日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R3[レギュラー]噴火・火山発達史と噴出物

[1ch511-13] R3[レギュラー]噴火・火山発達史と噴出物

2021年9月4日(土) 13:00 〜 14:00 第5 (第5)

座長:長谷川 健

13:30 〜 14:00

[R3-O-3] (招待講演)安山岩~デイサイト質火山のマグマ供給系の解明について:
岩石学的事例研究

*伴 雅雄1 (1. 山形大学)

キーワード:マグマ供給系、地殻上部から下部に散在するマグマ、深部から上昇するマグマ、地殻内マグマプロセス、鉱物組織

火山のマグマ供給系の解明に有効なもののひとつに岩石学的研究がある。本発表では、岩石学的研究によって明らかになってきた地殻内マグマ供給系の全容について概観した後、主に安山岩~デイサイト質火山の地殻内マグマ供給系に関する解明すべき主要な事項について、岩石学的解析方法や得られている成果などを、発表者が携わったものも含む事例研究を基にして紹介する。
◇地殻内マグマ供給系の全体像:主に岩石学的な研究結果を基にして、地殻内マグマ供給系の全容について簡単にまとめると次のようになる。地殻下部は苦鉄質マグマの注入・固結・マグマ抽出等が繰り返し起こり、マグマ組成を複雑に変化させる領域と捉えられる。抽出されたマグマは上昇・冷却し、半固体状マグマ溜りが地殻(中~)上部に多数存在するようになる。新たに上昇したマグマが、半固体状のマグマ溜りを活性化しメルト量を増大させるなどして噴火に至るというものである。活性化される部分は単一火山下でも噴火毎に異なる場合が多い。
◇地殻上部のマグマ溜りの存在位置や特性:単一の火山の岩石学的データを基に解析できるのは、地殻(中~)上部についてである場合が多い。例えば沈み込み帯の安山岩質火山の場合は、噴出物はマグマ混合によって形成されたものからなる場合が多いが、その全岩組成と含まれる斑晶の組織・組成を解析することによって、混合に関与した地殻上部に位置する半固体状マグマと深部から上昇したマグマの組成、温度や圧力などの条件を求めることができる。なお、この種の解析の際に、深部由来マグマの一部が急冷固結して噴出物中に残存している苦鉄質包有物を扱うと、両マグマの組成の推定等に際してより有用な情報が得られる。
◇地殻上部のいろいろな場所が活性化される場合が多い:噴火が繰り返している火山の場合に、噴出物の全岩化学組成を噴火時期毎に分けてみると各々異なっている場合が多い。その組成差が明瞭で、異なるもの同士の組成が結晶分化などの単純なプロセスでは説明がつかないという例も示されていることから、このような組成差は活性化される部分が時期毎に異なっていることによる可能性が高いと考えられる。なお、単一の噴火で異なる複数の場所が活性化され同時に噴出する場合もある。
◇斑晶組織と組成から推定されるマグマ溜り内プロセス:マグマ溜り内のプロセスの解析に斑晶組織や組成の情報を用いる場合が多い。中でも斜長石については多くの研究が行われている。例えば、混合によって形成された噴出物中の斜長石斑晶については、累帯構造・各種溶融組織や化学組成に基づいて分類され、各タイプの特徴からそれらをもたらしたプロセスやマグマ組成の変化などが推定される。なお、斜長石斑晶の組織・化学組成に基づく分類は研究者によってやや異なるので注意が必要である。また、一回~一連の噴火において連続的に採取された試料を用いれば、斑晶の特徴の変化を調べることによってプロセスの時間変化の解明が可能である。
◇供給系の持続時間について:20年ほど前から盛んに行なわれている累帯構造解析に基づく滞留時間推定の研究などによって、斑晶と思われていた結晶の幾つかあるいは多くが、それらを含む噴出物の噴火年代よりも古い時期に形成されたものであることがわかってきた。これらはantecrystと呼ばれ、過去のマグマ活動によって形成された後に供給系内に留まっていた結晶が噴出されたものである。antecrystの年代は、地殻上部より、深部に由来するの方がより古いものまで認められる傾向があり、供給系は深部の方が持続時間が長いと考えられている。
◇噴出物中に含まれる多様な深度由来の結晶について:さらに、斑晶中に含まれるメルト包有物の揮発性成分の分析結果や角閃石斑晶の生成深度推定の研究などの結果から、それらの斑晶が多様な深度で形成されたことを示す研究例が報告されるようになった。この場合は、噴火の際には中~上部の様々な深度に存在する結晶が深部由来のマグマに取り込まれて地殻上部に到達して地殻上部に存在するマグマ共々噴火すると説明されている。
◇地殻深部のマグマプロセスの解明:噴出物に記録されている岩石学的情報の多くは、地殻上部のマグマプロセスに起因するものである。地殻上部のマグマプロセスは噴火に直結するものとしても重要であり、今後さらなる精密化が望まれる。一方で、中部~深部については、例えば活火山下では広範囲に地震波の低速度領域が認められる場合が多く重要であると考えられるが、その領域のマグマプロセスについては全岩組成に残されている間接的な方法によって推定されている現状である。前項で示した多様な深さから由来した結晶が認められるようになってきた現在、それらを直接的に岩石学的に扱うことによって地殻(中部~)下部における供給系の解明が進むことが期待される。