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[T3-P-2] (エントリー)石英・滑石混合ガウジの摩擦特性から検証するスロースティック・スリップの発生メカニズム
キーワード:スロー地震、摩擦すべり実験、スティック・スリップ、層状珪酸塩鉱物、すべり速度・状態依存摩擦則
スロー地震は、継続時間と地震モーメントの違いから、スロースリップイベント(以下、SSEとする)、超低周波地震、低周波微動などに区分される(Obara and Kato, 2016)。室内の摩擦実験は、安定すべりやスティック・スリップなどの様々なすべり挙動が発生することから、地震発生メカニズムを理解する上で重要な研究手法である。スティック・スリップには、継続時間が短く、応力降下量が大きいファストスティック・スリップと、継続時間が長く、応力降下量が小さいスロースティック・スリップが存在する。スティック・スリップは、剛性比K = k/kc(kは装置のスティッフネス、kcは臨界スティッフネス)とすると、K < 1で発生することが知られている(例えば、Gu et al., 1984; Rice, 1983)。先行研究では、石英やソーダ石灰など1種類のガウジ試料で摩擦実験を行い、K ≈ 1の条件でスロースティック・スリップが起こることを明らかにしている(例えば、Scuderi et al., 2016; Leeman et al., 2018)。彼らの実験では、法線応力や載荷速度を変更することでKの値を変化させている。しかし、天然の断層では、石英や長石類からなる破砕岩片の周囲を、スメクタイトや滑石などの層状珪酸塩鉱物が取り囲んで存在する(例えば、Wintsch et al., 1995)。そこで、本研究では、石英と滑石からなる模擬ガウジ物質を使用し、ガウジ組成を変化させて摩擦実験を行った。
摩擦実験は静岡大学設置の一面剪断試験機を使用して行った。実験は、法線応力10 MPa、載荷速度0.66〜2.00 µm/s、室温で行った。結果は、滑石含有率が0〜2 wt.%のときにファストスティック・スリップが、4〜10 wt.%のときにスロースティック・スリップが発生した。また、4〜5 wt.%では定常的なスロースティック・スリップが発生した。速度・状態依存摩擦則の(a−b)値は滑石含有率0〜2 wt.%では−0.0021〜−0.0002で速度弱化挙動を示し、滑石含有率4〜10 wt.%では0.0001〜0.0012でわずかに速度強化挙動を示した。剛性比K = k/kcは、滑石含有率0〜2 wt.%では3.4〜38.4で K > 1となり、理論的な安定条件でファストスティック・スリップが発生した結果となった。
スティック・スリップ発生時の応力降下量は、応力降下継続時間の増加とともに0.592〜0.004 MPaへ減少し、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化した。すべり量も同様に、応力降下継続時間の増加とともに0.0622〜0.0001 mmへ減少し、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化した。以上より、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへの変化は、急激に起きるものではなく、遷移的に発生していると考えることができる。
実験後の試料の微細構造観察は、滑石含有率0〜10 wt.%の試料では、滑石含有率の増加に伴ってR1面、Y面がともに減少した。よって、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化すると、R1面、Y面がともに減少することがわかった。
本研究の結果から、層状珪酸塩鉱物の含有率の数%の違いが、ファストスティック・スリップやスロースティック・スリップ、安定すべり等のさまざまな摩擦挙動を発生させることがわかった。そのため、天然の断層においても、層状珪酸塩鉱物の溶解・析出等により含有量が変化すると、通常の地震から、SSE、安定すべりまで、同一の断層で発生する可能性があると考えることができる。
引用文献:Obara and Kato (2016), Science, 353, 253-257. Gu et al. (1984), J. Mech. Phys. Solids, 32, 167-196. Rice (1983), Pure Appl. Geophys, 121, 443-475. Scuderi et al. (2016), Nat. Geosci., 9, 695-700. Leeman et al. (2018), J. Geophys. Res.: Solid Earth, 123, 7931-7949. Wintsch et al. (1995), J. Geophys. Res.: Solid Earth, 100, 13021-13032. Summers and Byerlee (1977), Tectonophysics, 75, 243-255.
摩擦実験は静岡大学設置の一面剪断試験機を使用して行った。実験は、法線応力10 MPa、載荷速度0.66〜2.00 µm/s、室温で行った。結果は、滑石含有率が0〜2 wt.%のときにファストスティック・スリップが、4〜10 wt.%のときにスロースティック・スリップが発生した。また、4〜5 wt.%では定常的なスロースティック・スリップが発生した。速度・状態依存摩擦則の(a−b)値は滑石含有率0〜2 wt.%では−0.0021〜−0.0002で速度弱化挙動を示し、滑石含有率4〜10 wt.%では0.0001〜0.0012でわずかに速度強化挙動を示した。剛性比K = k/kcは、滑石含有率0〜2 wt.%では3.4〜38.4で K > 1となり、理論的な安定条件でファストスティック・スリップが発生した結果となった。
スティック・スリップ発生時の応力降下量は、応力降下継続時間の増加とともに0.592〜0.004 MPaへ減少し、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化した。すべり量も同様に、応力降下継続時間の増加とともに0.0622〜0.0001 mmへ減少し、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化した。以上より、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへの変化は、急激に起きるものではなく、遷移的に発生していると考えることができる。
実験後の試料の微細構造観察は、滑石含有率0〜10 wt.%の試料では、滑石含有率の増加に伴ってR1面、Y面がともに減少した。よって、ファストスティック・スリップからスロースティック・スリップへ変化すると、R1面、Y面がともに減少することがわかった。
本研究の結果から、層状珪酸塩鉱物の含有率の数%の違いが、ファストスティック・スリップやスロースティック・スリップ、安定すべり等のさまざまな摩擦挙動を発生させることがわかった。そのため、天然の断層においても、層状珪酸塩鉱物の溶解・析出等により含有量が変化すると、通常の地震から、SSE、安定すべりまで、同一の断層で発生する可能性があると考えることができる。
引用文献:Obara and Kato (2016), Science, 353, 253-257. Gu et al. (1984), J. Mech. Phys. Solids, 32, 167-196. Rice (1983), Pure Appl. Geophys, 121, 443-475. Scuderi et al. (2016), Nat. Geosci., 9, 695-700. Leeman et al. (2018), J. Geophys. Res.: Solid Earth, 123, 7931-7949. Wintsch et al. (1995), J. Geophys. Res.: Solid Earth, 100, 13021-13032. Summers and Byerlee (1977), Tectonophysics, 75, 243-255.