,「心の理論」を他者の目的・意図・知識・信念・思考・疑念・推測・ふり・好みなどの内容が理解できれば,その動物または人間は「心の理論」を持つと定義した。その後、健常な子どもにおいて「心の理論」はいつどのように発達するのかなど研究がすすめられてきた。昨今,気づく力の低下が懸念されているが,看護大学生における状況把握の面でも気づく視点の少なさ,相手の感情理解などに変化が生じている。他者の内面理解ができ,将来的にはあらゆる状況に気付き,知識をもとに判断して行けるよう支援していくが,まずは現代の一般的な「心の理論」の研究動向を把握し,その発達過程を理解し支援に役立てていきたいと考えた。
方  法
 データベースは医中誌WEB;VER.5,CINIIを用いて「心の理論」「教育」をキーワードに2009年~2019年までの過去10年間における原著論文に限定し検索した。検索された文献は182件で,この中から重複した論文,キーワードに「心の理論」の記述がないもの,および対象者が健常者および定型発達者以外のものは除外し,34件を最終分析対象とした。
結  果
 対象者は幼児期から成人まで多岐にわたり,参加観察3件,実験研究18件,実態調査(アンケート調査・聞き取り調査)9件,文献検討4件であった。絵本の読み聞かせで,「心の理論」の「共感的心の理論」(心の理解・感情理解)に焦点をあて,心の理論課題を通過しないとされる3歳児と課題を通過すると言われる5歳児を中心に比較検討し,3歳児は知識として何かを持ち記憶を留め相手の心を推察することは5歳児より未発達であるが,絵本を媒体にした親子の対話や親の子どもの発言への協応的反応が「共感的心の理論」を促進されていた。年齢低群の兄弟のいない子どもは,兄弟のいる子どもと比較して心の理論の発達が遅れるが,年長段階になると心の理論を獲得していた。幼児を対象に,バイリンガルの語彙の切り替え能力は状況や人を理解する力高めていた。"思いやり的嘘"の成績が良いほど心の理論の成績も良かった。小学校以降の学習で行われている「振り返り」活動について,幼稚園児に実践しエピソード分析を行い,メタ認知の発達のため子どもの内面に焦点を当てメタ認知の芽生えや促進する教師の関わりが重要であり,主体的な学びを支え,幼小接続期の教育の学びの連続性・一貫性が生じるとともに,教員自身も「振り返り」の認識がかわっていた。運動会の前に比べて後の方が幼児の不意移動課題に対する成績が向上し,他者の心的状態を考慮する行為を数多く行っていた幼児の方が,運動会へ向けた取りくみのプロセスを通して経験が得られ,心の理論の発達プロセスに影響するとされていた。また,乳児期と幼児期は大きな認知発達の違いがあり,幼児期において大きな認知発達の達成がなされ,そのことがその後の児童期の認知発達の基礎を形成する。役割遊びにおいて他者の視点に立ち,そこで他者の感情や行動を考えることが「心の理論」と関連し,現実経験と結びついた予測やプランニングといった認知発達が遊びの中で促進され,心の理論や言語発達につながり,初期の象徴遊びはさまざまな物への子どもの志向性を高め,心的状態語の獲得やみたての柔軟性と関連していた。誤信念の理解が5,6歳児の円滑な社会的相互作用の構築の基盤ともなっていた。
 小学校では,1年生から2年生にかけて心の理論が大きく成長しており,この時期の教育実践において心の理論の成長を支援していくことが必要である。児童期においてロールプレイはマインドリーディングにポジティブな影響を及ぼし,他者の心の理解が未発達な子どものほうがロールプレイの効果がより強く表れ,成人では反応時間がロールプレイによって速くなる。 
 大学生の心の理論の特徴として,他者の視点を客観視する能力が未熟なこと,他者の意図の理解が未熟なこと,知識や経験・社会的役割の認識の不足によって他者の心の状態の推論が未熟であることが明らかにされていた。
考  察
 「心の理論」発達には,学習支援の基本であるありのままの姿を受け入れ対話や発言への協応的反応など,相手の個性を尊重し肯定的に捉え,向き合い,内面を捉え,自己の成長を認識させながらメタ認知の芽生えや促進にむけ教師が関わることが重要である。心を読むためのシステムとして「意図検出器」「視線方向検出器」「共有注意の機構」「心の理論の機構」があり,いくつになっても発達への支援は有効であるとの見解もある。これらを意識し,リフレクションなど多面的に物事を捉えるための支援など看護教育への適応を更に検討していく。