13:45 〜 14:00
[R2-O-4] 飛騨帯に産する変成炭酸塩岩の岩石学・同位体地球化学:ドロマイト質大理石の可能性
キーワード:飛騨帯、変成炭酸塩岩、大理石、ドロマイト質大理石、かんらん石
変成炭酸塩岩(変成炭酸塩堆積物)は造山帯には普遍的に産し、その鉱物組成共生関係や同位体組成に着目した岩石学・地球化学的研究は、変成炭酸塩岩の原岩と変成条件の束縛だけでなく、流体の起源と流体–岩石相互作用などの定量的な議論を可能にする(Harada et al. 2021a; Ogasawara et al. 2000; Satish-Kumar et al. 2010 など)。一般に、造山帯の変成炭酸塩岩の多くは珪酸塩鉱物を含み、炭酸塩鉱物との変成反応によってCO2を放出する。従って、その脱炭酸変成反応の理解は地殻におけるCO2(及び含CO2流体)の挙動を明らかにする上でも重要である。本講演では飛騨帯の角閃岩相からグラニュライト相変成作用を被った変成炭酸塩岩の新知見を紹介し、さらに、ドロマイト質大理石を用いた地質記録解読の可能性についても紹介する。
ペルム紀〜三畳紀の大陸縁の地殻断片を主体とする飛騨帯は、過去20年間に年代学の進展があったが(Harada et al. 2021b; Sano et al. 2000; Takehara and Horie 2019など)、岩石学・地球化学的研究は停滞していた。最近、Harada et al. (2021a) は飛騨帯に産するドロマイトを含まない大理石及び石灰珪質岩についてマイクロサンプリングによる炭酸塩鉱物の炭素 (C)–酸素 (O)の微少量同位体組成分析を行い、幅広いC–O同位体組成を報告した (δ13C = −4.4 to +4.2‰ [VPDB]、δ18O = +1.6 to +20.8‰ [VSMOW])。とりわけ、低いδ13C(δ13C = −4.4 to –2.9‰)の石灰珪質岩は、炭酸塩鉱物と珪酸塩鉱物との間での脱炭酸反応によるδ13C低下を示す。また、多くの大理石試料のδ13Cは炭酸塩堆積物の範囲内であるものの、脱炭酸反応によりCa単斜輝石を形成し、脱炭酸反応の程度に応じてδ13C値はばらつく。一方、δ18Oは炭酸塩堆積物に比べて低く、水流体や珪酸塩鉱物との同位体交換を記録する。しかしながら、δ18Oの改変は認められるものの、Sr同位体比(87Sr/86Sr)は炭酸塩堆積物のそれに近い値で、初生的な同位体比を保持している可能性が高い。飛騨帯の変成炭酸塩岩の多くはドロマイトを含まない、いわゆる大理石であるが稀にドロマイト質大理石も産する。ドロマイト質大理石は含Mg方解石 + ドロマイト + かんらん石(Fo~93–94;一部蛇紋石化)の鉱物組み合わせを持ち、少量の金雲母やクリノヒューマイトなどを含む。含Mg方解石は顕著なドロマイトの離溶組織を呈し、大理石では読み解くことのできない熱史の解析を可能にする。また、かんらん石には初生的な流体包有物が保存されており、脱炭酸変成反応に関与した流体及び蛇紋石化に関与した水流体など、高い地殻熱流量で特徴付けられた大陸縁の地殻流体の実像を解明できる可能性がある。
引用文献
Harada, H. et al., 2021a. Island Arc 30, e12389. doi: 10.1111/iar.12389
Harada, H. et al., 2021b. Lithos 398–399, 106256. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106256
Ogasawara, Y. et al., 2000. Island Arc 9, 400–416. doi: 10.1046/j.1440-1738.2000.00285.x
Sano, Y. et al., 2000. Geochem. J. 34, 135–153. doi: 10.2343/geochemj.34.135
Satish-Kumar, M. et al., 2010. Lithos 114, 217–228. doi: 10.1016/j.lithos.2009.08.010
Takehara, M., Horie, K. 2019. Island Arc 28, e12303. doi: 10.1111/iar.12303
ペルム紀〜三畳紀の大陸縁の地殻断片を主体とする飛騨帯は、過去20年間に年代学の進展があったが(Harada et al. 2021b; Sano et al. 2000; Takehara and Horie 2019など)、岩石学・地球化学的研究は停滞していた。最近、Harada et al. (2021a) は飛騨帯に産するドロマイトを含まない大理石及び石灰珪質岩についてマイクロサンプリングによる炭酸塩鉱物の炭素 (C)–酸素 (O)の微少量同位体組成分析を行い、幅広いC–O同位体組成を報告した (δ13C = −4.4 to +4.2‰ [VPDB]、δ18O = +1.6 to +20.8‰ [VSMOW])。とりわけ、低いδ13C(δ13C = −4.4 to –2.9‰)の石灰珪質岩は、炭酸塩鉱物と珪酸塩鉱物との間での脱炭酸反応によるδ13C低下を示す。また、多くの大理石試料のδ13Cは炭酸塩堆積物の範囲内であるものの、脱炭酸反応によりCa単斜輝石を形成し、脱炭酸反応の程度に応じてδ13C値はばらつく。一方、δ18Oは炭酸塩堆積物に比べて低く、水流体や珪酸塩鉱物との同位体交換を記録する。しかしながら、δ18Oの改変は認められるものの、Sr同位体比(87Sr/86Sr)は炭酸塩堆積物のそれに近い値で、初生的な同位体比を保持している可能性が高い。飛騨帯の変成炭酸塩岩の多くはドロマイトを含まない、いわゆる大理石であるが稀にドロマイト質大理石も産する。ドロマイト質大理石は含Mg方解石 + ドロマイト + かんらん石(Fo~93–94;一部蛇紋石化)の鉱物組み合わせを持ち、少量の金雲母やクリノヒューマイトなどを含む。含Mg方解石は顕著なドロマイトの離溶組織を呈し、大理石では読み解くことのできない熱史の解析を可能にする。また、かんらん石には初生的な流体包有物が保存されており、脱炭酸変成反応に関与した流体及び蛇紋石化に関与した水流体など、高い地殻熱流量で特徴付けられた大陸縁の地殻流体の実像を解明できる可能性がある。
引用文献
Harada, H. et al., 2021a. Island Arc 30, e12389. doi: 10.1111/iar.12389
Harada, H. et al., 2021b. Lithos 398–399, 106256. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106256
Ogasawara, Y. et al., 2000. Island Arc 9, 400–416. doi: 10.1046/j.1440-1738.2000.00285.x
Sano, Y. et al., 2000. Geochem. J. 34, 135–153. doi: 10.2343/geochemj.34.135
Satish-Kumar, M. et al., 2010. Lithos 114, 217–228. doi: 10.1016/j.lithos.2009.08.010
Takehara, M., Horie, K. 2019. Island Arc 28, e12303. doi: 10.1111/iar.12303