3:15 PM - 3:30 PM
[R4-O-3] The thermal structure of the NE Honshu arc crust: insight from P-wave and S-wave velocities
Keywords:Thermal structure, Honshu arc, crust
地球の歴史において地球内部は時間とともに冷却していると考えられているが、地球内部の放射性元素、特にウラン、トリウム、カリウムの放射性崩壊は継続的に熱を発生している。地球は膨大な熱を放出しており、地球から宇宙へ放出される熱フラックスは44テラワット(Pollack et al., 1993 Reviews of Geophysics)もしくは31テラワット(Hofmeistar, 2005 Tectonophysics)という数値が得られている。しかし、原始地球誕生に由来する「残留原始熱」と放射性元素の崩壊による「放射性崩壊熱」の相対的な寄与は不確かなままであり、「放射性崩壊熱」の見積もりが重要な課題となっている(例えばKorenaga 2011 Nature Geoscience)。地殻は、大陸で約40km、島弧で約20‐30㎞、海洋底で約7kmの厚さであり、固体地球に占める体積はわずかであるが、地球にあるウラン、トリウムのおよそ半分が地殻に濃縮していると予想されている。しかし、熱源になる放射性元素が、地殻内部のどこにどれくらいあるのかは明確にはなっていない。近年では、神岡鉱山跡でウランやトリウムなどが崩壊するときに放射される反電子ニュートリノ(地球ニュートリノ)を観測することで(Araki et al., 2005 Nature)、熱源になる放射性元素の分布を解明しようとする研究が行われており(The KamLAND Collaboration 2011 Nature Geoscience)、放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明することは固体地球の熱放出プロセスと固体地球の熱進化に関する研究において非常に重要な課題となっている。
地殻内部の放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明する上で、地殻内部の温度構造は重要な情報である。岩石学的研究や数値シミュレーションによるマントルウェッジの温度分布モデルによると、東北日本のモホ面の最高温度は約1000℃と推定されている(例;Tatsumi et al., 1983 JGR; Honda, 1985 Tectonophysics)。一方、坑井の温度計測から地温勾配を見積もると(田中他, 2004 日本列島及びその周辺域の地温勾配及び地殻熱流量データベース)、東北日本の地温勾配は広範囲で50℃/kmを超えており、東北日本の下部地殻の温度は1000~1500℃程度という超高温となってしまう。このようなソリダスやリキダスを超える下部地殻では広域に部分融解や全融解が起きることになり、現実の火山活動を説明できないという問題が生じる。坑井の温度計測による地温勾配は地殻浅部の温度構造の解明には有効であるが、地殻深部の温度分布の推定にはそのまま適用はできない。このような背景から、地殻内部の放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明するためには、地殻深部の温度分布を高精度に三次元的に見積もる新たなアプローチが必要となる。そこで本研究では、新たなアプローチとして、地殻内部の地震波速度から温度成分を抽出し、地殻内部の高精度な温度構造を明らかにすることを目的とした。
上部マントルの代表的な構成岩石はかんらん岩であり、上部マントルの地震波速度は大局的には温度構造を反映すると考えられる。一方、島弧地殻の場合、マントルと比較して地殻は構成岩石が多様かつ不均質であり、地震波速度は岩石種と温度に大きく影響されるために、地震波速度から地殻内の温度構造を見積もることが容易ではない。発表者らの研究グループによる高温高圧下の岩石の弾性波速度測定実験によると、P波速度(Vp)とS波速度(Vs)には温度依存性が明確である一方、Vp/Vsは温度依存性が極めて小さく、岩石種に大きく依存することがわかってきた。したがって、地殻の地震波速度から同一岩石種(一定範囲のVp/Vs)の地震波速度を抽出することで地震波速度を温度成分として読み取ることが可能となる。本研究において地震波速度から推定した東北本州弧地殻深部の温度分布は微小地震の深度分布から推定された温度構造(例えばHasegawa et al., 2000 Tectonophysics)と類似しており、奥羽脊梁山脈に沿って温度の高低が認められる。また、本研究の温度分布は地質との対応も見られ、中新世リフト地殻では低温になっている。この低温は玄武岩と花崗岩の熱拡散率の違いでは説明できないほど大きく、放射性元素の崩壊熱の違いを反映していると予想される。「マントルからの熱輸送と地殻の放射性元素の崩壊熱の割合が地域間でどのような不均質さを持つのか」つまり「熱源になる放射性元素が、地殻内部のどこにどれくらいあるか」という学術的問いに回答を与えるものとして今後の研究が期待される。
地殻内部の放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明する上で、地殻内部の温度構造は重要な情報である。岩石学的研究や数値シミュレーションによるマントルウェッジの温度分布モデルによると、東北日本のモホ面の最高温度は約1000℃と推定されている(例;Tatsumi et al., 1983 JGR; Honda, 1985 Tectonophysics)。一方、坑井の温度計測から地温勾配を見積もると(田中他, 2004 日本列島及びその周辺域の地温勾配及び地殻熱流量データベース)、東北日本の地温勾配は広範囲で50℃/kmを超えており、東北日本の下部地殻の温度は1000~1500℃程度という超高温となってしまう。このようなソリダスやリキダスを超える下部地殻では広域に部分融解や全融解が起きることになり、現実の火山活動を説明できないという問題が生じる。坑井の温度計測による地温勾配は地殻浅部の温度構造の解明には有効であるが、地殻深部の温度分布の推定にはそのまま適用はできない。このような背景から、地殻内部の放射性崩壊熱とその熱源の分布を解明するためには、地殻深部の温度分布を高精度に三次元的に見積もる新たなアプローチが必要となる。そこで本研究では、新たなアプローチとして、地殻内部の地震波速度から温度成分を抽出し、地殻内部の高精度な温度構造を明らかにすることを目的とした。
上部マントルの代表的な構成岩石はかんらん岩であり、上部マントルの地震波速度は大局的には温度構造を反映すると考えられる。一方、島弧地殻の場合、マントルと比較して地殻は構成岩石が多様かつ不均質であり、地震波速度は岩石種と温度に大きく影響されるために、地震波速度から地殻内の温度構造を見積もることが容易ではない。発表者らの研究グループによる高温高圧下の岩石の弾性波速度測定実験によると、P波速度(Vp)とS波速度(Vs)には温度依存性が明確である一方、Vp/Vsは温度依存性が極めて小さく、岩石種に大きく依存することがわかってきた。したがって、地殻の地震波速度から同一岩石種(一定範囲のVp/Vs)の地震波速度を抽出することで地震波速度を温度成分として読み取ることが可能となる。本研究において地震波速度から推定した東北本州弧地殻深部の温度分布は微小地震の深度分布から推定された温度構造(例えばHasegawa et al., 2000 Tectonophysics)と類似しており、奥羽脊梁山脈に沿って温度の高低が認められる。また、本研究の温度分布は地質との対応も見られ、中新世リフト地殻では低温になっている。この低温は玄武岩と花崗岩の熱拡散率の違いでは説明できないほど大きく、放射性元素の崩壊熱の違いを反映していると予想される。「マントルからの熱輸送と地殻の放射性元素の崩壊熱の割合が地域間でどのような不均質さを持つのか」つまり「熱源になる放射性元素が、地殻内部のどこにどれくらいあるか」という学術的問いに回答を与えるものとして今後の研究が期待される。