[PF58] 中学生における注意制御能力とアパシー傾向および学校QOLとの関連
キーワード:注意制御、アパシー、QOL
研究の背景と目的
無気力感(Apathy)とは,「意識障害・認知障害・感情障害によらない動機付けの減弱」と定義されている(Marin,1990)。近年,無気力状態の低年齢化が問題視されており,児童生徒の有するアパシー傾向は学校QOLを低下させることが示唆されている(笠井ら,1995)。その背景には,中学生という発達段階は自己や環境に対する制御不全感を感じやすいことや(牧ら,2003),前頭前野機能の不活性化が関連することが報告されている(Levy & Dubois, 2006)。中学生の不登校を引き起こす主な要因として「無気力」があげられていることからも(文部科学省,2018),無気力感の緩和は学校適応の向上と不適応行動の予防に結びつくことが考えられる。しかしながら,従来までの心理医学的介入においては,薬物療法及び非薬物療法ともに効果的な方法は確立されていない。
そこで本研究では,前頭葉の発達期である中学生における注意制御機能とアパシー傾向及び学校QOLとの関連性について検討することを目的とした。
方 法
1. 調査対象と手続き
東海圏に在籍する中学生235名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した。未回答および記入漏れを除いた215名の回答を分析対象とした。なお,本研究は,名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査承認を受けて実施された(倫理番号:209)。
2. 調査材料
a) 中学生版QOL尺度(柴田ら,2000):学校生活におけるQOL全般を測定するための尺度である。「身体的健康」「情動的Well-being」「自尊感情」「家族」「友だち」「学校生活」の6因子で構成されている(24項目5件法)。
b) やる気スコア(岡田ら,1998):日常臨床における意欲低下の評価を測定するための尺度である。「陽性症状」と「陰性症状」の2因子で構成されている(14項目4件法)。
c) Voluntary Attention Control Scale(VACS;今井ら,2014):能動的注意制御機能を測定するための尺度である。「選択的注意」「転換的注意」「分割的注意」の因子で構成されている(18項目6件法)。
結 果
各尺度間の相関係数を算出した結果,ApathyはQOLと注意制御機能との間に有意な負の相関を示した(QOL:r=-.718 / 注意制御機能:r=-.548, ps.<.001)。QOLの下位因子ごとに詳細に検討した結果,Apathyは「身体的健康」「情緒的well-being」「自尊感情」「友達」との間に有意な負の相関を示した(身体的健康:r=-.458 / 情緒的well-being:r=-.613 / 自尊感情:r=-.549 / 友達:r=-.613,ps<.001)。
考 察
本研究の結果を概観すると,無気力感は学校QOLと注意制御機能との間で有意な負の相関が示された。すなわち,中学生における無気力感は学校QOLを低減させる要因となることが示唆され,先行研究と一致する結果となった。また,学校QOLを詳細に検討すると,無気力感は「身体的健康」「情緒的well-being」「自尊感情」「友達」との間で有意な負の相関を示していた。これらのことから,無気力感は心身症状のみならず,友人関係の質をも低下させることが示唆された。また,注意制御機能は無気力感と学校QOLとの間においても有意な正の相関が認められたことから,注意制御機能を促進することは無気力感や学校QOLを改善できることが考えられる。
注意制御機能は前頭前野背外側部の一部によって制御されており,青年期にかけて発達することが報告されている(苧阪,2000)。今後は本知見を活かし,中学生を対象にした能動的注意制御機能スキルを獲得することを目的とした「注意訓練」の継続的な介入的検討とその作用機序について明らかにすることが期待される。
無気力感(Apathy)とは,「意識障害・認知障害・感情障害によらない動機付けの減弱」と定義されている(Marin,1990)。近年,無気力状態の低年齢化が問題視されており,児童生徒の有するアパシー傾向は学校QOLを低下させることが示唆されている(笠井ら,1995)。その背景には,中学生という発達段階は自己や環境に対する制御不全感を感じやすいことや(牧ら,2003),前頭前野機能の不活性化が関連することが報告されている(Levy & Dubois, 2006)。中学生の不登校を引き起こす主な要因として「無気力」があげられていることからも(文部科学省,2018),無気力感の緩和は学校適応の向上と不適応行動の予防に結びつくことが考えられる。しかしながら,従来までの心理医学的介入においては,薬物療法及び非薬物療法ともに効果的な方法は確立されていない。
そこで本研究では,前頭葉の発達期である中学生における注意制御機能とアパシー傾向及び学校QOLとの関連性について検討することを目的とした。
方 法
1. 調査対象と手続き
東海圏に在籍する中学生235名を対象に質問紙を用いた一斉調査を実施した。未回答および記入漏れを除いた215名の回答を分析対象とした。なお,本研究は,名古屋学芸大学研究倫理委員会の審査承認を受けて実施された(倫理番号:209)。
2. 調査材料
a) 中学生版QOL尺度(柴田ら,2000):学校生活におけるQOL全般を測定するための尺度である。「身体的健康」「情動的Well-being」「自尊感情」「家族」「友だち」「学校生活」の6因子で構成されている(24項目5件法)。
b) やる気スコア(岡田ら,1998):日常臨床における意欲低下の評価を測定するための尺度である。「陽性症状」と「陰性症状」の2因子で構成されている(14項目4件法)。
c) Voluntary Attention Control Scale(VACS;今井ら,2014):能動的注意制御機能を測定するための尺度である。「選択的注意」「転換的注意」「分割的注意」の因子で構成されている(18項目6件法)。
結 果
各尺度間の相関係数を算出した結果,ApathyはQOLと注意制御機能との間に有意な負の相関を示した(QOL:r=-.718 / 注意制御機能:r=-.548, ps.<.001)。QOLの下位因子ごとに詳細に検討した結果,Apathyは「身体的健康」「情緒的well-being」「自尊感情」「友達」との間に有意な負の相関を示した(身体的健康:r=-.458 / 情緒的well-being:r=-.613 / 自尊感情:r=-.549 / 友達:r=-.613,ps<.001)。
考 察
本研究の結果を概観すると,無気力感は学校QOLと注意制御機能との間で有意な負の相関が示された。すなわち,中学生における無気力感は学校QOLを低減させる要因となることが示唆され,先行研究と一致する結果となった。また,学校QOLを詳細に検討すると,無気力感は「身体的健康」「情緒的well-being」「自尊感情」「友達」との間で有意な負の相関を示していた。これらのことから,無気力感は心身症状のみならず,友人関係の質をも低下させることが示唆された。また,注意制御機能は無気力感と学校QOLとの間においても有意な正の相関が認められたことから,注意制御機能を促進することは無気力感や学校QOLを改善できることが考えられる。
注意制御機能は前頭前野背外側部の一部によって制御されており,青年期にかけて発達することが報告されている(苧阪,2000)。今後は本知見を活かし,中学生を対象にした能動的注意制御機能スキルを獲得することを目的とした「注意訓練」の継続的な介入的検討とその作用機序について明らかにすることが期待される。